Color World 4



「英二、今日予定あるか?この後うちへ・・・」
「あー、ごめん。ちょっと忙しいかも」
「・・・そうか。じゃ、また今度」
「ん。お疲れさん」

英二がどこか複雑そうな顔で笑って店を出て行く。
その姿を溜息と共に見送った。

また断られてしまった。
最近は誘っても3回に1回くらいしか受けてもらえない。
学校の準備があるからとか、友達と約束があるとか、理由は色々だけど。
・・・距離を置かれているように感じるのは気のせいじゃないと思う。

前より頻度は減ったといっても、完全に避けられているわけでもないし、時々はうちにも来てくれる。
ただ、一緒にいて楽しそうに笑っているかと思えば、次の瞬間には慌てたように俺との距離を取ろうとする。
英二の真意がわからない。
なにか英二の気に障ることをしただろうかと聞いてみても、そんなことないよ、と笑ってはぐらかされる。
気まぐれな面があるといっても、意味無くこんなことはしないと思う。
だけど原因を突き止めようにも肝心の英二が答えてくれないから、推測や憶測ばかりで俺も混乱する。

・・・うまくやれていたと思ったのに。

知り合って最初の頃は一緒にいて遊んでいてもどこか遠慮が見えた。
それがだんだん慣れてきて、甘えたりわがままを言ってきたりするのが嬉しかった。
眠れないと夜中に電話をかけてきたのも、俺のうちの歯磨き粉を勝手に英二のお気に入りに替えてしまったのも、ついこないだのことなのに。

いつから、どうして、こんなことに。

「あれ?大石さん、どうしたんですか?こんなとこに突っ立って」
「え?あぁ、いや、なんでもないよ。ごめん、邪魔だったな」

神尾に話しかけられてとりとめの無い思考を中断する。
そうだ、神尾なら英二と仲がいいから何か聞いてるかもしれない。
こんな理由で誘うのは気が引けるけど、今の俺にはそんなことを言っている余裕すらないから許してもらおう。

「神尾くん、もう上がりだよな。この後時間あるかな」
「大丈夫ですよ。飲みにでも行きます?」
「もしよければ」
「いいですよ。なんか大石さんと飲むの久々だなー」
「そうだったかな」
「そうですよ。大石さん、最近は英二さんと2人でソッコー帰るじゃないですか」

そんなにあからさまだったかな・・・・。事実その通りだけど。
そして今回も英二がらみだ。こんな時ばかりで本当に申し訳ない。

「あ、そうだ。英二さんも誘いますか」
「英二はなんか予定があるらしいから」
「ははーん。それで俺を誘ったってわけだ」
「あー・・・。そういうわけじゃ・・・」
「あっはっはっは・・・。いいですよ、俺も普段大石さんには世話になってるし。付き合いますって」
「はぁ・・・。なんか悪いな。かわりにと言っちゃなんだけど、奢るから」
「いいんですか!?やった!ごちそうさまでーす!」

どうやら喜んでもらえたようで、僅かに罪悪感も軽くなる。
それにしても、この明るさは英二に通じるものがあるよなぁ。それで英二と気が合うのかな。

晩飯と酒ということで行き先は居酒屋に決まった。
料理が美味くて安いという神尾推薦の店を目指して歩く。
話に適当に相槌をうちながらも頭の中ではどうやって話を聞こうかとそればかりを考えていた。



*****
*****



コンビニで買った弁当は不味かった。
自慢じゃないけど自分で作ったほうがはるかに美味いものができる。
でも1人分を作る気になんなかった。

基本的に料理は好きなほうだと思う。
家で当番制の食事を作ってる時だって面倒だと思ったことはなかったし。
そりゃ朝早く起きなきゃいけなかったりするのは辛かったけど。

大石ってさ、ホントに嬉しそうな美味しそうな顔してオレの作った料理食うんだよなぁ。
それ見るのが楽しみで、あれこれメニュー考えたりして・・・って、だからダメだっつーの。
もう、いい加減大石のことばっか考えるのやめろよ、オレの頭。

食べ終わった弁当のカラを適当にコンビニ袋に押し込んで、部屋の隅のゴミ箱に投げ入れる。
ガコン、と音がして弁当箱がゴミ箱に入るのを目で追ってから、床にゴロンと横になった。

「あーあ」

せっかく少し頭を冷やそうと大石の誘いを断ってんのに逆効果だった気さえしてくる。
なんだってオレはこんなに大石だらけになってるんだ?
地元にだって仲のいい友達はたくさんいた。大石より長い付き合いで、それこそ幼稚園から高校まで一緒だったヤツだっている。
でも、こんな1人の人間に捕らわれて、あげく独占欲まで持ち出すなんてことなかったのに。

・・・なんか片思いしてるみたいだよなぁ。

ああ、そうだ、そんな感じ。今すごくしっくりきた。
好きになった女の子は他に好きなヤツがいた。そうそう、それだよ。
・・・って、なに言ってんだか。大石は男だっつーの。
男、なんだよなぁ・・・。

「うー・・・」

芋虫みたいに部屋をゴロゴロ転がったってなにひとつ問題は解決しない。
気になるなら聞けばいい。大石に直接。
大石はバカみたいに真面目で誠実だ。適当な嘘でオレを誤魔化したりはしない、と思う。

ホントはさ、わかってるんだ。聞いたらやぶ蛇になりそうで躊躇してること。
オレが聞いたことがきっかけで、大石が自分の気持ちを自覚したらどうしよう、本当に側にいたいのは誰か気づいたらって。
その時はもう大石にとってオレはいらない存在になっちゃいそうで。
だからって、このまんまじゃいずれ大石に愛想つかされるのも目に見えてんだけど。

考え事をしながら部屋を右に左にと転がってたらクロゼットの角に足をぶつけた。
「いってーっ!!!」
一瞬涙が浮かぶほど痛くって、慌ててジーパンを捲くったら思いっきり赤くなってた。痣になること決定。
馬鹿だ。馬鹿すぎる。

「だーっ!くそーっ!!」

足は痛いし、オレはグズグズしてかっこ悪いしでだんだん腹が立ってきた。
もういい、当たって砕け散ってやる!
どっちにしたって結果が変わらないなら、オレがすっきりする方を選んでやる。
そうと決まれば大石に電話・・・いや、直接顔みて聞こう。
おし、行くぞ!・・・・・・と気合を入れて部屋を出ようとしたオレの出鼻をくじく携帯の着メロ。
ったく誰だよ!・・・ん?神尾?

「もーしもーし」
『あ、英二さーん!助けてくださいよー!』
「オレ忙しいって・・・え?どしたの?」
『とにかく来てくださいって!頼みます!!』
「来いって、どこへ?」
『駅前の居酒屋ですよ。こないだみんなで行った』
「あー、あそこね。そんで?」
『じゃ、待ってますから!ソッコーで来てくださいよ!』
「あ、おい!!」

切られた。なんなんだ。
ソッコーで来いったって、オレ、これから大石のとこに行く予定なんだけど。
うーん。困った。どうしよっかなぁ。
ちょっと迷ったけど、神尾の必死な様子が気になるからとりあえずちょこっとだけ行くことにした。
どうせ、今の電話で、入りまくりだった気合はどっか行っちゃったし。
大石と約束してるわけじゃないから、用を済ませてから行っても問題ないだろ。

それじゃ神尾を救出に行くか。
ところでなにやってんだろ、あいつ?



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