Color World 2



バイト帰り。大石の右手には今日の晩飯の食材、オレは右手に缶ビール。
カバンの中にはレンタルしてきた映画のDVD。
明日は2人とも休みだから、今日は大石のうちで朝まで上映会だ。
・・・といいつつ、こないだもオレが先に寝落ちしちゃったんだけど。

「今日こそは寝ないで朝まで映画見てやる」
「どうかな・・・。英二は飲むと寝ちゃうからなぁ」

にやりと笑う大石を睨んでやるけどちっともこたえないどころか楽しそうに笑ってやがる。
ちぇっ、確かにオレは酒弱いし、騒ぐだけ騒いでいつの間にか寝てるさ。
だからってなんだ!ちょっとくらい酒が強いからっていい気になるなよー!と思いつつ。
酔っ払ってその辺で転がって寝ちゃってるオレをいつもベッドまで運んでくれたりと、なにかと面倒かけてるのも事実で。
世話好きなのかもしれないけど、イヤな顔ひとつしないよな、大石って。

「ぜーったい大石より後に寝てやる。でもって、大石が寝たら顔に落書きしてやるんだかんなー」
「そうか。じゃ、英二が先に寝ちゃったら、俺も落書きしていいってことだよな」
「う。・・・それはダメ」

初めはバイト帰りにどっちかのうちに寄って、2人で晩飯食ったり、休みの日に出掛けたりする程度だったけど、気がつけば四六時中一緒にいるようになってた。
かまわれたがりのオレを大石はなにかと誘ってくれて、でもって不思議と側にいるのがしっくりくる。
無理せず自然に一緒にいられるのって気持ちいい。なんか子供の頃からの友達みたいだ。
オレと大石って相性がいいのかもしれない。

「あ、英二。ポテトチップス買ってない」
「なにー!?ビールのお供、ポテチを忘れただとー!」
「コンビニに寄って行くか」
「そうしよ。でもってポテチとさきいかと・・・」
「アイスだろ?」
「そーそー。わかってんじゃん」

ああ、そうだ、大石のこーいうところもね、居心地がいいって思えるところ。
オレの好きなものとか、嫌いなものとか、半ば習慣になってることとか、ホントよく覚えてるんだよなぁ。
お互いの家に行き来しだした最初の頃、大石のうちへ行くと必ずホットココアが出てきた。
大石は普段コーヒー飲んでるから、あれはやっぱオレの為に用意したんだよね。

「英二、アイスの新しいの出てるよ」
「おー!新製品だっ!これにしーようっと」
「ポテトチップスはどれにする?」
「んー。今日の気分はのり塩かな」
「あとはさきいかと・・・他にもあるか?」
「渋く定番で、チーズとか」
「チーズね。こんなもんかな」
「でしょ」

ホントはポテチといえばコンソメが好きなんだけど、大石はのり塩が好きなんだよね。
大石は甘いものが苦手っていう以外は特に好き嫌いはないみたいだけど、いっつもオレに合わせてくれるからたまには。
オレだって大石の好きなものくらいわかってきたもんね。

「これで買い忘れはないかな」
「あったらまた来ればいーじゃん」
「そうだな」

買い物も終わってコンビニから大石のうちへ向かう。
今日こそはDVDレンタルした分を全部見るんだっていっつも思うんだけど、大石と飲んでると楽しくてつい飲みすぎちゃって、でもって寝ちゃうんだよなぁ・・・。



*****
*****



ローテーブルの上には買ってきた菓子類と英二が作ったつまみが所狭しと乗っている。
テーブルの脇には借りてきたDVD。

「英二、どの映画から見る?」
「んーと、1番面白そうなヤツ」
「これは?」

DVDのパッケージを掲げて見せると、うーん?と眉を寄せた英二が膝でにじり寄ってきた。
頭をつき合わせてDVDを見る順番を決める。

「これが1番目で次がそれ。でもってその後がこっち」
「それじゃこれは1番最後?」
「ん。その辺になったら寝てるかもしんないし」
「朝まで起きてるんじゃなかったのか?」
「もっちろん!でも、もしもってこともあるじゃん」

笑いながらテーブルに戻っていく英二は、自分でも起きてられる自信がないんだろう。
もしもの可能性の方が高いだろうな、とは俺も思ったけど、言うと意地になって起きてようとするから言わないでおく。
寝ちゃったらそのまま泊まっていけばいいだけのことだし、うちにはすでに英二の歯ブラシも着替えも置いてある。

1本目のDVDをプレイヤーにセットしてテーブルに戻ると、英二にグラスを渡された。
受け取って、そのままビールを注いでもらう。
軽くグラスを合わせて乾杯してからビールに口をつけた。

「んまぁーい!やっぱビールにはレモンだねー」
「俺はビールだけの方が美味いけど」
「だって苦いじゃん、ビールだけだとさ。なんでみんな、あんな苦いもん喜んで飲むかなぁ」
「英二はカクテルみたいな甘口の酒が好きだもんな」

初めてうちで英二と飲んだ時、冷蔵庫にある酒類はビールだけだった。
苦いからあんまり好きじゃないっていう英二は渋々それを飲んでたけど、あんまり不味そうにしてるから可哀想になって、前に誰かから聞いたレモンで割る飲み方を教えてみた。
それ以来、レモンビールは英二のお気に入りだ。
高校生の英二は未成年だったから、当然一緒に飲んだことは無いし、酒の好みまでは把握できなかった。

グラスを傾けながら、アクション・コメディの映画を観て大笑いしてる英二の横顔を眺める。
こうやって一緒にいられるのが何よりも嬉しい。
異世界から来た英二は、俺以外に頼る相手もいなかったから、帰るまでずっと側にいることができたけれど、こちら側の英二は違う。
元々の性格が人懐っこくて明るい英二はすぐに友達なんか作れる。
現にバイト先のスタッフとも仲良くなってて、とりわけ音楽の話が合う神尾とは仲がいい。
黙って見ていれば、俺なんかすぐに蚊帳の外の人間になってしまいそうで、あれこれ理由を作っては英二を誘った。
こちら側の英二の1番になりたくて、誰にも譲りたくなくて。なりふり構ってなんかいられなかった。
そしてその努力が実を結んで今、英二がここにいる。

「おおいしぃ〜。オレの作ったつまみ、食ってる〜?」
「食べてるよ。英二が作ったのはなんでも美味いよな」

ほんの少し目元を赤く染めた英二が満足そうにうなずいてる。
どうやら早くも酔ってきたらしい。

「よーし、それじゃオレがぁ〜、食わせてやる!もーっと美味くなること、間違いなしぃ〜!」
「ちゃんと自分で食べるから」
「いーから!ほい、アーンしてアーン」

さすがにそれはちょっと恥ずかしくて躊躇する。
だけど酔っ払いの英二はそんなことお構いなしに、俺の口元に指でつまんだ鶏の梅肉和えを寄せてくる。
今にも口をこじ開けられそうな勢いだったから、素直に従うことにした。

「・・・あーん」
「ぶ、ぎゃっはっはっは・・・!なに口開けてんの、大石!」
「・・・・・・」
「かっわいいなー、大石って」

やられた。
こっそりついた溜息を英二が見逃すはずも無く、さらに笑いを誘うことになった。
英二の笑ってる顔は好きだけど、笑われっぱなしなのも癪だから、手を伸ばして鶏肉をもったままの英二の指を捕まえた。
引き寄せてそのまま噛りつく。

「あー!オレの指まで食ったぁ〜」
「ごちそうさま。英二の指の味がして一層美味いよ」
「むー。・・・大石も噛んでやる」
「わっ!」

ネコみたいな俊敏さで飛びかかって来る英二をかわしきれずに、座ったまま後にひっくり返った。
にーっと笑った英二に本気で噛まれそうになって、慌ててよける。

「こら、英二!」
「噛ませろ〜!」
「よせって!」

俺の上に馬乗りになったままの英二とつかの間の攻防戦を繰り広げる。
酔った勢いのままあちこちに噛み付こうとする英二は、腕を押さえつければ押さえた手に食いつこうとし、噛まれまいとして手を離せば今度は肩口を狙ってくる。
なんかもうあまりの無茶苦茶さ加減に、俺自身もおかしくなって笑いがこみ上げてきた。
それにつられたのか英二も笑い出して、酔っ払い2人で笑い転げた。
そのまましばらく笑い続けてやっと収まった頃、俺に覆いかぶさっていた英二がずるずると床へ崩れ落ちる。

「笑い疲れたぁ・・・。おおいしぃ、オレ、もう寝る」
「英二、寝るならベッドへ行かないと」
「うん・・・」

うつ伏せたまま、すでに寝に入ってる英二の肩を軽く揺すると、だるそうに持ち上げた腕を俺に預けてくる。
どうやら運んでいけってことらしい。
英二の希望どおり、抱え上げてベッドへ連れて行く。風邪を引かないように毛布でしっかり包む。
いくらか俺より細いとはいえ、ベッドまで抱きかかえていくのはかなりの重労働だ。
それでも、こうして無防備な姿を見せてくれるのが、やっぱり嬉しくて。
俺も英二の隣に横になって、その寝顔を、いつまでも幸せな気持ちで眺めていた。



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