■終章 クリスマス・パーティを開く




「英二、今年のクリスマスなんだけど、」
そう大石が切り出したのが23日。
「・・・あー、クリスマスね。ケーキ買って、あとはピザでいいんじゃん?」
オレのテンションはいたって低い。
そりゃ低くもなる。
最高に美味いって評判の、予約半年待ちのイタリアンでクリスマスの予約をしてた。
とーぜん半年前、夏の真っ盛りだ。
テレビとか雑誌とかにもしょっちゅう取り上げられてる店で、会社の同僚で行った奴とかは感動しまくって、翌日はその話しかしなかったくらいの店だ。
もうオレはクリスマスが楽しみで楽しみで。
・・・なのにその店が潰れた。
それを知ったのが今朝のこと、それもテレビのニュースだ。
なんでも、オーナーだか経営者だかが店の金を株につぎ込んで、それがコケたらしい。
マヌケ過ぎる。
オレは朝っぱらから超絶ブルー、なんだかクリスマスすらどうでもよくなった。
この半年、ずーっとクリスマスを待ってたオレのワクワクドキドキを返せ。
・・・ってな訳でオレはささくれている。
今からじゃ他の人気店なんて予約できないし、ケンタのチキンですら無理だ。
だから、駅前辺りで売ってるケーキ買って、ピザでも取って、シャンパン浴びるほど喰らって終りにしようと思ってたんだけど。

「実は、こないだ料理教室の帰りに真田から、合同でクリスマスパーティをしないかって案が出たんだ。その時はレストランの予約をしてるからって言ったんだけど、店があんなことになっただろ?それで、さっき真田にもう一度連絡してみたんだ。どうかな」
「真田とクリスマス?」
「あと、柳も。場所は、真田の家が一戸建てで広いっていうからそこで」
「ふーん。いいんじゃん?」
別にいいよ、真田んちでもどこでも。
もう、今年のクリスマスはなんでもいい、どーでもいい。
と、オレがどんより空気を撒き散らしてるってのに、なぜか大石はやけに上機嫌、ハイテンションだ。
なんなんだ、この差は。
「それでな、英二。クリスマスの料理は俺と真田が作るよ。料理教室で培った腕を披露させてくれ」
「・・・へ?大石と真田が?」
「そうなんだ。ああ、でも心配はいらないぞ。3ヵ月前の俺とは違うんだ」
大石は自信満々で胸を張ってる。
そうか、ハイテンションの原因はこれか。にゃーるほどね。
あー、でも、いいかも。
今までクリスマスとか誕生日とか、オレがいっつも料理作ってたけど、大石が作る、安心して食べれるご馳走って興味ある。
大石の言う通り、ちゃんと料理教室通ってんだから、お腹壊すようなとんでもないものは出てこないだろうし。
「そだね、んじゃ大石と真田の手料理を堪能するクリスマスにしよっか」
「よーし、頑張るよ!楽しみにしててくれ!」
大石はそう言うと、その場で真田に電話し始めた。
隣で話してるの見てても、やる気満々で目が輝いちゃってる。
そういえば最近、こんなノリノリな大石って見てないな。
なんか、オレもちょっと楽しくなってきたかも。



**



そしてクリスマス当日。
俺は朝から真田の家に来ている。
英二は家でケーキ作りだ。
残念ながら、まだ俺の腕ではケーキまでは作れない。
まぁ、それも時間の問題だけど。
今に俺に作れない料理なんて無くなるんだ。
「蓮二もそろそろ大石の家に着いた頃だな」
「そうだな。2人が夜ここへ来て、テーブルの上を見た時の顔を想像すると、俄然やる気が出てくるよ」
「うむ。なんというか、胸躍る緊張感がたまらんな。テニスの試合以来だ」
俺と真田は顔を見合わせて笑う。
夜には、真田の家の広い座卓が、数々の料理で溢れかえるんだ。
「さて、大石。それでは買いに行く物を書き出そう。忘れ物があっては大変だからな」
「大丈夫、ちゃんと料理教室で使っているノートを持参してきた。俺が読みあげるから、真田はメモしていってくれないか」
「うむ。用意はできているぞ」
「それじゃ、まずは玉ねぎ。えーっと6人分で1個半だから、4人だと1個だ」
「うむ、玉ねぎ、1個」
「それから、ハム。これは1人3枚だから、全部で12枚だ」
「ハム、12枚」
「次は、」
読みあげた材料を真田が書き、全ての材料を書き終えるのに30分かかった。
次は作る工程の作業順だ。
これを間違うと料理が冷めてしまう。
「作る料理に番号を振ってみたよ。冷めても温め直して出せるものと、作ってすぐ出すものに分けよう」
「そうだな。1番と4番は出す前に温め直せるか・・・5番は無理だな」
「手間や時間がかかるものは先に作ろう。となると、3・4・7・2・1・6・5でどうだ?」
「6番と5番が難関だな。両方とも温め直しはできん上に冷めると不味いぞ」
「これは手分けして同時に作ろう。それなら出来たてを出せる」
「よし、決まったな。ではお買い物に行こう」



**



柳が来るのを待って買い物に出る。
ケーキの材料を買ってこなくっちゃ。
生クリームやイチゴを売り場で物色してるオレを見て柳が言う。
「菊丸、ひとつ確認なんだが、大石のリクエストはケーキだけか?」
「ん?そーだよ。あとは大石たちが作るって言ってたし」
「・・・ふむ。そうか」
柳はちょっと何か考えてるようだったけど、すぐ結論は出たみたいでなんか頷いてる。
「どしたの?なんか気になることある?」
「ケーキの材料以外に、もう少し買い物をしてもいいだろうか。できれば2、3品、あまり手が込んで見えない料理を作りたい」
「え?どういうこと?あ、お昼ごはん?それなら、うちにあるものでなんか作れるよ」
「いや、夜のクリスマスパーティに持参する分だ」
パーティに持参する分?
それって、もしかして、大石たちが料理失敗してたら食べるものが無いとか、そーいう心配?
「弦一郎と大石が料理教室に通い始めたのが3ヵ月前、教室が開かれるのは月に2回だ」
「・・・そだね。で?」
「弦一郎の話では料理をしたことのない初心者、それも男性向けの教室だ。恐らく、料理の基礎と言えるものを教えてると考えて間違いはないだろう」
「そりゃそーだ。最初っから難しいフレンチとか教えてもできっこないし」
柳が人の悪い笑みを浮かべる。
「基礎を教える教室に6回通った場合、出てくる料理はどんなものだと考える?」
「・・・あー、確かに。クリスマスとは程遠い感じかも」
まさか、いくらなんでも、ご飯やみそ汁は出てこないだろうけど、ローストチキンやキッシュも出てくることはないな。
「待っている時間が暇だったから作った、その程度の料理なら持参しても差し支えあるまい」
「うん。あんまり貧相なクリスマスも寂しいし。じゃ、なに作る?」
「そうだな、サーモンのマリネや、トマトとチーズのバルサミコサラダなどはどうだ?」
「それいい!あ、あと、カナッペみたいなのは?上に生ハムとかイクラとか乗せると豪勢っぽいよ」
オレと柳は顔を見合わせて頷きあう。
もしもご飯とみそ汁とかが出てきても、これならちょっとはクリスマス気分を味わえるぞ。



**



そして夜。
オレは作ったケーキとカナッペを、柳はマリネとサラダを持って真田邸に行った。
なんか、日本家屋?って感じの、古いけど大きくて雰囲気のある家だ。
今はこの広い家に真田と柳の2人で住んでるんだって。
「こんばんわー!」
「ただいま」
「「メリークリスマス!」」
オレたちが入って行くと、クリスマスの三角帽をかぶった大石と真田に出迎えられた。
・・・や、それはちょっと浮かれ過ぎじゃん?
言いだしたのはきっと大石だろうけど。
「料理はほとんどできてるよ。あとは英二たちが来てから出そうと思ってた分だけだ」
得意そうな大石に、オレはちょっと期待が膨らむ。
もしかしたら、結構クリスマスっぽい、豪華な料理ができてるのかも。
長い廊下の突き当たり、障子の戸を開けると、10畳くらいの和室に座卓と座布団が用意されてた。
座卓の上には豪華なクリスマス料理が。
・・・クリスマス?
「やはりな」
柳が小声で呟いたのが聞こえた。
「・・・うん」
オレも柳にだけ聞こえるように答える。
卓に載ってたのは、味噌汁に出汁巻き卵、お粥に肉じゃが、コーンスープ。
そして、台所に行った大石と真田が持って出てきたのは、麻婆豆腐とスパゲッティナポリタンだ。
なんかもう、メニューの無茶苦茶っぷりに、オレはおかしくて笑いを堪えるが大変。
だって、これ、ウケ狙ってるわけじゃないんだよ?
大石たちはそりゃもう、大真面目に自慢の手料理を披露してるんだ。
ああ、やばい、すっごい楽しい。
「さぁ、遠慮せず食べてくれ。味は保証する」
「こうして見るとなかなか豪勢だよな。あとはケーキがあればまさにクリスマスだ」
そうだ、あんまり面白過ぎて忘れてた。ケーキ。
「はい、ケーキ。ちゃんと作ったよ。あと、暇だったから柳に教わってマリネ作ってきた」
これは柳との打ち合わせ通りの台詞。
「それと、軽いものもあった方がいいだろうということで、カナッペとサラダだ」
柳とオレで持ち寄ったケーキや料理を広げる。
なんとなく地味だった卓の上が、途端に色鮮やかになった。
不思議な晩ご飯の食卓からクリスマスパーティに大変身だ。
真田と大石が、おお、なんて感嘆の声を上げてる。
「うむ、マリネは知ってるぞ。洋風酢の物だな。しかし、蓮二、かなっぺとはなんだ?」
「薄く切って焼いたパンに、好みの具材を乗せたものだ。酒のつまみだと思えばいい」
「なあ、英二。このサラダにかかってる黒いソースはなんだ?なんか変わった味がするけど」
「これはバルサミコ酢っていうんだよ。果実酢でサラダとかお菓子にも使えんの」
男4人で顔突き合わせて、出てくる話題のほとんどが料理ってのもよく考えればおかしい。
でも、なんだか楽しくて、朝のどんより気分なんか吹っ飛んだ。
大石と真田の料理はクリスマスとは言えなかったけど、でもちゃんと美味しかった。
特にナポリタンはお店で出てくるやつみたいに美味しい!



**



俺と真田の作った料理は全て完売、なにひとつ残らなかった。
自信はあったけど、実際に美味しいって言って食べてもらえると感激もひとしおだ。
みんなで後片付けして俺と英二は真田邸を後にする。
ああ、なんだかとても充実した、いい1日だ。
「なぁ、英二。料理教室はこのまま続けるけど、それ以外に英二も教えてくれると嬉しいな」
「うん、いーよ。今日の料理作れる大石なら大丈夫ってわかったし。それで、なに作りたいの?」
英二が得意なふわふわオムレツも教えてもらいたいけど、卵料理は難しいっていうからな。
なにがいいかな、できれば英二の好物がいいな。
「そうだ、ケーキはどうだ?」
「ケーキはちょっと難しんだよ。あ、でもパウンドケーキとかカップケーキならいけるか。最初は簡単なのからにしよ?」
「わかった。来年の英二の誕生日には俺がご馳走とケーキを作れるよう頑張るよ」
「マジ?楽しみだなー。今に晩ご飯は毎日、大石が作ってくれるようになるんじゃん?」
「あー、それは、もちろん、俺も作るようにする。・・・だけど、やっぱり英二が作るご飯も食べたい、かな」
できれば交代で作るくらいがいいかな、って言ったら英二が笑う。
「今までは毎日英二に作ってもらってたけど、これからは俺も頑張るよ。今まで全部やらせててごめんな」
「いーよ。オレ、料理するの好きだし。それに大石はご飯作らない代わりに、お風呂掃除とかしてくれてたじゃん。家事はちゃんと折半してたっしょ?これからも無理せず、出来る人がやっていこーよ」
ね、って笑う英二を今すぐ抱きしめたくなったけど、ここは天下の公道だ。
クリスマスのせいか、この時間でもまだ人通りも多い。
我慢、我慢。うちまで我慢だ。
うちに帰ったら我慢はしないぞ。明日は日曜だ。
「おーいし?」
不穏な気配が伝わったのか、英二が怪訝そうな顔をしてる。
「なんでもないよ。さぁ、寒いから早く帰ろうな」
ああ、メリークリスマス!サンタさん、英二をありがとう。





→Merry Xmas!!                                                                                           (10・12・25)