からくり猫の見る夢は 2nd Stage 14




ドームの外は細かい赤砂が舞い、見える風景は全て赤みを帯びている。
緊急警報で即座にハッチから表に出た切原は、足元に転がる作業用レプリカントの残骸に目を向けた。
威力の大きい武器を使われたはひと目でわかった。
宇宙服の上から破壊されたレプリカントたちは人型を留めていない。
ここまで破壊されると修復は無理だろう。
敵の数は12、こちらから戦闘型レプリカントである自分たちが出てきても、逃げる気配は無い。
全員がハンターだってことか。
切原は心の中で舌打ちすると敵に向かって身構えた。
今、切原の目の前にいる敵は2人だ。
3流ハンターなら2人同時に相手をするくらい朝飯前だが、少なくとも2人のうち1人は無防備に立つ姿に隙が無い。
複数を相手取る戦闘の鉄則は、強い奴を先に潰すことだ。
切原は片方を無視して隙の無い方に照準を合わせる。
腰に電子銃を下げたベルトをしている以外は武器らしきものも見当たらない。
力量は実際にぶつかってみて確認しようと、切原が敵に向かって一歩踏み出した。
『君はもしかして切原くんかな?』
切原の耳元、宇宙ヘルメット内のスピーカーに声が飛び込む。
瞬間竦んだように足を止めた切原が相手を凝視した。
スピーカーを通すことで若干の歪みはあるが、この声を知っていた。
脳裏に忌まわしい記憶が蘇る。
火星を脱走し、仲間を、正直に言えば柳を無事に逃がしたくて、自ら囮になって戦った。
その時のタイレル社のハンター、入江。
『僕のこと、覚えてるかな?』
入江がおどけたように手を振って見せる。
切原は体の表面がすっと冷たくなる感覚と、内側から煮えるような熱さを感じた。
・・・覚えてるさ。
湧き上がる憎悪に世界が赤一色に染まる。
有利に進めていたはずの戦闘、足を痛めて身動きのままならなくなった入江に、もう戦うのは無理だろうと背を向け、そして撃たれた。
驚き振り返った視線の先には、何事もなかったかのように立ち上がり笑う入江の顔。
続けざまに放たれた高出力の電撃は体を貫き、切原は仰向けに地面に倒れ込んだ。
「油断は駄目だよ」
そう言って覗き込んできた入江の顔が記憶の最終ページだ。
次の記憶は木星のタイレル支社で警備員として働いていたところからスタートしている。
汚い真似で騙し打ちしたハンター。
油断さえしなきゃ、こんな奴に殺られることなんて。
『赤也』
目の前に立つ入江以外の一切が頭から消し飛んでいた切原の肩が後ろに引かれる。
無意識に振り払おうとした切原の腕が強い力で抑え込まれた。
『なんだよ、うるせえ、離、』
『落ち着け、赤也』
どれほど力を込めてもびくともしない腕に、正気を取り戻した切原が傍らに立つ相手を見遣った。
『・・・幸村さん』
『こいつの相手は俺がする。お前はもう1人の方をやれ。それが終わったら苦戦してる奴を助けにいくんだ』
『待ってくださいよ、こいつだけは俺がこの手で、』
『お前の気持ちはわかる。ただ、残念だけどお前が倒せる相手じゃないこともわかる』
『なっ・・・!』
カッとなって幸村を睨んだ切原だが、防護ヘルメットの奥にある顔は見えない。
『お前は油断して負けたと思ってる。だがそれは違う。蓮二と戦闘力分析をしたが、こいつはそんな真似しなくたってお前に勝てたんだよ。お前は遊ばれたんだ、赤也』
『・・・遊ばれた?俺が?』
煮えたぎる怒りと悔しさが体の中を暴れまわる。
すぐにでも飛び掛かって入江を八つ裂きにしたいのに、幸村に押さえられた腕を振りほどくことができない。
『私情は捨てろ、赤也。これは命令だ。今は火星を守りきることが最優先だ』
有無を言わせぬ幸村の声音は、沸騰していた切原の頭を強制的に冷やさせるだけの威力がある。
歯噛みしながらも切原は命令に従うしかなかった。



**



幸村と一緒にドームの外に出た仁王は、敵側のハンターと味方側のレプリカントたちが、それぞれ対峙する相手とじりじり間合いを詰めるような動きを見ていた。
仁王の前にも1人ハンターがいたが、すでに腰が引けていて話にならない。
気になったのは、現在幸村の前にいるハンターと、日吉の前にいるハンターだ。
まだ戦闘前なので確信は持てないが、ほぼ間違いなく見知った相手だろう。
火星襲撃の為にファボスに停泊していた母船で、数回だけだがハンターの合同格闘訓練があった。
専属ハンターも臨時雇用ハンターも一同に会しての訓練で、その時に仁王は数人の専属ハンターと手合わせをしている。
他人に成り済ますことを特技としている仁王は、無意識に相手の動作を細かに観察する癖が身に付いているが、その時に記憶した動きと一致する。
・・・幸村の相手は入江に似とるのう。日吉の相手は・・・松平か?
なぜ火星から手を引いたはずのタイレル社専属ハンターが、それもトップクラスに属する彼らがいるのか不思議だったが、今は考えたところで答えは出ないだろう。
それよりもこの事態を乗り切る方が先決だ。
他にもタイレルの専属ハンターがいないか細心の注意を払って観察したが、少なくとも徳川や大和はいないようだった。
仁王はほっと胸を撫で下ろす。
手強い専属ハンターだが、2人ならまだなんとかなる。
火星に来てから何度かレプリカントたちと戦闘訓練を行ったが、幸村や真田は専属ハンターに引けを取らない。
・・・さて、と。
仁王は入江と松平を交互に見遣る。
入江は幸村に任せて問題ないだろう。
だが松平の相手は日吉では少々荷が重い。
仁王が見る限りでは、戦闘型レプリカントの強さは、幸村、真田、切原、日吉の順だ。
・・・サポートするなら日吉か。
すでに数組が戦闘を始めている。 仁王の目の前にいた敵も覚悟を決めたのか、片手に小型のナイフを持ち向かってきた。
一見するとただのナイフに見えるが、実際は1秒間に数万回振動し、触れたものを瞬時に破壊する兵器だ。
『物騒な物を持っとるのう。なるほど、それで作業レプリカントを破壊したか』
声をかけてみたが返事は無い。
どうやら戦うだけで精一杯のようだ。
仁王は動きの鈍い敵の攻撃を軽々かわすと、そのまま後頭部へ蹴りを放つ。
もんどり打って倒れ込んだ敵からナイフを取り上げると、後ろ手に簡易錠をかけて手近なハッチからドーム内部へ放り込んだ。
次は、と目を向けると松平ともう1人の敵を相手に日吉が苦戦している。
応戦しようと足を向けたが、別の敵に回り込まれて仕方なく先にそちらの相手を始めた。





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