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新型インフルエンザウィルス(A/H1N1)物語
2009年4月にインフルエンザA/H1N1ウイルス(以下イ・ウイルス)がメキシコに出現したことは、テレビニュースや新聞で耳新しい事と思います。
今日はこのウイルスが一体何者なのか、視点を変えてお話したいと思います。
A型、B型及びC型と、イ・ウイルスはウイルス粒子内に存在する核蛋白及び膜蛋白の相違から、この3つに分類されます。
これらウイルスの表面は、ヘモアグリチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)を含む蛋白質の棘で覆われています。このHA及びNAはウイルスが人体に感染し、増殖していく為に必要不可欠です。
これでA、B、Cという記号及びH、Nという記号の意味がお分かり戴けたと思います。この3つのウイルスはその表面構造が変化しますが、その程度はそれぞれに異なります。
A型が最も頻回に変化し、自然界に広く分布し、しばしばそのH及びNは両方、或いは別々に変化を起こし、特性を変えては世界的なインフルエンザ大流行を来たしています。
このような大流行をもたらすのは、遺伝子の大掛かりな変化(不連続変異)によって起こることが多く、一方、このような大流行の合間には遺伝子のちょっとした変化(連続変異)によって病原性が少し変わった程度の流行を来たすことが多いのです。
このように遺伝子の変異を起こしながらイ・ウイルスは、数年から数十年単位で変異を続け、現在はA/H3N2、A/H1N1及びB型が世界共通の流行株となっています。
話は1918年に遡りますが、この年に世界中でインフルエンザの大流行があり、8個のインフルエンザ遺伝子をセットで持つウイルス(多分鳥類のウイルス)が哺乳類にも適応し、世界中に拡がったものと考えられています。
この流行を機に、このウイルスは人間から豚に伝播され、それが未だに豚インフルエンザとして生存しています。以来、このウイルスは遺伝子を不連続的に、また連続的に変異させながら周期的にその遺伝子を他のウイルスに移したり、また自分自身も別のウイルスから遺伝子を受け入れたりし、今日問題になっている2009H1N1ウイルスはこの1918年ウイルスから派生したものなのです。
ここで理解を助けるために、インフルエンザといった概念を忘れて、8個の遺伝子により成る遺伝子チームを考えてみましょう。チームとして共同作業をし、そして時にはメンバーの1人もしくは2人がトレードに出されたり、また新しい遺伝子がチームメンバーとして入って来たりすると思ってみて下さい。
自然界には鳥イ・ウイルスAが絶えず集合、離散、再集合し、8個の遺伝子の集合体として地球的規模で鳥類を棲み所として存在していると考えられています。鳥類の体の中では鳥イ・ウイルスは安定し、多数の鳥類の腸に適応して存在します。このような鳥類の何種類かはしばしば同時に他の多数のウイルスに感染し、遺伝子を受け取り遺伝子の再組み合わせが行われます。このような絶えざる再組み合わせにより限りなく新しい特性を持つウイルスが生み出されていることが、研究で明らかにされつつあります。
只、これらの鳥イ・ウイルスが動物の種の相違という障壁を越えて人類や他の哺乳動物に伝播され、更には人から人へ伝播する機序は今のところ不明です。
全てのイ・ウイルスAは16種の可能なH表面蛋白の1つ及び9つの可能なN表面蛋白の1つを提示する遺伝子を持っています。
16×9=144通りの可能な組み合わせのうち、3種類のH及び2種類のN、その中の3つの組み合わせ、H1N1、H2N2、H3N2のみが人間に適応したウイルスとして今までに発見されています。
この3つの組み合わせのみが発見されている理由については、ウイルスが感染する宿主側の条件及びウイルス自体の条件に基づく制限と考えられています。1918年ウイルスは8個の遺伝子を持ち、前述の不連続変異により1957年(H2N2)、1968年(H3N2)に大流行し、更にこの大流行と関連し連続変異により1947年(H1N1)、1951年(H1N1)、1997年(H3N2)、2003年(H3N2)の大流行とまでは行かないが、それなりの大流行紛いの事態を引き起こしています。
1918年ウイルスの遺伝子チームが引き継がれ、2009H1N1ウイルスとして人類及び豚の間で巡り存在し、かつ過去91年間に亘り、オリジナルチームからその後の代々のチームが絶えず遺伝子を新しいチームに提供し、2009年ウイルスが1918年ウイルスの第四代目という事実には驚かされます。
こうしてみると、1918年ウイルスと人類はダンスのパートナーみたいで、交代しながらリードを取り合いステップを踏んでいるように見えますね。
このダンスはいつ終わるのでしょうか。
誰もわからないのです。
(グラフ旭川371巻 2009年11月号掲載)