アキ ノ タメイキ
大石がオレの片思いの相手を気にしてるみたいだったから、ほんの悪戯心でちょっとそれっぽく匂わせてみた。
どうせ鈍感でまっとうな大石は、オレの片思いの相手がまさか自分だなんて回答に辿りつくわけ無いし、どんな珍回答を持ち出してくるやらと面白半分、諦め半分で見てたんだけど。
「英二、今週の日曜空いてるか?」
「うん、別になんも用事はないよ。なに?」
「こないだ叔母さんが来て映画の試写会の券を置いて行ったんだ。英二の好きそうな映画だからどうかなって思って」
そう言って笑う大石はなんだか照れくさそうな顔で。
オレは表面上は今までと変わんないふうに 「行きたい!」 って元気に返事しながら、内心はかなり戸惑ってる。
あの、屋上で一緒に弁当食べた日から、なんとなくだけど大石の態度が変わった気がするんだ。
じっとオレのこと見つめてたり、前よりもいろいろ誘ってくれたり、なにより一緒にいる時の雰囲気が妙に甘ったるくてこそばゆい。
これはつまり、どーいうことなんだろう?
そりゃ、大石も実はオレのことが好きでした、なんてオチなら大歓迎だけど、そんなに世の中甘くないだろ、やっぱ。
大石に、どうしちゃったんだよー!って聞ければ話は早いし、実際、今まで様子がおかしい時はそうしてたんだけど、今回はそうもいかない。
困っちゃうなぁ。
世の中甘くないとかいいつつ、それでもやっぱり期待はしちゃう。
もし、もしも、大石にその気があるなら、このままにしておくのはもったいないっていうか、今なにか行動しないとまた元のなんでもない親友に戻っちゃう気がするし、じゃあどうするかって言うと、どうするんだ。
心の中がじりじりと焦ってる。
どうしよう。
**
映画を見た帰り道、俺と英二は町を歩きながらどこかひと休みできる店が無いか探していた。
さすがに日曜の夕方ともなるとファーストフードみたいな所は混み合って入れない。
「喫茶店なら入れそうだけどな」
「コーヒーに600円とか使うくらいなら、ちょっと歩いてファミレス行ってスパゲチ食べよーよ」
「帰ったらすぐ晩ご飯じゃないのか?」
「んなもん余裕っしょ」
細いくせに結構食べる英二は、決まり!と宣言したと同時に俺の腕を引いてファミレスのある方へと歩いていく。
振り向いて笑いかける顔は、俺が渋々でもちゃんと英二の意見を飲むだろうとわかってる顔だ。
俺の右腕を掴む英二の腕、俺に向ける笑顔。
そういったものはごく自然に昔からそこにあって、それを意識したことはなかったけれど。
もし、英二のそういう行動のひとつひとつに意味があったんだとしたら。
「あ、」
英二が小さく声を上げて足を止める。
つられるように立ち止り、英二の視線の先を追うと、ちょっとした広場になってる空間に大きな木が立てられてるところだった。
「そういえばクリスマスになると、いつもここにツリーが飾ってあったね」
「そうだったな。でもこんな早く準備してるとは思わなかった」
カレンダーはようやく11月を迎えたばかり、クリスマスにはまだひと月以上ある。
「いつも気づくと街中クリスマスの飾りつけになってるけど、こうやって少しずつ準備していくんだろうな」
「ね、ここのツリーってさ、カップルで見に来ると恋が長続きするって伝説があるんだって。大石は知ってた?」
なにげない台詞と笑顔。
悪戯を思いついた子供みたいな笑みと、それでいて真剣な瞳と。
なんて答えたらいいか一瞬迷って、そして俺はありきたりに 「いや、知らなかった」 とだけ答える。
「大石ってそういう怪しげな伝説とかおまじないとかに疎いもんねー。そんじゃファミレスへレッツゴー!」
なにごとも無かったように英二が再び俺の腕を引いて歩きだす。
俺は歩きながら一度だけ振り返り、まだ飾りの無い大きなツリーを見上げた。
**
当たって砕けるのは怖い。
かといって軽くジャブかましてるくらいじゃ大石は動かない。
砕けない程度に当たってみようと大石が本読んでる背中に抱きついてみたり、わざと擦りよってくっついたりしてるんだけど。
オレって普段からスキンシップ激しいからその程度じゃちっとも気づいてもらえないみたいだ。
雨降りの放課後、少し明るい空は今にも雨が上がりそうで、オレも大石も教室で待機中。
時計の針が3時になるまでに雨が止めば部活へ、止まなかったら帰宅。
大石はもう少しで読み終わりそうだっていう本を図書室に返すべく読書中で、オレはその背中に頭を預けてぼんやりと窓の外を眺める。
ほんとはこうやってるだけでもいいのかもしれない。
大石がオレのことを恋愛とかそういう特別な好きじゃなくたって、こうやってくっついてても文句言わない程度には好きでいてくれて。
でも、もしかしたらって希望が見え隠れするから欲張りになる。
今のままでもいいけど、もっと好きになってくれたら、もっともっとオレのことを好きになってくれるなら、その方が嬉しいに決まってる。
でもって、普通の好きから大好きになって、大大大好きになったら、それは愛してるに成長していくんじゃないかなって思う。
オレは好きがたくさんになリ過ぎて恋心になっちゃったけど、そういうのって誰にでも起こるものじゃないのかな。
大石にだって。
親友と恋人ってどこが違うんだろう。
どっちも大切で大好きなのは同じだ
違うのはキスとかエッチとかするかしないか、それだけなのかな。
「もう3時になるな」
本から顔をあげて時計を見た大石が言う。
オレは大石にキスしたいと思うよ。
だから親友じゃなくて恋人になれたら嬉しいなって思うんだ。
「止みそうで止まないな」
大石が窓の外を見ている。
大石に、キスしたい。
今。
それはいきなりオレの中で膨れ上がって止める間もなく溢れ出す。
すぐそばにある大石の顔にちょっとだけ唇を寄せて。
二人だけしかいない教室に、ガタン!と大きく椅子の鳴る音が響く。
倒れた椅子、驚き見開かれた大石の目、離れてしまった大石とオレとの距離。
勝手に盛り上がってたオレのヨコシマな気持ちが急速に萎んでいく。
頭ではマズイって思ってるけど、冗談だなんて誤魔化せる余裕はない。
だって一番驚いてるのはオレなんだから。
さっきまで少しだけ明るかった空が厚い雲に覆われて光を閉ざす。
雨脚が強まった薄暗い教室の中、オレも大石も固まったように身動きひとつできなかった。
→end
(09・12・20)