ことばの栄養剤

割り切りとは 精神の弱さである

亀井勝一郎 


臨床の現場で、

よく若い医師が

「もう、この患者さんは助からない。

何をやっても無駄だ。」

という言葉を吐くことがあります。

一方で、ベテランの上級医師が

同じ患者さんに対し、

執拗なる検査とその結果への緻密な分析を行い、

また、様々な文献を調べ上げ、

次なる治療法はないかと懸命の努力をしている姿を目にすることがあります。


そのようなベテラン医師の努力にもかかわらず、

患者さんは、快方に向かうことが少ないことも

事実です。


そして、医学の歴史の開闢以来、

同様の構図が

繰り返し、繰り返し行われてきました。



このような若手医師とベテラン医師における

行動パターン上の乖離は

どうして起きるのでしょうか?


それは、精神の強さに関係しているように

私には思われます。


結果だけ見ると

若手医師の見立て(診断)のほうが当たっている

と言えるでしょう。

しかし、この時

往々にして起きているのは、

若手医師の心の中に

密やかに忍び込む「割り切り」です。


この「割り切り」は精神の弱さ故の産物です。


ややもすると

この時のベテラン医師の姿は、周りの人たちには

スマートさに欠けるように映るでしょう。

冴えない医師に見えてしまうでしょう。

泥臭く、格好悪い存在に思われるかもしれません。


しかし、私は若き医療人に忠告しておきたいと思います。


「ベテラン医師の姿勢を見習いなさい。」

「簡単にあきらめてはいけない。」

「割り切ろうとする弱き心を排除しなさい。」



我々は、「割り切らない」でいることの難しさを

謙虚に受け止めるべきです。

「割り切らない」ためには、

強き精神力、魂の強靭さが必要であることを

しっかりと認識しなければなりません。


プロフェッショナルの世界では、

この「割り切らない」世界を如何に有し、

維持していくかが鍵であることを

若き医療人たちに、再度、忠告しておきます。


そして、指導を仰ぐべきは、

「割り切り」の早い、スマートな先輩ではなく、

泥臭い先輩のほうであると断言しておきます。

「狭き門より入れ」の如く、

常に「割り切らない」道を選択して歩みましょう。



若き医療人たちよ、

今一度、噛み締めて欲しい。


割り切りとは、精神の弱さである。


我々のプロフェッショナルの世界では、

精神の弱き者にとどまることを

許してはいない。


このことを深く心にとどめておくべきです。