七夕 2011 

*以前に書いた「七夕2005」の10年後のお話



いつも通りの時間に起きてパソコンを開く。
天気予報のページを開いて今日の天気を確認する。
今日は7月7日、七夕だ。
全国的に雨や曇りが多いが、夜になって晴れる所が1箇所見つかった。
行ったことのない場所なので今度は地域情報を検索。
そうしたら偶然にも天の川が見れる山の展望台という記事が出てきた。
ここにしよう。
場所が決まれば、今度はそこまでの交通網を確認。
途中まで飛行機、あとは電車を乗り継ぎ。
情報を携帯端末に転送してパソコンを閉じる。
軽く朝食を取って、いつもと変わらぬ身支度をしてから家を出た。



**



『七夕っていつも曇りか雨じゃん!天の川って見れたことないんだけど!!』
電車に揺られながら、ふと蘇った懐かしい台詞に自然と顔が緩む。
もう10年も前の話なのに、不思議と声も、その時の表情も、昨日のことのように鮮明に思い出せた。
晴れたところで明るすぎる東京ではろくに星なんか見えない。
それでも毎年7月7日が晴れるのを心待ちにして、ことごとく裏切られる期待に膨れていた顔。
だから、大人になったら、天の川がちゃんと見れる所に行こうと約束をした。
ふらりと遠出をしても心配されないで、どんなに遠くても自分で稼いだお金で交通費を工面できる、そのくらい大人になったら、そう思って約束を10年後にした。
今日がその約束の日だ。
・・・本当は、今、隣に、その約束の相手がいる予定だった。
俺の相棒で親友の英二が。

あの頃は毎日学校で顔を合わせるのが当たり前で、クラスこそ違ったけれど何かと休み時間には顔を見せ、部活に行けば必ずそこにいる。
ダブルスを組んでた俺たちは、練習もほぼ一緒にやることが多かった。
休みの日も一緒に遊びに出掛けたり、テスト前には俺の家で勉強したり。
常に隣にいるのが当然で、それは例え10年経とうと20年経とうと変わらないのだと信じていた。


飛行機が離陸する浮遊感を感じ、窓の外を見る。
機体は上昇し、空港が小さくなっていく。
しばらくすると窓の外は積雪みたいな雲の景色に変わる。
どこまでも続く一面の白い雲。


特に仲違いをした訳でもない。
ただ、中学を卒業し、進路が分かれて接する機会が減った。
最初の頃はそれでもまめに電話やメールで連絡を取り合って、お互いの近況報告をしたりしていたのだけれど。
難しくなっていく勉強や、増える課題、厳しい部活動、そんなものが積み重なって時間が無くなっていく。
1日1度はやりとりしていたメールが3日に1度になり、1週間に1度、1か月に1度と減って、そのうち自然と無くなった。
やっと落ち着いた時にはもう時間が空き過ぎて、いざメールをと思っても話題を思いつけない。
あまりにくだらないことじゃ申し訳ない気がするし、かといって重要な用件なんてあるはずもなかった。
そうこうしてるうちにまた忙しい時期がやってくる。
いつの間にかメールをしようという気持ちも失せていった。


飛行機を降りて電車に乗る。
調べてきた記事によれば展望台付近には何も無いらしい。
少し手前の大きめな駅で降りて昼食を取り、ついでに店で夜食になりそうな物と飲み物を買い込む。
陽が落ちるにはまだ時間がある。
会社には休暇を取って来てるので、同僚たちに何か土産でも買っていこう。

七夕とはいえ平日の昼過ぎなせいか、土産物売り場には暇そうな店員がいるだけで閑散としている。
無難なのは食べ物だろうと、箱入りの饅頭やらクッキーが並ぶ辺りを物色し、適当に数があるものを手に取った。
あとは何か自分に、記念になるようなものをと店内を見回し、キーホルダーやストラップがあるところを探す。
ペナントが貼られたボードの裏側に小物類が見えて、そこかと回り込むと、驚いたことに先客がいた。
しゃがみ込んで熱心にストラップを見ている後ろ姿に、鼓動が一度、大きく鳴った。
少し長め、肩にかかるくらいの、赤みがかった髪。
まさか、そんなことあるはずがない、そう思いながら、心ではすでに期待してしまっている。
もし、もしも、英二もあの約束を覚えていたら。
いや、覚えていたところで、ここに来ることを決めたのは今朝のことだ。
もちろん、英二に連絡なんてしていないし、この場所が会話に出たことも無い。
そんな偶然があるはずない、そう否定する傍らで、天気予報で晴れマークが出ていたのはここだけだったことも思い出す。


『なぁ、英二。いつか、天の川見に行こうか』
『朝のうちに天気予報を確認して?』

まさか、でも、もしかしたら。

逡巡したまま動けないでいる俺を不審に思ったのか、しゃがんでいた相手が振り返る。
そして、そのまま、大きな眼をさらに見開いて固まった。
「・・・英二」
「・・・お、おーいし?」



**



満点の星空は降ってくるよう、その中でも本当に川のように星が集まった天の川。
「やっと見れたー!なんかさぁ、キレイ過ぎて、プラネタリウム見てるみたい」
「実際に見ると凄いよな。こんなにたくさん星があるのに、東京だと見えないなんて不思議だ」
二人で肩を並べて星空を見上げる。
中学の時に約束した、あの時の俺の想像のまま、英二が隣にいる。
星を見る英二の笑顔は昔と少しも変ってない。
「でもさぁ、10年目の七夕に再会するなんて、まるでオレたちって織姫と彦星じゃん?あ、オレが彦星ね」
「待ってくれ、英二。俺が織姫っていうのはどうかと思うぞ?」
くだらない軽口を言って笑い合う。
まるで会わずにいた10年の歳月なんて無かったみたいに。
あの頃からずっと一緒にいたみたいに。
星を見ていた英二がふいに俺の方を向く。
「やっぱ、オレたちが織姫と彦星ってのはナシ。だって、それだとまた来年の七夕しか会えないし」
「・・・そうだな。また時間作って、遊びに行ったりするか」
「うん。ご飯食べに行くとか、飲みに行くとかならさ、わりと頻繁でも大丈夫っしょ」
「英二の勤め先って、最寄駅はどこだ?」
「オレはね、山手線の・・・」
他愛のない会話、でもそれがこれからに繋がる。
中学の頃のように毎日は無理でも、時にはまた、俺の隣に英二がいてくれるようになるんだ。





→end                                      (2011・7・7)