湿原を守るボランティアたち

ロビン・フィリモア Robyn Phillimore
写真   グレッグ・キースリー Greg Keighery
ケイト・ブラウン Kate Brown
ジリ・ロッフマン Jiri Lochman
マリー・ロッフマン Marie Lochman
ロビン・フィリモア Robyn Phillimore
ナンシーラージブルー・ティンセルリリー湿原を調査するボランティア観察台ブリクストン・ストリート観察区エレオカリスブリクストン・ストリート湿原スイセンアヤメ属の除去

西オーストラリアにある貴重な地域――よく知られた国立公園から各地の灌木地帯にいたるまで――の保全には、ボランティアたちの長期にわたる地道な活動が大きく貢献している。そうしたグループの一つ、ブリクストン・ストリート湿原の保全に尽力しているボランティアグループの活動を報告する。

この報告は、LANDSCOPE 2003年冬号掲載の記事を、発行者および著者および撮影者の許可を得て、翻訳工房M&Oが翻訳したものです。記事・写真等の無断転載はご遠慮ください。
Reproduced from LANDSCOPE magazine, Winter/2003, published by the Department of Conservation and Land Management, Western Australia, with permission.
E-mail: info@calm.wa.gov.au, Web: http://www.naturebase.net/

上の左から2番目・4番目・5番目の写真は、Lochman Transparenciesの写真家、ジリ・ロッフマン氏とマリー・ロッフマン氏のご厚意によるものです。
Pictures above No.2, No.4 and No.5: with permission by Lochman Transparencies/Jiri Lochman and Marie Lochman.
Web: www.lochmantransparencies.com

上の写真は縦横の比が少し歪んでいます。左から4番目の写真を除き、本文中で使われているものです。
左から4番目の写真は、ブリクストン・ストリート観察区の観察台。撮影はジリ・ロッフマン氏です。その他の写真は、本文を参照してください。


エレオカリス
キースリーのエレオカリス(学名 Eleocharis keigheryi)が湿原に侵出し、脅威となっている
ラージブルー・ティンセルリリー
色鮮やかなラージブルー・ティンセルリリー(学名 Calectasia grandiflora)
撮影 マリー・ロッフマン

 西オーストラリア州の州都パースの近郊には湿原が散在しているが、その多くが干拓や埋め立てによって消滅、あるいは生態が大きく変わってしまっている。実際、スワン海岸平野(Swan Coastal Plain)の97パーセントが干拓され、農地や宅地に姿を変えた。その結果、こうした湿原に固有の植物群落の多くが減少、中には絶滅してしまったものもある。そんな状況の中で、一部の植物群落が、パース郊外のケンウィック(Kenwick)にあるブリクストン・ストリート周辺に残ったわずか19ヘクタールの小さな湿原に、今なお、生き延びている。

 ブリクストン・ストリート湿原は、パースの南東20キロ、ダーリン・スカープ(Darling Scarp)盆地の近くにある。およそ127ヘクタールにわたって植物が密生するグレーター・ブリクストン・ストリート・ブッシュランド(Greater Brixton Street Bushland)の一部で、その昔日の姿を留める小さな一角である。ここに湿地帯が残ったのは、その下に、冬期にも水分を含む平坦なギルフォード(Guildford)粘土層があるためである。

ナンシー
ナンシー(学名 Wurmbea dioica)の繊細な花々
撮影 グレッグ・キースリー

 ブリクストン・ストリート湿原の植物相は実に豊かで、種の数は300を超える。面積ではパースのわずか0.005パーセントだが、その植物相の20パーセントをここで見ることができるのだ。この湿原には、絶滅危惧種とされる稀少な植物群落もあり、その一部は特集「Threatened plant communities of the Swan Coastal Plain」(LANDSCOPE 1996年春号を参照)で紹介した。冬期も水分を含む粘土盤の上には、ハーブの群落。平坦な粘土層を覆って広がる、ハーブに富んだ灌木地帯。水捌けのよい高地には、ユーカリの木々が茂る。それだけではない。ここには、多くの鳥類や哺乳類、そしてカエルやヘビも生息しているのだ。

湿原の保護

ブリクストン・ストリート湿原
ブリクストン・ストリート湿原
撮影 グレッグ・キースリー

 1992年、ブリクストン・ストリート湿原友の会(The Friends of Brixton Street Wetlands)が結成された。この湿原の重要性を政府機関に粘り強く訴え続けた結果、ブリクストン・ストリート湿原は開発の対象区域から除外された。同会のメンバーは、水鳥保護グループ(Waterbird Conservation Group)およびワイルドフラワー協会(Wildflower Society)のメンバーと、この湿原に関心を持つ人々だった。その後、ワイルドフラワー協会、西オーストラリア州政府自然保護・国土保全部(Department of Conservation and Land Management)、ゴズネルズ市運営委員会の代表からなる運営委員会が作られ、ブリクストン・ストリート湿原の維持管理に乗り出した。以来、維持管理問題について論議を交わすため、年2回程度の割合で会合を持っている。

湿原を調査するボランティア
ブリクストン・ストリート湿原で、ワトソニア属の草を調べるボランティアたち
撮影 ケイト・ブラウン

 友の会のボランティアたちは、長期にわたり、ブリクストン・ストリート湿原の維持管理と一般への広報を担ってきた。州政府自然保護・土地保全部のスワン海岸区と協同で、柵を廻らせ、標識を立て、苗木を植え、ゴミを拾ってきた。さらに、外来種の防除も始めている。そのすべてを可能ならしめたのは、友の会に寄せられた多額の資金援助(National Heritage Trustからの助成金など)である。友の会では、このほかに、定例のガイド・ウォークを開催したり、団体でのボランティア活動を調整したり、ショッピングセンターや学校や図書館で広報活動を展開したりしている。

ブリクストン・ストリート観察区
ブリクストン・ストリート観察区。左奥に見える緩い坂を上ると、観察台に出る。この設備は、スワン沿岸区のスタッフが、ブリクストン・ストリート湿原友の会と協力してつくったもの
撮影 マリー・ロッフマン

 州政府自然保護・土地保全部の仕事は、ブリクストン・ストリート湿原の貴重な自然を保護することだ。最近では、同部のスワン海岸区と「西オーストラリア絶滅危惧種および群落」担当(WATSCU:Western Australian Threatened Species and Communities Unit)のスタッフが湿原の維持管理を援助し、土地の管理に関する助言をしている。また、柵や防火帯を設置するなどの現業的対策を実施している。最近では、スワン海岸区のスタッフは、友の会のボランティアグループと協力して観察台を作り、灌木地帯に影響を与えずに、この湿原に生息するさまざまな動植物が観察できるようにした。WATSCUは、関係者と協議して、ブリクストン・ストリート湿原の火災管理計画も策定した。火災の発生を減らし、灌木地帯が最良の状態で再生するような防火方法をとることにより、この湿原の貴重な自然を守るためだ。州政府自然保護・土地保全部では、絶滅の危機に瀕している植物群落の暫定再生計画(Interim Recovery Plans)を作成し、将来の維持管理への道を拓こうとしている。この計画は、対象となる植物群落の絶滅をできるだけ回避するために緊急に取るべき対策を定めている。資金は、自然遺産保護基金(NHT:Natural Heritage Trust)および湿地帯保護基金(Wetland Conservation Funds)などが提供している。

外来の草

スイセンアヤメ属の除去
スイセンアヤメ属(学名 Sparaxis)の孤立した小群落を手で除去する
撮影 ロビン・フィリモア

 もう一つ、ブリクストン・ストリート湿原の自生植物と植物群落を脅かしているものがある。スイセンアヤメ属(学名 Sparaxis)、ワトソニア属(学名 Watsonia)、フリージア属(学名 Freesia)などの球根植物が侵入し、繁殖を始めようとしているのだ。このような植物は湿地に自生する植物のすぐそばに生えるため、除去方法が限定されてしまう。そこで、外来種対策ネットワーク(Environmental Weeds Action Network)は、自然遺産保護基金から資金を得て、友の会および州政府環境保護・土地保全部と協力し、外来種の防除対策の研究、灌木再生を試行する場所の設定、外来種の侵入防止に関する管理指針の作成を目的とする3年間のプログラムを実施した。このプログラムに基づき、外来種が侵入し密生した場所には化学薬品を散布し、孤立した小群落で軽微な侵入の見られる区域では手作業で取り除いた。

 ブリクストン・ストリート湿原の保護は、保護委員会(Conservation Commission)で確定したわけではない。したがって、湿原の維持管理責任は、現在も、この一帯の関係者が担っている。しかし、州政府自然保護・土地保全部は、今後とも関係者との調整の場を設け、友の会のボランティアをできるかぎり支援していくだろう。

 ブリクストン・ストリート湿原が維持できたのは、友の会の長年にわたっる尽力と貢献の賜である。地域の環境は地域が守る、ボランティアは大きな改善を実現しうる、同会の活動は、その大いなる証左なのだ。


ロビン・フィリモア(Robyn Phillimore):ウッドベール(Woodvale)にある、西オーストラリア州政府保全・土地管理部門の西オーストラリア絶滅危惧種および群落ユニットでプロジェクト担当官。連絡は、電話(08-9405-5165)か電子メール(robynp@calm.wa.gov.au)で。