Noël a la carte.




流れるクリスマスソングと瞬くイルミネーション、そしてきらびやかな飾り付けが街行く人々を浮き足だたせる24日、クリスマスイブ。
大石と菊丸は連れ立って賑やかな街を歩く。
クリスマスは明日が本番だが、当日は家族と自宅で過ごす習わしとなっているので、イブの今日が二人にとってのクリスマスだ。
学校が休みだから昼少し前にお互いの家を出て、駅で待ち合わせて映画を観に行った。
前日のジャンケンで菊丸が負け、大石のリクエストであるラブロマンス物の映画を観ることになったが、最初はブツクサ言っていた菊丸も案外映画が面白く、すっかり機嫌は直っていた。
「ラブロマンスだけど、ちょっとSFっぼかったよね」
「同じ家なのに違う時間軸に住んでいるって設定は面白かったな」
映画の感想を話しながら大石の目は辺りの店を模索する。
デートの定石でいえば映画の次はお茶だ。
せっかくのクリスマスだし、できればファーストフードのようないつも行く混み合ったところより、少し洒落た喫茶店を選択したい。
あまり不自然にならないよう、それでも真剣に前方の店の看板をチェックしている大石の袖がツンツンと引かれる。
「ね、大石、あれ六角の黒羽じゃん?」
店から出てくる姿を指差した菊丸の指の先にいるのは確かに黒羽だ。
「え?・・・あぁ、本当だ」
同時に黒羽もこちらに気付いたようで、大きく手を振って歩み寄ってきた。
「久しぶりだな、青学ゴールデンペア。夏以来か?」
「そだね。黒羽は1人?こんなとこでなにやってんの?」
「今日は1人だぜ。こっちに住んでる従兄弟に呼ばれた帰りなんだけどな、せっかく東京に来たんだし、コートに来るちび共にクリスマスプレゼントでも買って帰ろうかと思ってよ」
そう言って笑った黒羽は手に持った大きな紙袋を掲げて見せた。
「なに買ったの?」
菊丸が興味深々で紙袋を覗き混むと黒羽が袋の口を広げて見せてくれた。
「あー、ちっさいサンタ靴がいっぱい!」
「すごい数だな。こんなに配るのか?」
一緒に袋を覗いていた大石が驚く。
「ちび共に配ったら絶対うちの奴らも欲しがるからな、かなり余分に買ったんだ。ほら、お前らにもやるよ」
黒羽はサンタ靴を2つ取り出すと、菊丸と大石に1つずつ渡した。
「やったー!ありがとー!」
「いいのか?俺達がもらっても。足りなくならないか?」
「大丈夫だって。遠慮すんなよ、俺達六角からのクリスマスプレゼントだ」
「それじゃ青学からも何かお返ししないと・・・」
「んーもう、大石はごちゃごちゃ言ってないで、ありがたくもらっとけっての!お返しとか言ったって、オレ達なんも持ってないじゃん!」
「そういうことだ、大石。気ぃ使わないでもらってくれ」
「そ、そうか?それじゃ・・・ありがとう」
大石が受け取ったのを満足気に眺めていた黒羽は、これから家族の分のプレゼントも買うんだと言って、じゃあなと手を振り去っていった。

「思わぬプレゼント貰えてラッキー♪ね、おーいし」
手のひらにのる小さなサンタ靴に喜ぶ菊丸に大石も笑みがこぼれる。
「ずいぶん若い豪快なサンタクロースだったな」
「そーそー、なんたって千葉から遠征して来たサンタだし!このプレゼントにもきっとご利益があるぞー」
「クリスマスプレゼントにご利益はないだろ・・・」
黒羽を見送っていた大石と菊丸は、その姿が見えなくなってからまた歩き出した。
ふと前方を見ると、店の前にクリスマスツリーを飾りつけた小さな喫茶店がある。
「英二、喉乾かないか?」
「乾いたー!なんか飲みたい」
「だったらそこの喫茶店に入ろうか」
「あのツリーがあるとこ?いーよ」
菊丸の同意を得て大石は喫茶店に向かって歩く。
店の名前が入った小さなプレートが揺れるドアを開けようと手をかけた途端、ドアは内側から大きく開かれた。
びっくりして固まった大石の目の前に、同様に驚いたのだろう目を丸くしているのは見知った顔。
「あ、今度は氷帝だー」
大石の肩越しに菊丸が覗き込んで声を上げた。
「おー、青学だー!」
大石の目の前で固まる日吉の肩越しに芥川が伸び上がって楽しそうな声を上げる。
久しぶり、と肩越しに会話を始める2人につられるように、大石と日吉も緊張を解く。
「ごめんな、日吉。驚かせて」
「いえ、こちらこそすみません。まさか外に人がいるとは思わなかったので」
店の入り口で集まっていると迷惑になるからと気をきかせた大石の誘導で、4人は店のすぐ脇に移動する。
ところでそれ、と日吉と芥川がそれぞれ持っている大きな3つの紙袋を菊丸が指差した。
「日吉も芥川も大荷物じゃん。なんかの買出し?」
「跡部がさぁー、なんか色々買って来いっていうからさー」
「跡部が?なに買ったの?」
「サンタの服とかー、あとね、トナカイの着ぐるみ!これはねー、俺が着るんだー。可愛いんだよー」
「えー、見せて見せて!うっわ、モコモコしてて可愛いー!」
紙袋からパーティグッズの衣装を取り出して騒いでる菊丸と芥川の横では、日吉と大石が静かに会話をしている。
「これから跡部さんちでクリスマスパーティがあるんですよ。俺達はその買出し係です」
「跡部の家かぁ・・・それは豪勢なクリスマスになりそうだな」
「そうなるでしょうね・・・一流シェフの作ったクリスマス用の料理が出るそうですから」
「あんまり嬉しそうじゃないな」
「そんなことないですよ。あの家で出てくる料理は実際美味いですし。ただ、いちいち跡部さんが自慢気なのが・・・芥川先輩!こんなところでトナカイにならないでくださいよ!!」
日吉に怒られて、今まさにトナカイの着ぐるみを着ようと片足を入れていた芥川の動きが止まる。
すでに身につけていたトナカイの被り物をガックリと項垂れさせて、芥川が渋々着ぐるみから足を抜いた。
「・・・ダメだってー。怒られちゃったC−」
「うー、残念だにゃ・・・。じゃ、着たとこ写メして送ってよ」
「うん、いいよー!忍足がサンタ着るから、それも送るよー」
「ぷくく、眼鏡サンタ?」
「そーそー、メガネサンタ!」
一体何がそんなにおかしいのかと、笑い転げてる2人を冷ややかな目線で見ていた日吉は、このままだといつまでたっても跡部邸に行けそうもないと芥川の襟首を掴んで引っ張った。
「大石さん、俺達そろそろ行きます。あまり遅くなると跡部さんに文句言われるんで」
「ああ。・・・大変そうだけど、頑張れよ、日吉」
「ありがとうございます。・・・ほら、芥川先輩、行きますよ」
「じゃーねー!写メ、送るからねー!」
日吉に襟首を掴まれ引きずられながらも芥川が大きく手を振って去っていく。
同じように手を振って見送っていた菊丸を大石が店に入ろうと促した。


喫茶店で頼んだココアとケーキが予想以上に美味しくて、菊丸は店を出てからもずっと上機嫌だった。
恥ずかしいという大石と無理矢理腕を組んでスキップするように歩いている。
「それにしてもさ、今日はちょっと珍しくない?いつもはブラブラしてても、せいぜい不動峰くらいにしか会わないのにさ、今日は六角と氷帝だよ?」
「そうだな。クリスマスだから色々買い物にでも・・・・・・英二、今度は立海だぞ」
大石が小声で菊丸に教える。
どこ?と辺りを見回していた菊丸が、アンティークショップの店の前に所在無く立っている仁王を見つけた。
「あ、ホントだ。仁王じゃん。なにやってんだろ?」
「店の中にいる誰かを待ってるみたいだな」
「それって、もしかして、彼女だったりして」
菊丸の目がキラリと光る。
こうなったら確認するまではここを動かないだろうと大石も諦めて付き合うことにする。
仁王の待ち人はいくらも経たないうちに店内から姿を現した。
「えーっ、柳じゃん!・・・つまんない」
少し高めの菊丸の声は通るのか、大石が慌てて口を塞ぐ前に、つまらないと言われた柳がこちらを見た。
そのままツカツカと柳が、そして後に続いて仁王も歩み寄ってくる。
「青学の大石と菊丸か。何がつまらないんだ?」
目の前に立たれ、静かな口調で柳に詰問される菊丸がうっ、と言葉を詰まらせた。
「あー、っと、柳。久しぶりだな。全国大会以来か?」
「俺達の常勝を破った大会のことをいっちょるんか?あれは悪夢じゃったのう・・・」
菊丸のピンチと助け舟を出した大石が、今度は仁王相手に気まずい雰囲気になってしまう。
4人で顔を突き合わせていながら無言という、恐ろしい空間が出来上がってしまった。
静かだが迫力のある笑みを浮かべた柳を前に萎縮している菊丸を横目で見た大石は、この現状を打開するのは自分しかいないと覚悟を決めるが、どうすればいいかを思いつかない。
どうすればと焦っていると、唐突に仁王が笑い出した。
「くっくっく・・・柳、それくらいで許してやったらどうぜよ?別にお前さんの悪口を言っていたわけでもなかろ?」
「別に責めている訳じゃない。ただ、何がつまらないのか聞きたかっただけなんだが・・・」
柳は改めて問いかけるように10cm低い菊丸を見下ろしたが、菊丸はさっと大石の背後に隠れてしまった。
答えは聞けそうにないなと肩をすくめ、視線を大石に転じる。
「ここに私服でいるということは、青学は部活動は休みか?」
「ああ、俺達は夏で引退したから、高等部まで部活はないんだ。立海はまだ3年生が部活してるのか?」
「俺達は高等部の練習に参加している。今日も練習試合に同行した帰りだ」
「もう高等部の部活に出てんの!?」
菊丸が思わず大石の肩越しに身を乗り出すが、ちらりと柳が視線を向けると慌てたように引っ込んだ。
「立海も青学と同じで内部受験だろうけど、それでも一応試験はあるだろ?勉強しなくて大丈夫なのか?」
「もちろん勉強も普段どおりしている。ブランクを作らない為に空いた時間に高等部の練習に出ているだけだ」
柳は涼しい顔でごく当たり前のように言ってのけるが、つまりは普段どおりの勉強をしていれば試験は問題ないということだ。
「うーわー、立海って頭もいいのかぁ・・・」
「試験勉強がいらんのは柳と幸村、柳生くらいぜよ。あとはお前さんと変わらん」
「うわっ!仁王!」
独り言のつもりでぼそっと呟いたのに、すぐ隣で返事をされて菊丸が飛び上がる。
脅かすつもりでそっと忍び寄ったものの、予想以上の反応を得られて仁王が楽しそうに笑った。
「いつぞやはボールをぶつけて済まんかったの。これはお詫びの印じゃ」
仁王がポケットから鮮やかな包み紙の大きなキャンディを取り出して菊丸のコートのポケットへと入れる。
「あれはもういーよ。コブとかもできてなかったし。それより!高等部で絶対リベンジするかんね!」
「いつでもきんしゃい。待っとるよ」
最初の気まずい雰囲気も払拭されて、和やかなムードに大石は胸を撫で下ろす。
だが、あまり長居をするとまたいらぬ墓穴を掘ってしまうかもしれないと、大石は菊丸の腕を引いて柳と仁王に別れを告げた。


「今日はホント、珍しい人にいっぱい会ったぁ。だって、立海って神奈川だよ?試合でもなきゃ会わないよね」
「そうだな。たまたまこっちに来てたにしても、偶然会うっていうのがすごいよな」
夕刻になり、寒さが増してきたのもあって、街から引き上げてきた2人は大石の家に戻った。
菊丸はこのまま大石の家に泊まることになっていて、2人で夕食までの時間を部屋でまったり過ごしている。
小腹が空いたと言って、帰るなり早々に黒羽から貰ったサンタ靴の中に入っていたお菓子を平らげてしまった菊丸は、そういえば、とコートのポケットを探った。
仁王に貰った普通よりも大きめのキャンディはすぐに見つかり、菊丸は早速食べようと包み紙を解く。
「んん?なんだこりゃ?」
「どうした?英二」
「仁王がくれたの、飴だと思ってたんだけど・・・」
菊丸はキャンディの包み紙から出てきた中身を大石に見せた。
「こ、これは・・・」
「どーみてもコンドームだよね。仁王、これ制服のポケットから出してたよ。いっつも持ち歩いてんのかなぁ?」
丸められてキャンディの包み紙を着せられた避妊具は、外側のピンクのフィルムが透けて中身が見えるようになっていたが、本体そのものもラメ入りショッキングピンクというなんとも言えない代物だった。
「・・・なんでこんなものを英二に・・・」
「夏の大会でボールぶつけたお詫びだって」
「お詫びって、こんなものをか?本当に何を考えてるかわからない男だな・・・」
避妊具を前に腕組みして考え込んだ大石の肩を菊丸が叩く。
「ま、いーんじゃん?深く考えるなって。きっと、たまたまポケットに入ってた、とかなんだよ。仁王ってそういうイタズラとかしそうだし」
「・・・そうか?もしかして俺達のことに気づいたんじゃ・・・」
「んーなのわかるわけないじゃん。試合以外でろくに会ったこともないのにさ。それより、大石」
「うん?」
「今日、コレ、使おっか」
ニヤリと笑った菊丸が大石の目の前でひらひらと避妊具を振ってみせる。
ごくりと生唾を飲み込んだ大石が急に正座になって姿勢を正す。
「英二、それは、つまり・・・」
「クリスマスのデートの締めっていえば、やっぱ、ね?」
パチンとウィンクをして見せた菊丸に大石が力強く頷く。
「よし、頑張るよ!」
「にゃっはっはっは、期待してるよん」
今はこれだけ、と菊丸が大石の頬にちゅっとキスを落とすと、正していた大石の姿勢がふにゃりと崩れた。




→end                                                                                                                            (07・12・25)