二人の旅人がとある国にたどり着いた。
「ココが死なない国か?」
旅人の男のほうが言った。
「本当にあったのね」
連れの女が感心したように国を囲むようにして立っている壁を見上げた。その壁の外には
幅3メートルほどある堀があった。
しばらくすると、ゆっくりと門から橋が降りてきて道を作った。中から兵士風の姿をした男がでてきた。
「入国されますか?」
二人は顔を見合わせた。
「私は遠慮しておくわ。不死とか興味ないし」
「そうか? 俺はどんなものか見ていたいしな」
兵士はそのやりとりを聞くといった。
「では、男性は入国されるのですね。女性の方もよろしければ橋を渡ったところに宿舎が
ありますのでそこで休まれるといいですよ」
「ありがと」
二人は兵士に続いて橋を渡った。
女は宿舎に残り、男は兵士に連れられて中に入った。中に入ると一人の男が立っており、
旅人の男に頭を下げた。
「こんにちわ。旅人さん、私はこの国の大統領をしています。観光なら私が案内しますよ」
「そうですか? ありがとうございます」
男は大統領に頭を下げた。
「ではいきましょう」
国の中はいたって普通の様子だった。不死の国と聞いていた男は少し拍子抜けしてしまった
「いい国ですね」
「そうでしょう。皆生き生きをしてますでしょう」
自分の国を誉められたのが嬉しいのか上機嫌に大統領は答える。やはりどうみても言っては
悪いけれど、どこにでもある国だと旅人の男は思った。でも平和でいい国だなとも思った。
そこで男は不死の国などというのは所詮噂に過ぎなかったのだと思って笑ってしまった
「どうしたんですか?」
大統領が不思議そうに聞いてきた。
「いや、この国は不死の国だと聞いたんですよ。すごいデマもあったもんだなとを思いま
して。こんな平和な国にそんな噂を流すなんておかしくって」
「本当ですよ」
男は大統領の言葉に耳を疑った。
「え? なんですって」
「この国の住人は不死ですよ」
大統領ははっきりとそういって一冊の本を取り出した。
「コレは不死の本といいまして、この国ができた頃からあるんです」
それは真っ黒で少し分厚い本であった。
「この本に名前を書くと死んだ人も生き返るんです」
「そんな馬鹿な!」
男は笑った。
「そんな話があるもんですか」
うーんと大統領は困ったような顔をしていたが、ふと思いついたように懐から拳銃を取り
出すと、自分の頭を打ち抜いた。
「!?」
男が驚いて大統領に駆け寄る。大統領は地面に倒れると頭から血を流していた。が、しば
らくすると何事もなかったように立ち上がった。
「ね?」
大統領が得意そうに言った。
「私の名前はすでに書かれていますから」
「…すごい」
男は素直に感心していた。ただこのやり方は心臓に悪いからやめてほしかったとは思った
けれど。
「でも、万能と言うわけでもないですよ。この本に名前を書かれて生き返った人はこの国
の中でしか生きれません。この国を出ると再び死んでしまいます。まぁ、われわれは
この国から出る気がありませんから、不自由はないんですけどね」
はっはと笑いながら言う。
「しかしそれならば。人口が増えすぎたり、死にたくても死ねないんじゃ?」
男が聞くと自慢げに大統領は答えた。
「それは、大丈夫です。死にたいと思った人は言ってもらえればこの本から名前を消します
そうすれば、その人は死ねますから。それに不死であっても、不老ではないんですから
体がぼろぼろのおじいさんになっても生きていたいと思う人もいないでしょう?」
確かに理にはかなっているなと男は思った。
キキィと突然ブレーキ音が響いたのでそちらを振り向くとちょうど小さな男の子が車に
撥ねられたところだった。男は驚いてその少年に近づいた。しかし、その少年は男がつく
ころには立ち上がって何事もなかったかのように歩いていった。
「はっは。心配しなくても大丈夫ですよ。不死ですから」
男が唖然としているとふと、気がついたように聞いた。
「この国は車があるのに信号機がないんですね」
「ええ、撥ねられたところで困りませんから。まぁ一応人がいたらブレーキは踏めといって
ありますけれどね」
男は複雑な表情をしていた。
「すると、病院なんかも」
「ありません。ちなみに殺人も罪ではありませんよ」
「どうだった?」
宿舎で、待っていた連れの女が出てきた男を見て聞いた。男は複雑な表情を浮かべただけだ
「どうでしたか?」
宿舎にいた兵士が同じように聞いてきた。
「あんたはこの国の人なのかい?」
「いいえ。この宿舎に代々住んでいるんです」
男は「そうか」といって頷いた。
「この国に住みたいと思いますか?」
兵士が苦笑を浮かべながら言った。
「死んでも嫌だね」
兵士がその皮肉にまた苦笑を浮かべながらも頷いていた。女は一人わけが分からずキョロ
キョロと二人を見比べていた。