バウリンガル

 21世紀初頭にバウリンガルという機械が登場した
犬の鳴き声を読み取って液晶に犬の気持ちを表示するというものだ
今のヒューリンガルの原型になったといわれているものだ
ヒューリンガルとは思考を読み取り相手に伝える機械である
コレにより、全世界の人々が言葉を交わせるようになり便利になった
人々は皆コレをつけるようになった。

 はっきり言ってしまえば僕はヒューリンガルが好きではない。
確かに言葉の壁は無くなり情報の伝達も早く聞き間違いというものもなくなった
けれで、その機械から発せられる音は所詮機械の音でしかないと思うのだ。

 ある日僕が草むらで昼寝していると、歌声が聞こえてきた
それは機械を通した声ではなく生身の声だった
「それ歌?」
僕は思わず聞いてみた。すると歌を歌っていた女性は僕の横に座っていった
「うん。私歌を歌うの好きなの。機械を通さずにね。ほらあれってなんか嫌じゃない?」
そういって彼女は苦笑した。
「うん。僕もそう思うよ。でもすごいよね機械なしで声が出せるなんて」
そう、人々はヒューリンガルに頼るあまり声帯が弱り、機械なしでは声が出せなくなっていたのだ
しかし、それを気にしている人はそうはいない
「そうかな」
彼女はそういって照れくさそうに笑った

 それから僕と彼女はその場所で一緒にすごす時間が多くなった
その草むらは僕の家の目の前だったので僕はいつも彼女が来るのを楽しみに待っていた
彼女と話したり、彼女の話や歌を聴いているうちに僕はどんどん彼女に惹かれていった
僕は彼女のことが好きだ。
そう思ったとき、僕はヒューリンガルを外すことにした
この気持ちは生の声で言いたいと思ったからだ
「ねぇ。僕にもこの機械を外せるかな?」
僕は一度そう彼女にきいたことがある。
彼女は笑顔でこういった
「できるわよ。とても簡単なこと。ただ心から思えばいいの。自分の声で話したいって、それが力になるから」

「今日もいい天気」
僕はまた彼女と一緒に草むらに座っていた
「うん。そうだね」
今日は彼女に気持ちと伝えられるそんな気がした
「ん? どうしたの?」
彼女が真剣な顔をしている僕を見て不思議そうに笑った
今なら、言える。
思うんだ、彼女のことが好きだって。
生の声で言うんだ。
僕はヒューリンガルを取り外した。
言うぞ!
言うぞ!
好きだ! って
僕は思い切って口を開いた


「わんっ!」

「すごい、機械なしでもしゃべれるじゃない! さすが私のコロ」