「ブラックゴールデンペア・結成秘話」
ブラック・ゴールデンペア。
それは秘密結社
『ダブルス』 の新入社員、大石と菊丸のコードネームである。
何故そんなうさんくさい組織に入ってしまったのかといえば、そこには聞くも涙語るも涙な訳があった。
大石は一流大学を卒業後、一流企業に就職。そこまでは前途洋洋な人生のスタートに見えた。
だが入社してひと月も経たぬ間に会社は倒産。
運が無かったと諦めて再就職をしてみれば、会社の運営資金を持ったまま副社長が高飛び。
この辺りまでは、まぁよくある話で片付くかもしれない。
だが、その次の会社は入社式の日に火事で全焼、さらにその次の会社は入社して3日目に国税局の監査が入り、脱税がばれて椅子や机までが差し押さえられた。
その後もなぜか行く先々で不幸に見舞われ、挙句の果ては「疫病神」というありがたくない2つ名を頂戴し、どこの会社からも門前払いをくらうようになってしまった。
かたや菊丸はそこそこの大学をどうにか卒業、大学在籍中に何気なく始めたモデルの仕事でブレイクし、あとは芸能界デビューという、これまた華々しい人生を送るかに見えていた、が。
大手の芸能プロダクションへ移籍、そこの社長と今後の芸能活動について話し合おうとホテルに誘われ、お約束のように手篭めにされかけ、2、3発ぶん殴って逃げてきたはいいものの、なまじ大手の事務所だった為に圧力をかけれらてその後の芸能活動を断念。
それならそれで別にいいや、フリーターでもしよっと♪なんて能天気に考えたのもつかの間、なぜか行く先々で男女問わず菊丸を巡って恋の争奪戦、あげくそれが痴情のもつれにまで発展し、逆上した相手に出刃包丁で刺されかけるという顛末を迎えた。
やさぐれた大石となにもかもにうんざりした菊丸が出会ったのはうらぶれた赤提灯の一杯飲み屋。
安い焼酎をあおってベロンベロンでくだを巻き、互いの境遇に涙するうちになにやら盛り上がってしまう。
「おーいしってさ、すっげー大学出てて頭いいしー、こーんなに男前なのに、疫病神なんてひっでーの」
「英二だって可哀想だ!本当に好きなら大事にするはずだろ?それを刺そうなんてどうかしてる!」
「もう、オレが社長なら、おーいしは即採用!ついでに社長の椅子もあげちゃうー!にゃっはっは」
「俺なら英二を大事にするぞ!必ず幸せにしてみせる!」
「・・・おーいしぃ」
「・・・英二」
意気投合しすぎた2人はあたりに桃色のオーラをかもし出し、ガンコそうな店主に店をたたき出されてしまった。
店を出て肩を組んだまま千鳥足で歩いているところで、大石が電柱に張られた怪しげな社員募集の貼紙に気がついた。
「秘密結社・ダブルス?なんだ、そりゃ」
「こんなとこにビラ貼っちゃって、ちーっとも秘密じゃないじゃん。ひゃっはっは」
「よーし!俺はここに入社するぞ!」
「おーいしが入るんならオレも行くー」
「英二・・・!大丈夫だ、どんなに怪しい会社でも、俺が英二を守る!」
「おーいしぃ・・・v」
うっとりと見つめ合う酔っ払い2人の頭にはすでに恋の花が咲いている。
人が恋に落ちるのに時間は必要ない。
今度は道端で桃色のオーラを撒き散らし、運悪く行き当たった通行人がひとり、またひとりと悶絶していく。
自身でも気づかぬ強力な破壊力を持った2人が、面接に行った秘密結社に快く迎え入れられたのは当然といえば当然だった。
「ブラックゴールデンペア・1話」
よく晴れたとある日の午後。
黒ずくめの衣装を身にまとった見るからに怪しげな2人組みが、あたりを物色しながら公園に入ってくる。
方や黒の燕尾服に地面まで届きそうな黒マント、もう一方は黒皮のピッタリした丈の長い上着にスパッツと編み上げブーツ。
昼間の公園という場所にまったくそぐわない2人組みは、小さな子供を連れた母親が慌てて公園から退去するのを気にもせず、目当てのベンチへと足を進める。
「おーいしぃ、ここなら陽も当たって暖かいよ」
「ああ。いい場所が見つかってよかった。やっと英二の手作り弁当が食べられる」
一見、怪しげなコスプレイヤーに見えてしまうこの2人は、秘密結社『ダブルス』の新入社員、大石と菊丸である。
そして今日が2人のブラック・ゴールデンペアとしての初仕事だった。
腹が減っては戦はできぬとばかりに、まずは菊丸お手製の愛情弁当で腹ごしらえをする。
「なんて美味いんだ!すごいぞ、英二!」
「もー大石ったら大袈裟だにゃ〜vvv」
「なに言ってるんだ、こんなに美味いものを食べたのは生まれて初めてだよ!あぁ、生まれてきてよかった、お母さんありがとう!俺は幸せです!!」
「おーいしがそんなに喜んでくれるなら、これから毎日お弁当作っちゃおっかなー」
「英二・・・!」
「大石〜vv」
たかだか弁当ひとつで涙ぐむほど感動できる大石と、そんな大石にもらい泣きしそうになる菊丸。
うっとり見つめ合う2人の周囲には桃色のオーラが立ち上る。
が、すでに非難完了して無人となった公園に被害者は出ない。
お互いに食べさせあったり、手を握り合ったりと無駄に幸せな昼食時間を終えて、2人はやっと本題である今日の任務の話に取り掛かった。
手元には2枚の写真、それぞれに写し出された人物が今回の任務のターゲットだ。
「こっちの写真なんか、まだ子供みたいだね」
「なんでも天才と呼ばれてるらしい。子供といえど侮れないぞ」
「ふぅーん。でもこっちの写真のヤツはあんま頭良くなさそーだよ」
「たぶんボディガードだろう」
渡された写真からあれこれと勝手に分析した大石と菊丸は、次に作戦会議に入る。
今回の任務はターゲットを2時間足止めすること。
ちんけな任務だが、所詮新入社員、それも初仕事ならそんなものだ。
「それで考えてみたんだけど、オーソドックスに落とし穴を掘るっていうのはどうかな」
「落とし穴ー?」
「うん。手が込んでる罠よりも単純な罠の方が盲点になりやすいんだ」
「さーっすが、大石!あったまいい〜!もうオレ、惚れ直しちゃうもんねー」
「・・・俺は1秒ごとに英二に惚れ直してるよ」
「おおいしぃ・・・」
またもやピンク色のラブラブ・ハリケーンが公園を襲う。
僅かに残った木々の葉が悲しげに一枚、また一枚と枯れ落ちていく。
「それじゃ作戦実行の為のスコップを買いにいかなきゃね」
「あ、英二。それと湿布薬もな」
「湿布?なんで?」
「落とし穴に落ちたら、足を挫くかもしれないだろ?」
「・・・大石って頭いいだけじゃなくて、すっごく優しいんだぁvvv」
大石をみつめる菊丸の大きな瞳にはハートが踊っている。
菊丸を見つめ返す大石の瞳からも情熱の赤いハートがほとばしる。
本日最大のラブ・サイクロンが辺りの木々を薙ぎ払う。
愛の力で自然破壊を巻き起こした2人は、お互いの姿を目に納めるのに夢中で、惨憺たる有様には気づかないまま、公園を後にした。
幸せな時間は思ったよりも早く時計の針を進める。
2人がスコップを買うために目的の金物屋へ到着した時には、すでに店のシャッターは降りていた。
―初任務・失敗―
「ブラックゴールデンペア・2話」
前回初任務で大ポカをかますという、なかなかに大物なブラック・ゴールデンペア。
社に戻ってから新人教育係の先輩にコッテリしぼられながらも、互いに互いを庇い合い、社内でピンク・タイフーンを吹き荒れさせるという荒業を披露、たまたま近くを徘徊していたお偉いさんに将来有望だと絶賛されて、どうにかクビだけは免れた。
そして初任務のやり直しと相成ったわけだが、果たして。
「今度こそは成功させような、英二」
「もち!ちゃーんとスコップと湿布も買ったし、準備バッチリ!」
怪しまれないように大きなスコップをマントの下に隠した大石と、大きなクマのぬいぐるみ型リュックの中にお弁当と湿布薬を入れた菊丸は、朝から大ハリキリで現場に到着した。
ターゲットと任務内容は前回と同じ。
そして現在地点にターゲットが到着するのは4時間後という情報も入手済み。
あとは穴を掘るだけである。
スコップがひとつしかないので交互に作業をしようと決めた2人。
まずは大石が掘る事になった。
額に浮かぶ汗、真剣な顔、捲くったシャツの袖から覗くスコップを握る力強い腕。
大石から預かった黒マントと燕尾服の上着を胸に抱きしめ、菊丸はうっとりと穴を掘る姿を見つめる。
そんな菊丸に気づいた大石が、作業の手を止めて、白い歯をキラリと陽光に光らせて笑いかける。
予告無しで直撃した大石の爽やかラブ・アタックに菊丸がノックダウン、派手に音を立ててその場にひっくり返った。
「え・英二ー!!」
慌てた大石がスコップを放り出して、菊丸の元に駆け寄り、がばっと抱き起こす。
「大丈夫か、英二!」
「全然だいじょーぶじゃないよ〜。大石がカッコ良すぎて、もう死にそう・・・」
「そんなのだめだ、英二!英二が死んだら俺は生きていけないじゃないか・・・!」
「おーいしぃ・・・vvv」
「英二・・・!」
たちまち辺りを覆いつくすピンク色のラブパワーが地面を揺るがす。
熱く激しく抱き合う2人を中心に、半径100m四方の地面が円形に陥没した。
穴を掘る手間が省けたのはいいが、このままでは落とし穴としてはでか過ぎる。
2人交代でクレーター状の穴の不要部分を埋め終わり、青空の下にピクニックシートを広げて仲良く弁当を食べ終わった頃、ターゲット到着の時刻がやってきた。
カモフラージュを施した落とし穴の縁にそっと湿布薬を置いて準備完了。
後は木の陰に隠れて作戦成功を待つばかりとなった。
***
天気はいいが少し冷たい風を切って1台の自転車が道を行く。
おまわりさんが見かけたら間違いなく注意されるであろう2人乗り。
ブラック・ゴールデンペアのターゲット、桃城と越前である。
「なー、越前。どっかでメシ食ってこーぜ。俺はもうハラペコで」
「いっスね。確かこの先にラーメン屋が・・・」
「おーっし、そうと決まりゃ、かっ飛ばして行くぞー!掴まってろよ、越前!」
「ういーっす」
早く早くと急きたてる腹の虫を黙らせる為、桃城はこれでもかという勢いでペダルをこいだ。
一方、双眼鏡を手にターゲット到着を今か今かと待ち受ける菊丸、やっと姿が見えたと喜んだのもつかの間、弾丸のごとくチャリをこいで突っ走ってくる姿に慌てふためいた。
「おーいしっ!大変、大変〜!あいつらチャリに乗ってるよ!」
「それはまずいな・・・。自転車のまま落とし穴に落ちたら、足を挫くどころじゃないぞ」
「どーしよう。すっごい勢いで走ってるから、もう着いちゃうよ〜」
「心配するな、英二。こんな時の為に練習したものがあるだろ?」
「あっ!そっか!!」
顔を見合わせてニッと笑いあう2人。
「行くぞ、英二!」
「おう!」
その場に双眼鏡を投げ捨てて、自転車で突っ込んでくるターゲットの元に走った。
自転車で猛ダッシュをかけていた桃城は、突如進行方向を遮るように現れた黒ずくめの男に、心臓が止まりそうになる。
「オーストラリアン・フォーメーション・リバース!」
その黒ずくめの男が意味不明な号令をかけたと同時に、自転車は強制的に停止させられていた。
自転車の正面に立った男は、自転車のハンドルを正面からガッチリと握り足を踏ん張っている。
そして自転車の後にもう1人の黒ずくめの男が、荷台をガッチリ握って足を踏ん張っていた。
「な・・・なんなんスか、あんたら・・・」
「やったー!大成功!」
「ああ!練習したかいがあったな!」
訳がわからず呆然とする桃城をよそに、2人の謎の人物は互いにVサインを出して喜び合っている。
あっけにとられたようにポカンと見ている桃城に気づいた自転車正面の男が、爽やかな苦笑いを浮かべて握っていたハンドルを離した。
「俺達の姿を見られたんじゃ、自己紹介をしないわけにはいかないな」
「ホーント。こいつら思ったよりやるね」
荷台を離したもう1人も、ピョンっと身軽く並んで立つ。
姿を見られたもなにも、自分から出てきたんじゃ?という桃城の視線を無視して、2人はさっそく自己紹介を始める。
「俺達はブラック・ゴールデンペア。俺は大石、そして、」
大石が隣に立つクマのぬいぐるみを背負った男の肩を抱き寄せる。
「俺の一生のパートナー、英二だ」
「おおいしぃ・・・vオレもう一生、大石から離れないかんね!」
「当たり前じゃないか・・・v」
たちまち辺りを桃色の霧が覆う。
その場にいる者の脈拍数をあげるような霧は、心臓の弱い人や高血圧の人には大変危険だ。
だが桃城も越前も健康過ぎるほど健康体だった。
かすかにストロベリーの香りさえする霧の中で、今まで傍観していた越前がちょんちょんと桃城の肩を叩く。
『付き合ってらんないっス。桃先輩、今のうちに行きましょーよ』
『あ、ああ。そうだな。変なのに関わっちゃいけねーな、いけねーよ』
うっとりと抱き合い見つめ合うブラック・ゴールデンペアに気づかれないように、桃城は自転車でそーっとバックし始める。
黒づくめの2人の姿が小さく見えるまで離れたのを確認してから、やっと一息ついて自転車を止めた。
「なんだったんだ、ありゃ」
「さぁ?それより桃先輩、メシ食いに行かないんスか?」
「あーっ!そうだった!でもよぉ越前、あいつらがいるからこの道は進めないぜ?」
「そういえば、ここに来る途中に定食屋があったけど」
「マジか!?つーか、それを早く言えよ・・・。そしたら変なのに会うこともなかったのによぉ」
桃城がぶつぶつ言いつつ定食屋に向けてチャリを走らせながら、念の為にちらりと後方を振り返る。
だが桃色の霧の中にいる大石と菊丸は、お互いへの愛の誓いを囁きあうのに夢中で、周りのことなどまったく目に入っていなかった。
やがて辺りが夕闇に染まる頃、桃色の霧も晴れた。
「あーっ!おおいしぃ、あいつら逃げたよ!」
「素早いな。さすがに天才といわれるだけはある」
「くっそー、もうちょっとで作戦成功だったのにぃー!」
3時間も愛を語りあっていて素早いも何もない。すでにターゲットの2人は定食も食べ終わって家に帰りついている。
だが、そんなことには露ほども気づかないブラック・ゴールデンペア。
「おしかったな。次こそは成功させるぞ」
「おーし!頑張ろうね、大石v」
新たなる闘志を胸に秘め、大石と菊丸は手に手を取って帰路についた。
任務達成までの道のりは、まだ長いかもしれない・・・。
−2回目の任務・失敗−
→BGP2