Color World
初対面でオレに熱い抱擁をかましてきた男は大石と名乗った。
オレもたいがいスキンシップは激しいほうだけど、さすがに初めて会うヤツにはしない。
どんだけ情熱的なんだ、もしかしてラテン系か?とか、オレを可愛いなんて言うオーナーといい、大石といい、ここってかなりヤバイ店?とか瞬時に頭の中を駆け巡る。
だけどその大石が真っ赤になって、地面につきそうなほど頭を下げて、必死に謝ってる姿がおかしくってつい笑ってしまい、それを見た大石がほっと胸をなでおろしたのがわかって、また笑った。
うん、なんか面白そうじゃん。大石って。
「ごめんな、驚かせて。その・・・友達に似てたんだ」
「さっきエイジって呼んだよね?オレも英二って名前なんだけど」
「あー、おんなじ名前なんだね。偶然かな」
オレに似てて名前も同じなんて、どんなヤツだろう?とちょっと興味がわいたけど、大石があからさまに誤魔化してるかんじだったから追求はしないでおく。
誰にでも知られたくないことのひとつやふたつはあるし、オレには関係ないことだしね。
制服に着替えて他のスタッフに紹介してもらって、その後は1日大石に仕事を教わった。
大石は教え方が丁寧で、細かいところまできちんと説明していく。
なるほど、真面目なんだ。そういえば見た目もそんなかんじだ。
最初のインパクトがでかかったから、もっと突拍子もないヤツなのかと思ってたんだけど。
これはオレとつるんで遊ぶタイプじゃなさそうだなぁ。ちょっと残念。
こっちに越してきたばかりで知り合いがいないから、一緒に遊んでくれるヤツが欲しいんだけどなぁ。
「ずいぶん駆け足で説明したけど、最初から全部こなそうなんて思わなくていいよ。やっていくうちに覚えるから」
「ん。ありがと。わかんなくなったら大石に聞くよ」
「うん。他にも困ったことがあったらなんでも言って。仕事以外のことでも」
なんでも相談に乗るよ、なんて大石が笑う。
うーわー、こいつなんて笑い方するんだろ。
男のオレでも一瞬クラリときたくらいだから、女の子なんてイチコロだね。
優しくて誠実そうで、見た目もわりと男前、頭も良さそうだ。おまけに必殺スマイル装備。
いるんだな、こんなやつ。
「連絡先教えておくよ。携帯の番号でいいかな・・・・・・あっ」
ポケットから出した携帯電話が大石の指から滑り落ちた。
なす術のないオレ達2人の見守る中、携帯は水の入ったバケツめがけて一直線。
ボチャン。
「・・・またやった・・・」
バケツから水の滴る携帯を取り出して大石が溜息をついた。
「実は先月もここで、それも同じバケツに落としたんだ」
情けない顔でガックリ肩を落とした大石に、悪いとは思いつつ笑いをこらえられなかった。
「ぷっ・・・あっはっはっは・・・なに、前も同じとこに落としたの!?」
「はぁ・・・。もうこのバケツが見えるところで携帯は出さないでおこう」
前言撤回、やっぱこいつ面白い!つるんで遊んだら楽しそうだ。
*****
*****
翌日、水没した携帯の機種変更に付き合ってくれるという英二と一緒に出かけた。
まだ土地勘が無いという英二をあちこち案内しながら、色々な話をする。
こちら側の英二は俺と同い年で、大学に通っていたけれど専門学校へ行くために中退して、1人でこっちへ越してきたそうだ。
「もうすっげー反対されたんだよね、家族中で。お前は頭が悪いからせっかくエスカレーター式のとこへ入れてやったのにー!ってさ」
「英二だってちゃんと考えてるのにな。でも頑張ってればいつか、おうちの人も・・・」
いきなり歩みを止めた英二をどうしたのかと振り返ってみれば、きょとんとした顔で俺を見ていた。
「どうしたんだ?」
「・・・や、大石って変だよな・・・」
「え?なんかおかしなこと言ったかな」
「だってさ、家族だけじゃなくて、友達もみんな、なに考えてんのかわかんねーとか、馬鹿だー、とか言うのに」
まるで子供みたいに拗ねて口を尖らせた英二は、それでもちょっと寂しそうで。
「大学へ通って卒業した方が楽だし、将来的にも有利なのにって心配してくれてるんだろうな」
「わかってるよ。でもオレだって思いつきで決めたんじゃないのにさ」
「そうだよな、当の本人が1番悩んで考えるもんだしな。英二もそうだろ?」
「うん・・・」
「頑張って結果を出せばみんな認めてくれるよ。大丈夫」
「うん。そーだね。へへっ、サーンキュ、大石」
曇ってた英二の表情がみるみる晴れ渡っていく。
まるで真夏の太陽みたいにまぶしい笑顔。
一時たりとも忘れたことがない、英二の満面の笑顔。
それをまた間近で見れるなんて奇跡みたいだ。
「おーい、大石ー?聞いてる?」
「えっ?あ、ごめん」
「なにボーっとしてんだよ。ホント大石っておかしなヤツだよな」
見惚れてましたとはさすがに言えないから、大石はどっかボケてるなんて、あんまりありがたくない評価を甘受した。
そういえば高校生の英二にもよく笑われたっけ。
今までの人生で俺を面白いなんて言ったのは英二くらいだ。
どちらかといえば、堅いとか、面白みが無いという評価の方が多いようだし。
「なぁ、晩飯どーしよっか?どっかで食べてく?」
「もしよかったら、俺のうちで一緒に食べないか?パスタくらいしか作れないけど」
「なに、大石の手作りご飯をご馳走してくれんの?」
「あー、誘っておいてなんだけど、期待はしないでくれないかな。その、料理は苦手で・・・」
「じゃ、やっぱ外で食べたほうがよくない?」
「それが、ここ最近外食ばっかりで、正直言って飽きてるんだ」
「それならオレが作ろっか?料理得意だし」
「いいのか?!それじゃオムレツ!オムレツ作ってくれないかな。あ・・・ごめん、ちょっと図々しかったな・・・」
また英二の作ったオムレツが食べたくて、つい力いっぱいリクエストしてしまった。
俺の勢いに驚いた英二が、次の瞬間に盛大に吹き出す。
「あっはっは・・・そんなにオムレツが好きなのかー。いいよ、オレの十八番だし」
「本当に?やった!」
リクエストを聞き入れてもらえて、思いっきり喜んでしまい、また英二に笑われた。
オムレツが大好物だと思われてしまったみたいだけど、正確には英二が作ってくれたオムレツが好きだ。
英二が元の世界へ帰ってしまった後も、レストランのウィンドウでオムレツを見かけるたびに店に入って注文してしまい、そして何度もガッカリするはめになった。
どこの店のも、決して不味くはない。たぶん、他の人が食べれば美味いと感じる味だったと思う。
ただ、俺が記憶していた味、英二のオムレツとは違っていた、それだけだ。
「そんじゃ買い物して大石んちへ行こ。ところで大石んちってどの辺?」
「駅の南口方面だよ。あるいて15分くらいかな」
「オレんちも南口だよ。もしかして近所だったりして」
スーパーで食材を見繕いながらお互いのうちのある場所を説明しあっていたら、かなり近いことが判明した。
駅から大通りをまっすぐ行ってコンビニを左に入って2分の所が俺の家、英二の所はコンビニからまっすぐ行って3分程度。
「そんなに近いんじゃいつでも大石んちに遊びに行けるなー」
「いつでも来ていいよ」
「んなこと言ってると毎日遊びに行っちゃうかもよ?」
「いいよ。歓迎する」
笑う英二は冗談だと受け取ってたようだけど、俺としては本当に毎日英二が遊びに来てくれたら嬉しい。
できることなら、あの夏の日々みたいに、一緒に暮らせたらと思う。
でも、いきなりそんなことを言い出したらやっぱり変だから、まずは英二ともっと親しくなるのが先決だ。
こちら側の英二にはタイムリミットは無い。だからゆっくりでいい。
英二にも俺と一緒にいたいと思ってもらえたら、その時は。
一緒に住まないかって誘いたい。
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