待ってるから




電話が鳴ったのは0時3分前。
誰からなのかは知っている。
なんせ2時間前も、さらに昨日も一昨日もかかってきているからだ。
『おーいし、ハッピーバースデー!!』
英二の元気な声が受話器から聞こえて俺は思わず笑みがこぼれた。
「ありがとう、英二。でもちょっとフライングだ」
『げ、マジで?おっかしーなー、ちゃんと時計合わせたのに』
受話器の向こうでカチャカチャと金属音が鳴っている。
おそらく英二が時計をいじってるんだろう。
「今0時になったよ」
『そんじゃ改めて。おーいしくん、お誕生日おめでとー!』
「では改めて、ありがとう」
電話の向こうで英二が笑い、続けてすこし気落ちした声が聞こえた。
『あーあ。とうとう間に合わなかったなぁ。んーもう、3日続けて悪天候とかありえないんだけどっ!飛ばない飛行機なんて飛行機じゃないっ!!』
これも一昨日から聞かされている台詞だ。
勤め先であるセレクトショップに陳列する家具の買入れに、英二がノルウェー行きを命じられたのが25日、予定では28日には日本に帰ってくるはずだった。
ところが異常気象のせいか悪天候が続き、飛行機が飛ばずに英二は現地で足止めを食ってしまった。
『今年は大石用に開発した甘くないケーキを焼くはずだったのにっ!でもって、晩ご飯はがっちり和食で決めて、食後にシャンパンでムード満点になるはずだったのにーっ!』
全部台無しだと電話の向こうで英二が怒っている。
まぁ、確かに誕生日にひとりで過ごす、っていうと寂しい感じがするけれど。
「そのケーキ、食べてみたいな。あと、英二が腕によりを振るう和食も。シャンパンはもう買ってあるんだろ?」
『・・・うん』
「それじゃ、日本に帰って来てからでいいから、作ってくれないか」
『・・・誕生日、過ぎちゃっても?』
「悪天候のため俺の誕生日は延期ってことにしよう」
『遠足じゃないんだから』
弾けるように英二が笑っている。
一緒にいられなくても寂しくはないよ。
だって、英二はずっと俺の誕生日を気にして、早く帰ってきたくて、一昨日から何度も空港に足を運んでくれただろう?
飛ばない飛行機への文句と報告を兼ねて、こうやって毎日電話してくれたじゃないか。
だから、ケーキや和食の代わりにコンビニで買ってきた弁当を食べてても、シャンパンの代わりがいつも飲んでる缶ビールでも、少しも侘しい気分にはならないんだ。
『じゃ、帰ったらいっぱいご馳走作んね。どーせ大石は誕生日だってのにコンビニ弁当食ってんだろうし?』
「・・・は、ははは。よくご存じで」
『やっぱそうか。くーっ、誕生日の日にコンビニ弁当食わせるなんて、菊丸英二、一生の不覚ーっ!くそう、来年は4月の海外出張なんてぜーったい断ってやるかんな!」
「いや、でも英二。さすがに今日はちょっと奮発して焼き肉弁当にしてみたぞ?」
『そーいう問題じゃないっ!』
英二が自分を責めることじゃないと思ってフォローしたつもりが怒られてしまった。
だが、すぐに俺も電話の向こうの英二もおかしくなって笑いだす。
『天気予報では明日は天候が回復するって言ってた。たぶん、明日の夜には飛行機に乗ってると思うよ』
「待ってるよ」
『うん。お土産もね、一杯買っちゃったんだー。時間が余ったからさ。大石の誕生日プレゼントも増えちゃった』
「楽しみにしてる」
『早く帰りたいな。でもって、1コ年取った大石に会いたい』
「待ってるから」
待ってるから、気を付けて、早く帰っておいで、英二。







Happy Birthday!                                                                       (10・04・30)