からくり猫の見る夢は 6




今日で3日連続レプリカントの襲撃があった。
日を追うごとに一度に対戦する敵の数は増え、今では5、6人が一度に襲ってくる。
今のところは撃退できているが、毎回ギリギリの薄氷の勝利では、次はどうなるか知れたものではなかった。
「でもさー、ホント、どこにこんないたんだろ?ってなくらい、旧型レプリカントばっか山盛り。もう、今日で100体超えたよ」
大石が間借りしている部屋のソファベッドに腰掛けて、菊丸が手にした紙をひらひらと振って見せた。
タイレル社から届いているレポートは先程大石も目を通し、今まで襲ってきたレプリカントたちの型式や数を確認した。
古くはLP-P023から、新しいものでも20年以上前に製造されたLP-P030MG型。
精巧な人型アンドロイドの通称であるレプリカントと呼べるほどの人間らしさはまだなく、P023などはアンドロイドどころかメタリックな外見からどう見てもロボットだった。
「なんで旧型ばっかりなんだろ?」
不思議そうに菊丸が首を捻る。
それに関しては大石も疑問に思っており、考えた末に一応の推論は立てていた。
新型レプリカントはより人の脳に近づける為、思考プログラムや感情プログラム、学習機能などが基本プログラムと同様に常に頭脳回路内で同時稼働する仕組みになっている。
複雑なだけに繊細なバランスで成り立っているプログラムは、一部に強制的な変更を加えると全体が機能しなくなったり、破綻する恐れがある。
それに比べ、旧型レプリカントは行わせる作業が特定されている為、基本プログラム自体がその作業を指向した単純なものになっている。
例えば、本来は古い建物を壊す為の作業レプリカントに、作業対象を建物ではなく人としてプログラムし直せば作業レプリカントはいとも容易く殺人マシーンに変貌させられる。
「あと、旧型はどのくらいこの市にいるかわかるか?」
「管理データベースに載ってる分で所在を確認できたのが37体。でも、壊れて動作しないのが19体、それ以外の18体は社長が強制回収かけたって。新型のレプリカントと無料交換したらしいよ」
「所在のわからない分は?」
「42体。もう1回くらい襲撃がありそうだけど、それが最後じゃん?いよいよボス戦だね」
レプリカントたちとの戦闘もそこそこ数をこなし、最近では新人ハンター並みに戦えるようになった菊丸が好戦的な笑みを浮かべる。
だが大石は、菊丸をそのボス戦に参加させる気はなかった。
いってみれば雑魚である旧型レプリカントと、惑星開発に派遣される程の最新型レプリカントでは戦い方も異なってくる。
新型のレプリカントはほぼ人間だ。
凶悪な犯罪者であるというならまだしも、たかだか強制労働から逃げ出した程度の罪で、ほとんど人と変わらないレプリカントを狩る後味の悪さは嫌というほど知っている。
レプリカントハンターでもない菊丸がそんな思いをする必要はない。
それにもうひとつ、大石には懸念があった。
敵のレプリカントが送りこんでくるのは旧型レプリカントばかりだが、実際に旧型しか操れないという確証はない。
一時のパートナーなら踏み込んだ話はするまいと思っていたが、敵が敵なだけに確認しておかなくてはならないだろう。
「・・・菊丸。単刀直入に聞くが、君は人間か?それともレプリカントか?」
もし菊丸がレプリカントで、敵に操られでもしたら大石は菊丸をも倒さなくてはならなくなる。
たった数日であれ行動を共にして、そのうえ何かと世話になっている相手として、どうあってもそんな事態は避けたい。
質問にどう反応するかと注視していた大石だったが、対する菊丸は聞き飽きたという顔で肩をすくめた。
「それ、よく聞かれんだよねー。タイレル社の社員は4分の1がレプリカントだから仕方ないっちゃ仕方ないけど。正真正銘、オレは人間だよ」
「そうか。ならいいんだ」
菊丸の言葉を信じた訳ではなかったが大石はそれ以上追及しなかった。
レプリカントの中には“自分がレプリカントであることを知らない”レプリカントもいる。
人としての生い立ちの記憶を持たされて作成され、その後もレプリカントであることを知らされない為だ。
以前、まだタイレル社のハンターだった頃、そういうレプリカントと戦ったことがある。
自分がレプリカントであることを知った時の、驚愕や怒り、悲嘆、絶望などが混ざり合ったあの表情は今でも忘れられない。
レプリカントと人間を見分ける方法はあったが、そうまでして確認しようとも思わなかった。
ターゲットである2人のレプリカントと対峙する時は菊丸を連れていかない。
それでことは済むはずだ。
「ちょっと待ってて」
菊丸が立ちあがり、パタパタと部屋を出ていく。
再び現れた時には手に分厚いアルバムを2冊持っていた。
「見て見て、これが赤ん坊の頃のオレ。こっちがすぐ上の姉ちゃんで、隣に写ってるのが一番上の兄ちゃんだよ。でね、これがオレんちの家族全員集合写真。すごいっしょ?うちって9人家族だったんだー」
菊丸が楽しそうにひとつひとつの写真を指さしながら説明していく。
大石は適当な相槌を打ちながらそれに付き合った。
己が人間であるという証明の為に菊丸はアルバムを持ち出したのだろう。
だが、いくらでも捏造のきく写真や記録フィルムは証拠にならないことを大石は知っている。
「あ、これ!家族で旅行に行った時の写真なんだけど、酷かったんだよー!途中で道間違えて山道に入るは、エンストするわでもう、」
菊丸は写真を見ながら楽しそうに笑って旅の話をしている。
レプリカントたちは写真が大好きだ。
擬似記憶を植え付けられている彼らの、架空の過去を具現化している唯一実在する証拠だからだ。




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