セブン

どこまでも続くように見える線路の上を僕達二人は歩いていた
もう廃線となったここには電車も通らない
僕のすぐ前を彼女がぴょんぴょんと楽しそうに飛び跳ねて歩いている

「ほら、急がないと日の出に間に合わないよ」
彼女がそう言ったので僕は少し歩く速度を上げて追いついた
「懐かしいねここ。昔はよく真奈ちゃんときてたよね」
真奈は僕達二人の子供の頃からの幼馴染だ
「ああ、よく子供の頃この電車に乗って海に行ったな」
彼女は懐かしそうに空を見つめている
小学生の頃を思い出しているのだろうか?
「あ、そうだ確か一度あんたが調子に乗って沖まで泳いでいって
 行方不明になったんだよね。ほんと心配したよ結局漁師の人に助けてもらってたけど」
「余計な事は思い出さなくていい…」
僕は頭を抱えながら言った
彼女はそんな様子がおかしかったのかくすくすと笑っている

「あっ」
彼女がそう言って見た方向には終点の駅のホームが見えた
彼女は小走りにホームに近寄るとプラットホームによじ登ろうとした
しかし、いかんせん背が低いせいか上手く登れないのかじたばたともがいている
僕はそんな様子を見てしばらく笑った後
先にプラットホームによじ登り手を差し出した
「相変わらず背が低いんだな」
僕がそういうと彼女は少しむくれながら
「あんたがでかくなっただけよ」
そう言ってきた

プラットホームに登り後ろを振り向くと
そこには朝焼けに染まった海が一面に見えていた
どうやら間に合ったらしい
「わぁ」
彼女はプラットホームを駆け下りると浜辺に走っていった、僕もそれに続く

僕達はただただ海を眺めていた…
どれだけの時間が流れただろう?
数分?それとも数秒かもしれない
彼女が沈黙を破って言葉を吐いた
「ありがと…」
彼女は海から視線を外さず遠い目をしながら言う
「ココに連れて来てくれて」
感謝なんかするな!
僕は心の中で叫んだ
「感謝してる」
彼女の言葉が僕の胸にのしかかる
彼女の言葉の一つ一つが僕を削っていく
「だから、そんな悲しい顔しないでよ」
彼女はそう言うと軽くジャンプして僕の首に腕を回して抱きついてきた
僕は彼女の背中にそっと手を回した
彼女の息遣いが耳元で聞こえる
「ほんとにありがと」

彼女がそう言った瞬間”びくん”と震えたかと思うと
腕から力が抜けてその場に崩れ落ちた
「姉さん!!」
僕はとっさに姉さんを抱き上げた
姉さんの背中には1本のナイフが刺さっていて
赤い液体が徐々に服に染み渡っていった
「姉さん!」
僕は血に染まった右腕で姉さんをもう一度抱き上げる
右腕には異様な感覚が張り付いて取れない
そうこれは”姉さんを刺した時の感触だ”―――






1年前姉さんは病気に感染している事がわかった
病名は『セブン』最近になって発見された原因不明の奇病だ
この病気は感染したときから7年後に必ず死ぬという不治の病だった
姉さんが感染したのは5年前…余命は後1年といわれた

この病気は感染してから7年経つと感染者の肺の構造を作り変える
それにより感染者は酸素が必要最低限しか吸収できなくなり
たえず酸欠の苦しみに耐えなければならない…
それは地獄の苦しみでそしてそうなれば誰も1年ももたないのだ

しかしこの病気の恐ろしいところは他の場所にある
肺を作り変えられたことによって感染者は空気を吸い
そして『セブン』の病原体を吐くようになる
『セブン』の感染率は高く空気感染するため
放って置けば1年で世界中の生き物に感染する

患者と周りの生き物全てを助ける手段はただ1つ
”安楽死”だった
僕は猛然と抗議した
なぜ姉さんが安楽死なんかしなければいけないのか
もしかしたら1年以内に薬ができるかもしれないじゃないか?
でも僕は姉さんの一言にただ黙るしかなかった
「私はあんたと真奈ちゃんを死なせたくないのよ」
僕はともかく真奈は死なせたくない
その気持ちが僕を黙まらせたのだ

しかし、姉さんの悲劇はそれでは終わらなかった
姉さんの場合病気の発見が遅れたためか
すでに体に一部を作り変えられており
どういうわけか筋弛緩剤の投与、空気の投入等
全ての安楽死の手段が通じなくなっていた
それを知った時、姉さんは僕にこう言った
「私を殺して」と―――






「そんな悲しそうな顔しないでよ、これは私が望んだ事なんだから」
姉さんは今にも消えそうな声で言った
「悲しくなんか無いさ、僕は真奈を死なせたくない
 ただそれだけの自己満足のために姉さんを見捨てたんだ
 だから姉さんは僕を恨んでくれていい
 これは僕のエゴだ」
姉さんはくすっとおかしそうに笑うと
「じゃあなんで泣いてるの?」
そう言って僕のほほに流れている液体をふき取った
「心配要らないって少し先に向こうに行ってるだけだから
 だからお別れのときぐらい笑ってよ」

僕は必死に笑顔を作ろうとする…するが
とても出来そうに無かった
僕は無力だ―――
姉さん一人助ける事が出来ず
最後の望みもかなえてやることができない
僕は無力だ―――

姉さんはもう一度口を開いたがもう声は出ていなかった
その言葉を言い終えると目を閉じた
閉じてもう二度と開く事は無かった
僕の頭の中には最後に姉さんの言った言葉が駆け巡っていた



”こんな役割やらせちゃってゴメンね。でもあんたと生きて本当に楽しかったよ―――”



―――僕はただ一人浜辺で泣いた