ふっと気がつくと何か違和感を感じた。私は今何をしていたのだったか?
そんなことを考えた。田村浩二28歳、この会社に入って10年の営業マンだ
自分のことをぼんやりと思い出す。ああ、そうだ今から取引先の人の所に行くところだった
時計を見ると11時を回っていた。急がなければ
私は駆け足気味に歩き始めた
昼ご飯を食べれるようになったのはもう1時を回っていた頃だった
外回りから帰って会社の自分の机の上でコンビニの弁当を開ける
最近毎日のようにコンビニの弁当だが、男一人のやもめ暮らしではこんなものだろう
私は割り箸を割り、おかずのから揚げを口にしようとしたとき
机の上にコトッと湯飲みが置かれた。私が後ろを振り向くと一人の女性が呆れ顔で立っていた
「また、コンビニのお弁当ですか?体に悪いですよ?」
私は軽く肩をすくめて軽く抗弁する
「伊藤さん、男の一人暮らしなんてこんなものですよ」
私にお茶を入れてくれたのは伊藤加奈子さん。この会社の事務係をしている人だ
歳は私より2,3下だったと思う
柔和な顔立ちで綺麗というよりは可愛さが表面に出てきているような女性だ
「ダメですよそんなの。あ、そうだじゃあ明日からは私が作ってきてあげます
自分の分も作ってますから一人分も二人分も変わりませんし」
私は遠慮がちな笑顔を浮かべて断りを入れる
「そんなことまでしてもらうわけにはいかないよ」
が、彼女は私に顔をズイっと近づけると
「い・い・で・す・ね」
まったく笑ってない目で言った
「やれやれだ」
私は肩をすくめてため息をついた
目を覚まして体を起こす
左側にある窓から差し込む真夏の日差しが少し暑い
前に目を向けると数学の教諭が黒板になにやら公式を書き込んでいた
ん?なんだ?記憶が混乱する
私は今高校生で、数学の授業を受けている
そうか弁当を食べて日差しの誘惑に負けて眠ってしまっていたらしい
私は田村コウジ18歳。大丈夫寝ぼけてはいない
「おい、コウジ次お前が当たる番だぞ」
隣の友人が私を揺すって小声でつぶやく
それを待っていたかのように教諭が私を名指しで呼んだ
「田村君、これ解いてみたまえ」
私はまだはっきりしない頭を振りながら席を立った
黒板を見る。まったくわからない。寝ていたので当然であるが
「昨日課題として出したはずだが」
答えない私に対し少しイラただしげにせかす
そして私は言った
「寝ていたのでわかりません」
そういった瞬間自分の額に軽い痛みがはしった
額を押さえながら前を見ると、チョークを投げた体制をした教諭がこちらを見ていった
「素直でいい度胸ですね」
なかなかいいコントロールしてますねと教諭に伝えようかとも思ったが
額に青筋が浮かんでいるのに気がついたので止めておいた
目を覚まして体を起こす
隣には伊藤さん……いや、加奈子が眠っている
そうだ、あの弁当を作ってくれた日以来、急速に仲良くなった私たちは結婚したのだった
今は子供も二人いる。私ももう35になるからおかしなことではないだろう
…おかしい、違和感が私を襲う。
確かに私はさっきまで高校生だったはずだ。教室で数学の授業を受けていたはずだ
あれは夢だったのか?その割にはリアリティがありすぎる
ならば、今見ているこの現実が夢なのか?
……しばらく考えたが答えは出そうに無かった
深く考えるのはやめにして、隣で寝ている朝に弱い妻を起こしにかかった
それからだ、私は営業マンの『浩二』と高校生だった『コウジ』二人の人生を歩き始めた
『浩二』の人生は順調そのものといった感じであった
家族を持ち、さらに仕事に打ち込むようになった浩二は仕事の力を存分に発揮した
休みの日は子供たちとも遊び家族円満であった
何不自由ない幸せな暮らしを送っていた
逆に『コウジ』の人生は不幸を極めた
大学受験に失敗したのをきっかけに悪い方向悪い方向へと転がっていたのだ
浪人を許してもらえなかったコウジは会社へと就職した
そこで、仕事に慣れてきてさぁこれからというところでその会社は倒産した
その後も友人の連帯保証人になってその友人に逃げられたため膨大な借金を背負うことになった
コウジは友人に裏切られたことで心に大きな傷を負った
なおかつ、いい人に恵まれなかったこともあり彼は独身でもあった
そんな二人の人生を歩んでいた私に一つの分岐点が来た
『浩二』が寿命で亡くなりそうになっていたのだ
私は『浩二』の時の人生には何の未練も無かったので死の恐怖よりも気になるものがあった
この『浩二』と『コウジ』どちらが夢なのかということであった
『浩二』が現実ならば『浩二』が死んだとき夢である『コウジ』人生も
もう見ることはなくなるであろう
逆にまだ見るようならば『浩二』が夢であったということだ
そして、その時がやってきた
浩二は皆に看取られる中静かに息を引き取った
私はパッと目が覚めた
最初に見えたのはボロアパートの天井だった
私は大きく落胆した
つまり『浩二』が夢だったということだ
私は呆然としながら外へでて街をうろつき始めた
もう、全てがどうでもよかった
『コウジ』がここまでがんばってこれたのは『浩二』の人生があったからだ
それが夢だとわかった今、私はもうどうしていいかわからなかった
「おい!あんた!危ないぞ!」
そう、後ろから叫び声が聞こえたかと思うと私の体の左側にものすごい衝撃が襲った
遠のく意識の中で最後に見たのは赤い光を灯した信号機だった
「こうちゃーん!いい加減起きなさい!」
私は母親の声で目を覚ました。体が重い
そうか、昨日小学校で夜遅くまで友達と野球をやっていたからか
私はそう思い出すとまた布団に潜りこもうとした
………おかしい!
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!
これはいったい何なんだ!私は死んだんじゃなかったのか!?
老衰で!交通事故で!
でも確かに小学生の私はここにいる
なんなんだこれは!?なんだなんあなんだなんあななんああああ!
誰か教えてくれ!
いったい誰が私なのだ