愛情のカタマリ
テニス部の練習が終わり、着替え終わった部員たちがお疲れ様の言葉を残して帰っていく。
あとは部誌を書いて鍵をかけて帰るだけだ。
ベンチの端に座った英二がカバンの中をガサガサとあさっているのが視界に入る。
待たせてしまうのは毎度のことながら、それでも一刻も早く帰れるよう真剣に部誌と向き合う。
そこへ、ゴロンと転がされてきた黒いカタマリ。
「お仕事ごくろーさまな大石クンに菊丸クンからプレゼント」
驚いて視線を上げるとニッと笑った英二の顔があった。
ラップにくるまれている黒いカタマリの正体は『おにぎり』。
丸とも三角ともいえない形状で、いっそ豪快といえるほどな海苔が巻いてある。
「英二が作ってきたのか?」
「そだよーん。愛情たっぷりの菊丸特製おにぎり・ハイパーリミックスだっ!」
「愛情は嬉しいけどハイパーリミックスはやめてくれ・・・・」
思わず口の中に蘇るあの忌まわしい味を思い出しかけてとっさに口を覆う。
そんな俺を見ながらおかしそうに笑う英二は、笑いながらも自分の分のおにぎりにかぶりついている。
でも、なんで急におにぎりなんか作ってきたんだろう?
英二からもらったおにぎりを手にしながら、たぶん俺の疑問は顔に出ていたと思う。
その証拠に、「もう今月のお小遣いはぜーんぶオレの胃袋に収まっちゃってさぁ」
と答が返ってくる。
・・・つまりは金欠ということか。
部活帰りに毎日コンビニだマックだと買い食いしてるんだから当然といえば当然の結果・・・なのだが。
ハードな練習を終えた後の空腹を抱えては、家に帰り着くまでにある誘惑に勝てないのも仕方が無い。
たとえそれがたった数十分の道のりでも。
「でもって考えたわけよ、飢え死にしないためにはどーするかってさ。結果がコレ」
すでにおにぎりを食べ終わった英二は、包んであったラップをヒラヒラと振って見せる。
「飢え死には大げさだけど、おにぎり持参とは考えたな」
「でしょでしょ?もうね、すっごい頭使ったんだよ〜。小遣いの前借りもダメって言われてさー」
ちょっと得意げに胸を張りつつ、でもどこか楽しそうに英二は話を続ける。
「でさー、コレ作るためにちょびっと早起きしてー・・・」
英二は朝があまり得意じゃない。
おまけに家族人数の多い菊丸家の朝は、泊まりに行った実体験からしてもまさに戦場で。
洗面所の使用からトイレに至るまで熾烈な戦いが繰り広げられている中で、時間通りに家を出るには秒刻みのタイムスケジュールが待っている。
そんな過酷な時間帯におにぎりを作るという作業をこなしてきたというのだから。
それも2人分。
「大変だったろ?2つも作るの」
「1個作るのも2個作るのも一緒だって」
なんでもないような顔で英二は笑うけど、2個作れば当然時間も倍かかる。
そしてなによりもそんな忙しいせっぱつまった朝に、俺の分もと考えてくれたことが単純に嬉しい。
気持ちが自然と笑みになってこぼれるとそれを見た英二も嬉しそうに笑い返してくれる。
ほんと、英二にはかなわない。
「それじゃありがたくいただこうかな」
「おー、食え食え。あ、中身は梅干だよん。疲労回復効果バッツグン!」
俺はいただきますと手を合わせてから、貰ったおにぎりを大事に大事に食べ始めた。
=================================
おまけ。
帰り道。
「英二。毎月お小遣い貰えるのは月頭だったよな?」
「ん?そだよ」
「じゃ、あともう一日あるな」
「そーなんだよ。だから明日も早起きだにゃ〜」
「明日は早起きしなくていいよ」
「へ?なんで?」
「おにぎりのお礼に、明日は俺がなんか奢るから」
「マジでっ!?やたーっ!!」
貰ったおにぎりはとても美味しかったから、これくらいなら安いもんだよ。
-end (04・04・05)