アイツのことを周りの人間は変わり者と呼ぶ。
俺もアイツのことは変わり者だと思う。
アイツの話はいつも小難しく、回りくどい。聞く人間によればバカにされていると感じるかもしれない。
しかし、俺にはアイツの話は興味深く、面白いものだった。
俺が初めてアイツに話しかけたのはいつのことだっただろう?
学校が午前中に終わり暇をもてあましていた俺は近くの公園のベンチで空を見上げていた
その時向かいのベンチに座っていたのがアイツだった。
暇つぶしに話しかけたのだったと思う、でも俺とアイツは妙に気が合いそれからたびたびこの公園のベンチで
話をするようになった。
「世界共通言語ってなんだと思う?」
アイツは空を見上げたまま俺に聞いてきた。俺も空をボーっと見上げたまま答える。
「あ? 英語じゃないのか?」
「確かに英語は多くの国で使われて入るが、ほとんどの国で通じるかというとそうでもない」
俺は手を組んでベンチに座りなおした
「そうか?」
「現に、この国で英語を使っても通じないだろう?」
言われてみればその通りだ。考えてみれば俺も日本にいるなら日本語をしゃべれと思ってしまうほうだ
「じゃあ、世界共通言語って何なんだよ?」
アイツはしばらく、間を取って言った。
「音楽だ」
「おや? お前にしてはまともな答えじゃないか」
俺は大げさに肩をすくめて見せた
「音楽というのは非常に興味深いよ。音楽は歌詞の内容はわからくとも多くの国の人がそれを聞く
音楽は多くの国で聴かれているにもかかわらずソレを根本をなしている音は世界共通ではないんだ」
「どういうことだ?」
アイツはクククと空を見ながら軽く笑った
これは相手が話の乗ってきて機嫌のいい時に見せる癖のひとつだ
「日本で鶏の鳴き声は“コケコッコー”だろう? アメリカでは“コッカ−ドゥ−ドゥルドゥ−”だ
同じ音なのに聞く人間によっては聞こえ方は違う。それでも音楽は全世界で聴かれている
実に興味深いじゃないか。それに音楽には人を操作とまではいかないが多大な影響を与えれるものだ」
確かに、それは音楽以外にも言えることだろう、人は芸術を見て心を動かされることもある
「君も、周りの人に影響される人かい?」
アイツは人を試すかのような笑みを浮かべて俺を見つめた
「俺はそうでもないさ。」
「そうかい。俺はね、時に思うことがあるんだよ。コレだけ人によって物の見方が変わっていると
本当に俺が見えているものは人と同じものが見えてるのかってね」
その時、たまたま足元に転がってきたボールを俺は拾った
向こう側から子供が走ってきたので俺はボールを渡す
「同じものが見えてるに決まってるじゃないか」
「例えば、今のボール俺には丸く見えてる」
「俺だって丸く見えてる」
当然のように答える。
だがアイツは小さく首を振った
「俺が丸いと思っている形は君にとっては四角かもしれないだろう?
だから、俺と君が見ているものが違っても誰も気がつかない」
「それはちょっと極端じゃないか?」
ここにいたって初めてアイツは顔をおろした
「そうでもないさ、本当に見えているものが違うと、誰かだ言い出して
それを周りに人間が信じたら、それは事実も同然だろう?」
「そんなことは無いだろ?」
俺は不思議に思って聞いた
「大衆心理というものは得てして強烈なものなのだよ。
例えばだ、10万人の人間がいてその中の1万人が右を向いた時、他の人間が右を向くのと
100万人の人間がいてその中の10万人が右を向いた場合では、後者のほうが多くの人物が右を向く
どちらも、比率では同じにもかかわらないのにだ。
人というものは多くの人が右を見ていれば自分も右を見ていなければいけないような
そんな強迫観念にも似た感情を持ってしまうものなのさ。
だから、人というものは自分の意見を貫き通すというのはなかなかできないものだ。
音楽というものも人の意見に流されて聞くものではなく、自分自身がいいと思った物を
聞くべきものなのだよ。人がいいと言ったからといって鵜呑みにしているようじゃ駄目なんだ
人に影響を与える力を持っているからこそしっかりと自分の意思で聞きたいものだね」
ああ、小難しいことは言ってはいるが大体言いたいことは分かった
「つまり、他人の意見ではなく自分で聞きたいと思った物を聞けってことか。確かにその通りだなぁ」
クククっとアイツは笑って見せた
「なんだよ?」
俺はその意味がわからず聞いた
「いや、やっぱり君は影響を受けやすい人物だよ」
「どこが?」
「すぐ俺の意見に納得するところがだよ」
そして、アイツはまたクククと笑った。