special and not special
せっかくの誕生日なんだから、どこでも大石の好きなところに付き合うよって言ったのに、大石は家でゆっくりしてたいとか言う。
外はいい天気でまさに行楽日和、それなのに洗濯くらいでしかお日様を有効活用できないってのは、ちょっともったいない気もするんだけど。
洗濯物を干し終えてベランダから部屋の中へ戻ると、ちょうど大石も掃除機をかけ終えたところだった。
キッチンでコーヒーを2つ入れて戻り、大石に1つ手渡す。
「ありがとう」
「ご飯も食べたし、掃除も洗濯も終わったけど、あとはどーすんの?」
「そうだな・・・本でも読もうかな」
「・・・本当に家でまったりコース?」
「最近忙しかったし、少しゆっくりしたいなって思ってたんだ」
そう言うと大石は本棚から1冊本を取り出して読み始めてしまった。
・・・なんて地味な誕生日なんだ。
でも、ま、大石がそうしたいっていうんなら仕方ないか。
俺が本を読み出すと英二も隣で雑誌を捲り始めた。
最初は座って読んでいたのが、30分もしないうちに寝っ転がりだして、さらに30分もするとテレビをつけている。
テレビも面白くないのか、何回かチャンネルを変えた後、リモコンを放り出してしまった。
俺は本を読んでるふりをして英二が退屈するのを待つ。
「おおいしー」
ほら、来た。
「なに?」
「・・・なんでもない」
ゴロゴロと転がった英二の頭はあぐらをかいた俺の膝辺り。
下から見上げてくる顔に笑い返すと英二の頭が俺の膝に乗り上げた。
英二の目が退屈だと訴えてる。
いつもなら目で訴えるなんて奥ゆかしいことはせずに、ダイレクトに
「つまらない」 と口に出すのに、今日は言わない。
英二なりに俺の1日ゆっくりしたいという希望を叶えようとしてるんだろうけれど、退屈さには勝てなかったようだ。
退屈した英二は遊んで欲しい猫のように俺に纏わりついてくる。
そんな英二が可愛くて、悪いとは思いつつ俺は時々わざと英二を退屈させる。
構ってくれというように英二が俺の膝の上で頭を擦り付けるように動かす。
本を持っている手はそのままに、空いた左手をおでこの辺りに乗せてやると、見つけたおもちゃを逃さないみたいに英二の両手が俺の手をがっちりと捕まえた。
しばらく俺の手を引っ張ったり動かしたりして遊んでいた英二は、手のひらを広げてじっと見つめると、「ふむふむ」とか
「これは!」 とか言い出した。
「おーいしくんの手はー、生命線が長いですー。200歳くらいまで生きますよー」
英二のインチキ手相占いに笑いそうになるのを堪える。
「あとはー、金運線も長いので社長になれますー」
金運線なんてものが手相にあるんだろうか。
「それとー、今現在素敵な恋人がいますー、それは英二くんだと手相に出ていますー」
限界だった。
噴出した俺を見上げて英二が笑う。
「手相に英二って名前が出てるのか?」
「出てる出てる。英二好きだーっ!って手相に書いてあるよん」
「困ったな、それじゃ人に手を見せられないぞ」
「だいじょーぶ、オレにしか読めない字だから」
むくりと起き上がった英二が俺に寄りかかるように体重を預けてくる。
俺は手にしていた本を傍らに置いて英二を支えるように背中に手を回した。
本を読むのを諦めた大石とじゃれるようにして遊んで、気がつけば外はオレンジ色の夕日に染まってた。
・・・これっていつもの休日の過ごし方と変わんない気がする。
もしかしてオレ、失敗した?
「ね、おーいし。なんにもしないうちに誕生日終わっちゃいそうだよ?」
大石の背中を覆うように後から抱きしめて、肩越しに顔を覗きこむ。
「ゆっくりできたし、たくさん遊んだろ?何もしてなくはないよ」
「だって、いつもの休みと同じじゃん。いいの?こんな誕生日で」
「充分有意義な誕生日だったよ」
「そぉかぁ〜?ま、そりゃね、可愛い英二くんと丸1日一緒に過ごせたわけだし?有意義っちゃ有意義かもしれないけどー」
「自分で言うな」
小突くように出てきた大石の手を笑いながらさっと避けて立ち上がる。
そろそろお誕生日用の豪華晩飯の用意をしなくっちゃ。
なんか普通に過ごしちゃったけど、ご飯だけはちゃんとお誕生日仕様にするつもりで、昨日のうちに買い物も済ませてる。
キッチンへ行こうとしたオレの手を大石が掴む。
「英二」
「ん?」
「ありがとう」
大石が笑う。その顔はとっても幸せそうだ。
大石が幸せそうにしてるとオレも嬉くなる。
特にイベントって感じでもなくて、いつもの休みと変わらない誕生日だったけど、大石がそれでいいならいいよね。
なんたって大石の誕生日なんだし!
→end
(08・04・30)