夏の時間




授業が終わって、オレはまっすぐに大石のクラスへ向かう。
今日はオレの誕生日。
菊丸家恒例の誕生日パーティに大石は今年で3回目の出席だ。
部活を引退した今でも大石は委員会だなんだと毎日忙しくって、普段はなかなか一緒に帰ることもできないけど、今日のことは前から約束してあるから大丈夫なはずだ。
ま、大丈夫じゃなきゃ拉致ってでもうちへ引っ張ってくけど。

大石のクラスに到着。
「おーいしぃー!」
声をかけると大石が振り向く。そのまま周りのクラスメイトに挨拶をしてすぐに廊下に出てきた。
「まっすぐオレんちくるでしょ?」
「ああ、そのつもりだよ」
「んじゃ、いこ」
並んで立った大石の袖を早く早くと引いてオレは玄関へと足を向けた。
だって、こんなとこにいつまでも立ってたら、そのうち大石目指してなんかメンドクサイ用事とかがやってくる。
今日これからの大石はオレの貸切。
誰にもひとっかけらもやんない。


誰にも捕まることなく無事に玄関を抜けた。
こうして大石と帰るのは久しぶりで、えーっと、たぶん、最後に一緒だったのは10日くらい前で。
だから話すことがたくさんあった。
あーだこーだといろんな話をしていたら、ふっと目の端に飛び込んできた、鮮やかな緑のフェンス。
見れば元気に走り回ってる部員達。夏までオレ達もその1人だったテニスコート。
なんとなく立ち止まると大石も並んで足を止めた。

「みんな元気にやってるみたいだな」
「・・・そだね。あ、あっちで球出ししてるの、荒井だよ。いっちょ前にレギュジャ着てはりきってんじゃん。ぷぷ」
「努力してやっと着られたジャージだから嬉しいんだよ。俺達もそうだったろ?」
「そーだった、そーだった。オレなんか初めてレギュジャ貰った時、嬉しくって着たまんま寝たもん」
「俺もうちで何回も着てみたな。わざわざラケットまでバックから出したりして」

今思い出すとなんだかくすぐったいような懐かしさで、オレ達は笑いあう。
そして止めていた足をまた動かして歩き始めた。

「そういえばさ、去年はおかしかったよね」
「部室でやった誕生日パーティか。楽しかったけど後が大変だったな」
「桃が金が無くてプレゼント買えなかったからってモノマネ始めてさ」
「最初は芸能人の物真似だったのに、いつのまにか部員の物真似をみんなで始めてて」
「そーそー!乾がやった大石のモノマネがすっごいキモくて!」
「・・・前にも言ったけど、俺はあんなんじゃないぞ」
「だ、だめだ、思い出したら、おっかしぃー!あっはっはっは・・・」
乾のモノマネは細かいとこが妙に本人に似てて、それなのに乾なもんだからやたら気持ち悪くておかしい。
他にも不二がやったおチビのマネと、その仕返しにおチビがやった不二のマネもサイコーに笑えた。
1個思い出すと次から次へと頭に浮かんできて、とうとうオレは立ってられなくて腹を抱えて座り込む。
「こら、エージ。こんなとこに座り込んでたら、いつまでたっても帰れないぞ」
「だ、だーって・・・、あっはっはっは・・・ひー、腹が痛いぃー」
まったく、しょうがないなぁ、なんて大石の呆れた声がするけどどうにも笑いが止まらない。」

さんざん笑い転げてお腹もよじれまくって、やっとどうにか笑いが収まった。
笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭きながら立ち上がると、大石がちょっと呆れたような半笑いをしてるから、それがおかしくてまた笑いそうになる。
「おーいし、その顔NG!」
「・・・あのなぁ。いきなり人の顔にNG出すなよ」
「だって、なんか、マヌケっぽいって・・・あははは・・・だめだ、これ以上笑ったらお腹がよじ切れるー」
「・・・間抜け?そりゃちょっと俺に酷すぎるんじゃないか?」
そう言った大石の顔がさらに情けなさ倍増で、精一杯堪えてるオレの笑いツボを押しまくる。
やばいって、これ以上笑い続けたらマジ笑い死にする。
「おーいし、しばらくオレの前歩いて!こっち向くなよー。あ、喋るのも禁止」
「・・・あんまりだ」
「喋っちゃダメー!」
「はいはい」
おとなしく前を歩く大石に新たな笑いが浮かんだけど、しばらくしたらそれも収まった。
大きく深呼吸して、もう笑いの発作が起きないことを確認してから大石の隣に戻る。
大石はちらりと恨みがましい横目でオレを見て、また無言のまま前に向き直る。
「もういーよ、喋っても。あー、こんな笑ったのって久しぶりだぁ」
「俺もこんなに笑われたのは久しぶりだ」
「ごめん、でも、怒ってないよね?」
前に回って顔を覗きこむと、むすっとした大石の口元がちょっとだけ緩みそうなのがわかる。
だからさらに顔を近づけてじーっと見てやる。我慢できずに大石が小さく噴出した。
「あ、笑った!よーし、オッケーオッケー」
「今のはちょっと反則だろ、英二」
「いーんだって。笑わせたもん勝ちー!」
ぶつぶつ言ってても本気で怒ってるわけじゃないのを知ってる。
だからオレはまた機嫌よく歩き出した。


うちに帰るとすでにパーティの準備は整ってて、山ほどのご馳走とケーキに出迎えられた。
いつの間にか家族扱いされちゃってる大石が、オレの代わりにねーちゃんにコキ使われたてたり、にーちゃんの一発芸のアシスタントにされてたりしながらパーティは盛り上がる。
あらかた料理も食いつくし、そろそろ気分もまったりしてきた頃、大石がカバンをごそごそやり始めた。
「なに?まだなんかあんの?」
「ああ。ちょっと寒いかもしれないけど、庭に出ないか」
「いーけど、なに?」
オレの質問に答える代わりに手に持った青いビニール袋を掲げて大石が笑う。

勝手知ったるなんとやらでオレの先に立って庭に出た大石が、袋から出したのはなんと花火。
「あー、花火!?どしたの、これ」
「こないだ家の片づけを手伝ってたら出てきたんだ。季節外れだけどいいかなって思って」
「いーじゃん、やろやろ!」
用意周到な大石はもちろんマッチ持参。
バケツに水張って準備完了、オレ達はすぐに花火を始めた。
子供用の花火セットはちっちゃい吹き上げ花火が1個と、手で持ってやる花火が6種類くらい入ってた。
次から次へと火をつけて、いつの間にか庭は煙と色とりどりの光に包まれる。
パチパチと音を立てながら赤や緑の光が流れる花火は夏を思い出させた。
大きな太陽がじりじりする中で、必死で走ってボールを追いかけてた夏。
花火にはしゃいで振り回していた手を止めてオレは花火の中の夏に魅入る。
緑のフェンス、黄色いボール、白いライン。
あっという間だった中3の夏。

「・・・なんかさ、楽しかったよね」
「・・・そうだな」
オレの隣に立ってる大石も花火の中に夏を見てるのか、何が、とは聞かずに返事が返ってきた。
「ホントはさ、最近、ちょっぴっとだけ淋しいなーとか思ってたんだー」
「俺もだよ。・・・でも春になれば今度は高等部でまた1からスタートだ」
「そっか、そだね。また先輩達にビッシビシしごかれんだ。うわぁ」
「また楽しくなるよ」
「うん」

最後の線香花火がぽとりと落ちる。
もう11月で、冬って言っていいくらい寒いのに、なんだかオレは今やっと夏が終わった気がした。
そっか、オレ、ずっと夏を引きずってて、だから時々淋しくなってへこんだりしてたんだ。
手にしてた線香花火を水の入ったバケツに放り込む。
大石は気がついてたのかな。
だから花火持ってきたのかな。
「おーいし?」
「ん?」
大石は優しい顔して笑ってる。
ま、いっか。わざわざ聞くのも変だし。
オレ達ゴールデンペアは夏が終わっても中学生活が終わっても健在ってことで!

「来年の誕生日は高等部の部室で騒ぐぞー!」
「それでまた先生に怒られるんだろ?」
「そん時は大石も共犯だかんね、逃がさないぞ〜」
「英二とペア組んだ時から覚悟してます。ちゃんと一緒に怒られるよ」
「そうそう!それでこそオレの相棒!さっすが大石」
「お褒め頂き光栄至極・・・なんてな。ああ、なんか来年が楽しみになってきた」
「うん、オレも」
中学の3年間はとっても楽しかった。
でも、これからもっと楽しいことが待ってる気がする。
でもって、大石が一緒にいてくれるから、楽しいはもっともっと際限なく増えていくんだ。
「何度も言ったけど改めて。英二、誕生日おめでとう。これからもよろしくな」
「ありがと、おーいし。高等部でもゴールデンペアで突っ走ろーね」
笑って手を高く上げた大石に、オレも手を上げてハイタッチで返す。
パーンと乾いたいい音が夜空に響いた。




→end                                                                                                                (06・11・28)