Color World 3



いつものように部屋に遊びに来ていた英二が、大きめなクッションを抱き枕代わりにして、床に転がったまま雑誌を捲っている。
今日は天気もいいし、いつもより暖かい。
出掛けようかと誘ったけれど、英二はそんな気分じゃないみたいで、部屋でゴロゴロしている。
窓からこぼれる光の中でくつろぐ英二の姿は俺の目を楽しませてくれるから、こんな風に怠惰に過ごすのも時にはいいかもしれない。

「これ、着メロにもしてたよね。なんの曲?」

読んでいた雑誌から顔を上げてミニコンポに目を向けている英二に、BGMにしていたCDのケースを手渡す。

「映画のサントラなんだ。古い映画なんだけど」
「なんか落ち着く。こういうの癒し系っていうのかなぁ」
「最初は携帯の着メロで聞いて、気に入ったからCDを探したんだ」
「大石っぽい曲だね。雰囲気がぴったり」

古い映画のサントラは、高校生の英二が俺の携帯に設定してくれた曲だ。
俺に似合うと、そう言って選んでくれた曲。
英二が帰ってしまった後、どうしてもちゃんとした曲を聴きたくなって、CDを探し回った。
もう会えないと諦めていた砂を噛むような毎日を、このCDはずいぶん救ってくれた。
俺っぽい曲だなんて、こちら側の英二も同じような事を言うんだな。

最近は以前より思い出すことが少なくなった夏の日々が頭をよぎる。
高校生の英二も今頃は、同い年の俺と一緒に楽しく過ごしているだろうか。

「おーいし」
「うん?」
「・・・なんでもない。ちょっと呼んでみただけ」

声をかけられて英二を見れば、なぜか表情の読めない顔で俺を見ていた。
英二のこんな顔は初めて見た気がする。

「どうした?」
「なんでもないって言ってんじゃん」

おかしそうに笑い出した英二は、もういつもの英二で。
だから俺はその意味を深く考えなかった。

「ね、やっぱ外行きたい」
「いいよ。テニスしに行くか?」
「今からでも大丈夫かなぁ」
「ちょっと待つかもしれないけど」

とりあえず行ってみようってことになって、英二と出掛ける支度をする。
部屋に流れていた曲を止めて、玄関先で待つ英二と一緒に外へ出た。
公営のテニスコートへ向かって歩きながら話しかけるけど、英二はどこかぼんやりとしてまともに返事が返ってこない。
こちら側の英二と過ごすようになってわかったことだけど、英二はけっこう気分の浮き沈みがある。
大騒ぎして楽しそうに笑ってる時もあれば、気分が乗らないのかぼーっとしている時もある。
だから俺も英二の様子がおかしいことをあまり気に留めなかった。



英二が出していたサインを俺は鈍感にも見逃した。
英二と一緒にいられることに慣れてきてしまった俺は、この時が永遠に続くものだと勘違いしていたんだ。
本当に俺は馬鹿だ。ここでちゃんと英二に話を聞いておかなくてはいけなかったのに。



*****
*****



公営のテニスコートへ着くと、ちょうど一面開くところだったから、オレ達はすぐにプレイすることができた。
外に出ていい空気吸って、走り回ったりすれば気分も晴れるかと思ったんだけど。
大好きなテニスをしてても、どうしてもローテンションから抜け出せない。
いつもなら走れば届く球を諦める。サーブを打っても力が入らなくてネットに引っかかる。

「英二、どこか具合でも悪いのか?」

みかねた大石がネットを越えてオレの側までやってきた。

「や、別に。どこも悪くないよん」
「・・・今日はもう止めようか?」
「ん。そだね」

時間にして1時間半いたかいないかのコートを後にする。
隣を歩いてる大石が、大丈夫かとか、お腹すいたのか、とか色々気遣ってくれる。
それに大丈夫だよ、って返しながら笑ってみせるけど、ちゃんと笑えてるかは自信がない。

心配性の大石。しっかりしてそうでどっか抜けてる大石。
オレの作ったオムレツを子供みたいな顔で喜ぶ大石、キレイな手をしてるくせに不器用な大石。
・・・優しくて、オレを甘やかすのが上手な、大石。

一緒にいるのは楽しくって嬉しくっていい気分。オレのことちゃんとわかってくれてるって思える安心感。
側にいない時でもオレの頭の片隅を大石は占拠してる。
自分の中で大石の存在はどんどん大きくなっていって。

・・・そしてオレが感じてた不安もそれと一緒に大きくなった。

最初は気にしてなかった。いや、違うか。気にしないようにしてたんだ。
時々だったけど、話をしてる時とかオレを見る時、なんかひっかかるものを感じたことがあった。
オレと話をしてるのに、オレじゃない誰かを見てるような、そんな違和感。
誰かを思い出してるような。

なぁ大石。お前は誰を見てる?

「英二、この後どうする?どこか行きたい所あるか?」
「んー、別にない、かな」
「それじゃ俺のうちへ戻ろうか」

古い映画のサントラ。たぶん、あれもそうだよな。
携帯の着メロにして、部屋でCDをかけて。そして大石は誰を想ってる?
1番最初にオレと間違えたエイジってヤツ?
それとも神尾が言ってた、夏に別れた彼女?
誰にしたって、そいつが大石の1番大切なヤツなんだ。
・・・オレじゃないんだ。

「・・・英二?」
「ん?あー、どうしようかな」

大石なんてたかだか友達のうちの1人、別に誰のこと想ってたっていいじゃん。
そう思った。そう思おうとしたのに。
いつのまにか大石はオレの心にどっかりと根を下ろしちゃって動こうとしないんだ。
もう押しても引いても動かなくって、そしてオレは苦しくなる。
オレに誰かを重ねて見てる大石に、腹は立つわ悔しいわで、しまいには泣きたくなっちゃうんだよ。
ははは。変だよなぁ、オレ。わかってるんだけど。

「今日は帰ろっかな」
「大丈夫なのか?やっぱり具合でも悪いんじゃ・・・」
「そーじゃないけど、ちょっと眠い気がするからさ」

側にいて欲しいって思う。でも側にいるならオレを1番に見て欲しいって思う。
オレ、欲張りなんだ。ガキっぽい独占欲でも、イヤなものはイヤなんだよ。

「んじゃーね」
「・・・ああ。気をつけてな。なにかあったら電話してこいよ。すぐに行くから」

そんな顔して、そーいうこというなよな。
やっぱり帰るのやめて、一緒にいたいって思っちゃうだろ。バカ大石。

少し頭を冷やそうかな。
そうすれば気にならなくなる、きっと。
大石が誰のことを考えてたって、オレには関係ないって、そう思えるはずだ。

ちょっと一緒に居過ぎただけ、なんだ。


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