「誤差0.001Hz GPSを利用した10MHz発振器を使う」
JA0PX 斉藤義明
1.はじめに
無線局の周波数は正確な必要があります.最近のトランシーバは良く作られているので電波法の基準を充分に満足しています.4,630KHzに出られる皆さんはほとんどが正確ですが,たまに数十Hzずれている局もいます.4,630KHzにはプロ局も出てきますので,笑われないように正確に合わせたいものです.
では,どこまで合わせればよいか.1Hzのずれでは耳で聞く限り分りません.でもこの文章のテーマは,0.001Hzに挑戦しようとするものです.SSBでもこんな精度は必要ないでしょう.マイクロ波の待ち合わせQSOの基準としてなら必要かも知れません.一般には必要ないかもしれませんが,アマチュアスピリットを発揮して,そんなに無理をしないで,どこまでやれるかの挑戦をして見ました.
2.Z3801Aについて
見出しにも書きましたが,Z3801AはGPSを利用した10MHz発振器(以下GPS10MHz発振器と略す)です.これは米国でCDMA携帯電話の基地局の基準に使われていたものらしく,交換時期になり大量に放出された物のようです.精度は「10の−9乗」と規格には表示されていますが,実際には「10の−10乗」は有るようで,短期安定度は,「10の−11乗」も有るようです.この装置を2台使った比較では,24時間の間に+−0.001Hzの差が出たそうです.
「10の−10乗」ですと,10MHzの場合,0.001Hzになります.この数字はプロ局にとっても素晴らしいもので,南極の昭和基地でも「GPSを利用した10MHz発振器」が使われているそうです.
これを使う場合,本体のZ3801Aの他に,GPS用アンテナ,48V(2A)の電源,パソコンとの接続ケーブルが必要です.更に,Z3801A本体をRS−232Cで使える用に改造する必要があります.中古市場はこれらのオプションが幾つ付くかによって5〜7万円位に変化します.電子工作に自信のない人は改造済みのものを入手されたら良いと思います.
Z3801Aに関する詳しい解説が,以前JA9TTT加藤氏のHPに掲載されていましたが,残念なことに最近閉鎖されてしまいました.他の解説は以下のHPにあり,参考になります.
http://homepage2.nifty.com/~kubota/GPS/gps.html
改造の仕方や,PCでの制御のやり方も書かれていますので,詳しくはそちらを参考にして下さい.
現物を買うと沢山のマニュアルが付いてきますし,米国の文献は米国yahooで調べると読みきれないほど沢山出てきます。
3.昔の10MHzJJYの替わりに利用する方法
これが最も基本的な利用方法でしょう.10MHzJJYが廃止されてからは,外国の標準電波を利用していましたが,混信やQSBのため正確な較正が出来ない時もありましたが,このGPS10MHz発振器があればもう心配ありません.何時も安定して較正できます.
基準水晶1個で全てを管理しているリグについては,簡単な較正方法が各メーカーのリグに付いてくるマニュアルに書いてあります.即ち,LSBにして10,001.000KHzを聞いた音とUSBで9,999.000KHzを聞いた音が同じであれば基準周波数は正確です.(外国標準局の場合,変調が掛かっているので聞き難い場合がありますが,本発振器の場合は変調が掛かっていませんので聞き易くなります.)もし,違う場合はリグの調整個所を調整して下さい.季節によって室温が変りますので基準発振器の周波数は変動します.
なお,較正の仕方にも幾つかの確実な方法があります.下記のURLに詳しく書いておきましたので参考にして下さい.
http://www.i-chubu.ne.jp/~ja2ol/4630khz-sub53.html
4.周波数カウンタの内部基準を合わせるのに利用する.
折角高価な発振器を手に入れたのですから,いろいろな応用に使って見たくなります.まずは,インターフェース等を作ること無く利用することを考えて見ます.
周波数カウンタの基準発振器が温度制御型発振器(TCXO)の場合,精度は10の−8乗から−9乗と言われていますが,経年変化で大分変化します.これを較正するために,本発振器の出力を周波数カウンタで測定し,表示が10,000,000.000Hzになるように周波数カウンタの内部基準発振器を調整します.この時,数分経つと表示が変ってきますので,根気良くあわせる必要があります.ケースのふたをかぶせて10分もするとまた表示が変りますから,使用状態で正確な表示になるように,予め変化分を見込んで調整しておく必要があります.TCXOの種類にもよりますが,良いものでしたら本当に0.001Hz(短期間)まで追い込むことが出来ます.
これで,安心して周波数カウンタを使うことが出来ます.リグの出力周波数を測定して見て下さい.リグの基準周波数が較正されていない場合,発射周波数が相当狂っていることが確認される場合があります.リグの表示が1Hzまであるからと言って,これを信用する訳には行きません.
逆に,リグからの電波を周波数カウンタで測定し,リグの表示周波数と周波数カウンタのそれが一致するようにリグの基準周波数発振器を調整しても良い訳です.
5.周波数カウンタの外部基準として利用する.
この場合,二通りの使い方があります.
1)周波数カウンタの外部基準端子に表示されているのと同じ周波数を注入する方法
2)周波数カウンタの外部基準端子に表示されている周波数の1/10や1/100或いは1/1000の周波数を注入して,測定分解能を改善する方法.
1)の場合は,簡単にただBNCケーブルを接続すれば動作するように考えられます.たしかに最近の高額の周波数カウンタはそれでOKのものが多いようです.しかし,アマチュア用の低価格のもの,または古い設計の周波数カウンタでは動作しない場合があります.原因は,GPS10MHz発振器の出力はアナログ信号であり,古い設計の周波数カウンタの外部基準入力はTTLレベルのディジタル信号を要求しています.従って,この間を結ぶインターフェースを作る必要があります.
これは,図1のように簡単に作ることが出来ます.キーポイントは5Vを60KΩと10KΩで分割し,これをゲートICの入力に加え,そこにアナログ信号を入れます.2段従属接続の後1MΩでフィードバックをかけます.これでTTLレベルのディジタル信号を取り出せます.
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この10MHzのTTLレベルのディジタル信号は,どのタイプの周波数カウンタの外部端子に加えても動作します.
この簡単なインターフェースは思いのほか利用価値が有ります.
2)の場合は,ちょっと欲張って,周波数カウンタの外部基準端子に表示されている周波数の1/10や1/100或いは1/1000の周波数を注入して,測定分解能を改善し,最下位の桁の表示を0.01Hzや0.001Hz或いは0.0001Hzまでにしようと言うものです.即ち,1万円の周波数カウンタが1桁上の動作をしてくれるようにする方法です.「そんな夢のような事ができるのか.」と思われるでしょうが,何個かの簡単な1/10周波数分周回路を縦続接続すれば可能です.
回路は図2です.図1の回路の後に74LS90を用いた1/10周波数分周回路をつなぎます.この時,出力のduty
比が0.5になるように接続します.即ち,1/5分周を先に行い,1/2分周を後に行うのです.この回路の注意点はバイパスコンデンサを各段にしっかり入れることです.高い周波数10MHzでは0.01μFだけでも良いのですが,1MHz,100KHz,10KHzと周波数が低くなるとバイパスコンデンサの容量を大きくする必要があります.0.1μF(セラミック)や0.47μF(タンタル),4.7μF(電解),10μF(電解)等を並列にしてICの電源端子とアース端子に最短距離で接続します.図2では1/100分周ですが,同じ回路をもう1段つなげば1/1000分周になります.
分周後の周波数を周波数カウンタで測定して見て,希望周波数になっていない場合はバイパスコンデンサの不足です.
1/10分周を何段用意するかは,利用する周波数カウンタの性能によりますが,基準周波数が10MHzの時,最低桁表示が0.1Hzであれば
1段 1MHz出力 最低桁表示が0.01Hz
測定時間100秒
2段 100KHz出力 最低桁表示が0.001H 測定時間1000秒
3段 10KHz出力 最低桁表示が0.0001H
測定時間10000秒 となります.
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分周器が用意できたら早速,周波数カウンタの外部端子に入力して見ます.1MHの入力の場合はまず(多分)旨く動作するでしょう.基準周波数は正確になったし,測定時間は100秒かかるが0.01桁まで測定出来るのでかなりの能力向上です.
次に,100KHzを入力して見ましょう.最近の高額の周波数カウンタなら問題なく動作するでしょうが,古い設計の周波数カウンタは動作しません.17分経っても変化無い時は動作していないと判断します.「やっぱり駄目か.」と諦めないで下さい.この原因はやはりバイパスコンデンサにあるのです.それも周波数カウンタの中のICのところです.古い設計では外部基準として低い周波数が入ってくることを想定していないので,バイパスコンデンサは小さいものしか付いていません.
対策は,周波数カウンタのふたをあけ,外部入力端子からつながっているICを見つけ,そのICの電源端子とアース端子の間に0.1μF(セラミック)や1μF(タンタル),10μF(電解)等を並列にして接続します.(この改造は腕に自身のある方のみ行って下さい.)
20年以上前のものと,10年以上前のものと2台の周波数カウンタを改造しましたが,2台とも10KHzの入力に対しても旨く動作するようになりました.
10KHz入力の場合,1回の測定に2時間50分近くかかりますが,0.1ミリヘルツまで測定できます.私は,ルビジュウムの10MHz発振器がありますのでそれを測定してみました.購入してから1年間較正してなかったものです.やはり1.3ミリヘルツずれていました.ルビジュウムの10MHz発振器には調整個所が付いていますからそれを調整して,0.1ミリヘルツ(短時間)まで合わせる事が出来ました.
また,10年以上前のTCXOがありましたので測定しましたら5Hzもずれていました.これも調整して簡単に0.001Hz(短時間)まで合わせる事が出来ました.
6.送信機や受信機で外部入力(10MHz)端子がある場合の基準入力として利用する.
10MHz外部基準周波数を入れられる送信機や受信機がたまには存在します.その入力がアナログ信号を受け付けてくれるようであれば,GPS10MHzを直接接続して動作します.しかし,TTLレベルの信号を要求するリグであれば,変換する必要があります.この場合も図1の回路が使えます.ただ,図1の回路が故障して高価なリグを壊さないような対策を取ります.12Vないしは13.8Vの電源から5Vを作る時,まず直列安定化ICで6Vに落としてから,抵抗を入れ,並列安定化ツェナーダイオードで5Vに落す直列と並列の2重の安定化策を取ります.回路が出来上がったら,オシロを使い念入りに5V以上出ていないことおよびパルスの10MHzが出ていることを確認します.
さて,JRCのNRD93に図1の回路の出力を入れますと快適に動作します.感度は内部基準の時と変化ありません.電信の音色が気のせいか少し良くなったような気がします.GPS10MHz発振器の純度が高いのでしょうか(水晶発振なのですが).
ちなみに,電波伝播の状態の良い時に外国の10MHz基準局を受信して,LSBにして10,001.000KHzを聞いた音とUSBで9,999.000KHzを聞いた音を瞬時に切り替えて比較しましたが,全く変化が分りませんでした.実に快適です.内蔵の発振器の場合17Hzもずれていました.
7.トランシーバ用の任意の基準周波数を発生させて利用する.
最近のトランシーバは水晶振動子1個で全てを制御するいわゆる「一発管理」が行われています。従って,この水晶振動子の精度がトランシーバ全ての周波数の精度を決めます.そこで,この水晶振動子の周波数をGPS10MHz発振器で制御できれば良いのですが,困ったことに最近のトランシーバの基準発振器の周波数は10MHzではなく,それぞれメーカーや型番が異なると違った周波数を使っています.このため,GPS10MHzを直接利用することはできません.
そこで,正確で必要な周波数を発生させる方法を考えて見ます。実は,この技術は既に,本HPの下記のURLに発表してある方法を簡略化すれば作れます.
http://www.i-chubu.ne.jp/~ja2ol/4630khz-sub58.html
その記事の図1を見て頂きますと,TVのサブキャリアを使って10MHzを発生する部分がありますが,この部分をGPS10MHz発振器で置き換えます.
(株)秋月から売り出されているDDS VFOキットを用いて正確な「2の26乗」=67,108,864Hzを作り出します.この場合,DDSコントローラは必要なくディップスイッチで10MHzをセットしますので簡単になります.秋月のキットには基準用の67,108,864Hzの基準発振回路が付いて来ますが,これが170Hzもずれていました.何台も使いましたが皆同じような状況でした.一般的な利用状態では充分な精度を持っている訳ですが,今回のテーマの場合0.001Hzを問題にしているので,この基準発振周波数を正確にしなければなりません.普通,基準発振回路の周波数は調整できないと考えられていますが,実際には電源電圧を変えると少し変化します.この性質を利用して,PLLを構成して正確な「2の26乗」を作り出しました.
正確な「2の26乗」が出来たら,別のDDS VFOキットを使い,それに付いている基準発振器の代わりにこの正確な「2の26乗」の信号を入れてやり,必要な周波数を発生させます.この場合も,DDSコントローラは要りませんで,ディップスイッチで必要な周波数をセットできます.詳しいことは上記URLの記事を参照して下さい.
必要な周波数が発生できれば,これを実際のトランシーバの基準発振器を外し,その出力の所に注入することになります.この部分は私は未だ実施していません.電圧レベルを合わせる必要があります.DDSキットには出力回路に約8MHzのローパスフィルタが入っていますので,これより高い周波数を出す時にはカットオフ周波数を上げてやる必要があります.また,67MHzより高い周波数は発生できません.この場合は、2逓倍回路を用いる等の工夫が必要です.
トランシーバの数だけDDSキットを使って基準発振回路を作り,無線局全体の周波数の一発管理を行えば,周波数に関してはプロ局並みの設備になります.
8.おわりに
GPSを利用した精度の良い10MHz発振器の利用方法をいろいろ述べてきました.
普通ゼロビート法で周波数を合わせようとすると1Hz位が限度です.「ウヲーン,ウヲーン」と聞えても0.3Hz位ずれています.この文章ではそのずれを0.001Hzまで減らそうというものです.GPS10MHz発振器と安価な周波数カウンタと簡単なIC回路があればそれが実現できることを述べました.
Z3801A本体および付属品一式の値段がかなりしますので,高度な利用をしないと元が取れないかも知れません.そのためには,ある程度の回路技術力が必要です.失敗するとZ3801Aはもとより,高価なトランシーバや周波数カウンタ、送受信機等を壊してしまう事も起こり得ます.各人の技術力の程度によって,更には自己責任のもとでトライして見て下さい.
--- 以 上 ---