どこにいても、きっと 3
あー、なんか冷たくて気持ちいい。
ここんとこ熱帯夜と考え事で寝不足だったんだよ。
風も吹いてる。気持ちいいなぁ。もうちょっとこのまんま寝てたいなぁ。
そういえばさっき大石がいた気がしたけど・・・気のせいだよな。
だって、大石は一昨日からおばさんの実家でやってる法事に行ってるし。
帰ってくるのは明日の夜だって言ってたし。
・・・たった3日顔見てないだけで幻が見えるってどうなの、オレ。
ホント、やばい。
どんだけ大石のことが好きなんだって感じじゃん。
ああ、もう。
おでこの辺りにあった冷たくて気持ちのいいものがフッと無くなって、つられるようにオレは目を開けた。
辺りを見回せば見覚えのある公園の風景。
まだどっかボーっとしてる目の前に大石の心配そうな顔。
手には濡らしたハンカチとミネラルウォーターのペットボトル。
・・・・・・え?大石?
「気がついたか、良かった。急に倒れたから驚いたよ。あ、水、飲んだほうがいいぞ」
「・・・・・・」
「どうした?まだ具合悪いか?」
「・・・お、おいし?」
「あ」
目の前の大石が一瞬ハッとしたような顔になって、それから困ったように目を泳がせる。
いや、大石っていうか、大石に似てるけど、でも。
「・・・まいったな。なんて説明すればいいんだ」
「大石、なの?・・・どっかから来た大石?」
「え?それはどういう・・・」
「ね、他のとこから迷い込んで来ちゃった大石でしょ。違う?」
そうだ、この感じ。大石に似てて、間違いなく大石だけど、この世界に住む大石じゃない大石。
前にオレがカバンを無くして迷い込んだ世界にいた大石みたいな。
ほら、目の前の大石がびっくりしてる。絶対そうだ。
「なぜそれを・・・。!!英二、もしかして君は、あの時の英二か!?」
「ええっ!?」
今度はオレが驚く番だった。
だって、あの時の、って。
「もしかして、大学生だった大石?マジで?」
「乾助教授に言われて、一緒にカバンを探して歩いた英二か?」
本当に本物だ。
だって、向こうの乾のことも、カバンのことも知ってる。
・・・信じらんない、また会えるなんて。
***
英二に連れられて英二が住んでいるマンションに行った。
2Kか2DKくらいのわりと広い部屋。
玄関にあった靴や、それ以外の細々した物からも誰かと一緒に住んでいるのがわかる。
英二のものではなさそうな靴は男物だ。
こちら側の俺と一緒に住んでいるんだろうか。
そうだといいんだけれど。
「英二、このダンボールはどうするんだ?」
「あ、それはその辺に・・・じゃなくて、オレの部屋へ放り込んどいて。そこのドア開けたとこだから」
言われたとおりにすぐ右手側にあったドアを開けた。
ポスターが貼ってあったり、大きなぬいぐるみがあるカラフルな部屋の入り口付近にダンボールを置く。
ちらりと目の隅に入ったのは、部屋の中央にあった口の開いた大きなスーツケース。
中には投げ込んだみたいに飛び出している洋服。
「おーいし、麦茶でいい?」
キッチンから呼ばれて、とりあえず部屋のドアを閉めた。
6畳ほどの広さがあるキッチンはリビングとしても使っているようで、紺のラグの上に小さなテーブルが置いてある。
そのテーブルに麦茶を2つ置いた英二が、クッションに座って手招きをしていた。
「あ、大石、お腹空いてない?買い物してないからたいしたものないけど、腹減ってるならなんか作るよ?」
「ありがとう。いまは麦茶だけでいいよ。それより英二、どこか旅行でも行くところだったんじゃないか?」
「へ?旅行?」
「部屋にスーツケースが出てたから」
「・・・あー、あれ。違うよ。ちょっと古い服とか片そっかなーとか思ってただけ」
「そうか。ならいいんだ」
わずかに英二の表情が曇ったのが気になったけど、いきなり根掘り葉掘り聞くのもためらわれた。
それに、なんだか聞かれたくないような顔をしているし。
「いい部屋だな。窓がたくさんあって明るいし」
「そーなんだよ!ここ見に来た時に一発で気に入っちゃってさ、他のトコも見てみようっていう大石を押しきって、ここに決めたんだよねー」
「ああ、やっぱりこっちの俺と一緒に住んでるんだ。よかった。俺も英二と暮らしてるんだよ」
「英二って・・・オレ!?向こうの世界の!?」
「うん。英二がこちら側に帰った後で知り合ったんだ」
英二は大きな目をさらに大きく見開いて、そしてパッと花が咲くように笑った。
そう、この笑顔。俺はこうやって笑う英二がとても好きだ。
「ね、ね、向こう側のオレってどんな感じ?やっぱ、オレと似てる?」
「俺の世界の英二は俺と同い年だから、少し年上だけど似てるよ」
「年上かぁ。向こうのオレってなにやってる人?」
「今は服飾関係の会社に勤めてる。将来は小さくてもいいから洋服とか雑貨を扱う自分の店を持つのが夢なんだ」
「ほぇ〜」
「店を持ったら俺を雇ってくれるって言ってる」
「あっはっはっは。オレなら言いそう。・・・でも、いいなぁ、それ」
英二が夢見るように目を閉じて微笑む。
俺の世界の英二も時々こういう仕草をみせるから、その度に俺は英二の夢を叶えるためにどんな協力もしようと胸に誓う。
「それがホントになったらすっごい楽しそうだね」
「実現させるよ。そのために俺も英二も毎日頑張ってる」
「そっか・・・そうだね。ね、もっと向こうの話聞かせてよ」
英二にせがまれるまま、俺はいろんな話をした。
英二と出会った時の話、英二に教えてもらって料理ができるようになったこと、毎日どんな風にすごして、どんな話をしているのか。
「あ、そういえば、裕太とか乾助教授はどうしてんの?」
「裕太くんはずいぶん大きくなったよ。うちの英二と仲がいいんだ。乾助教授は・・・」
「どしたの?」
「あの人は相変わらずだ。それに、俺がこちら側に来たのは、助教授の実験に関係があるかもしれないんだ」
「実験?」
「ああ。実は、久しぶりに乾助教授から連絡があって・・・」
俺は今回のことを英二に詳しく説明した。
助教授からの電話、大学で話した時のこと、おつかいを頼まれてから現在に至るまで。
「うっわ、絶対それって乾にハメられたんだって。あいつならやる、そんくらいはぜーったいやるね!」
「そうなのか?・・・まいったな。どうすれば帰れるのか全然見当がつかないよ」
「うーん・・・。あ、そうだ!ダメもとでこっちの乾に会ってみるってのはどう?」
「えっ?ここの乾って、英二の同級生の?」
「そーそー。助教授じゃなくて、ただの汁好き・ストーカーもどきな大学生だけど」
「・・・それって、なにか解決策になるのか?」
「だからー、ダメもとだって。あ、でも、無駄な知識はいっぱい持ってるから、なんかわかるかもよん」
汁が好き(?)で、ストーカーで、無駄な知識を豊富に持つ大学生の乾助教授。
なんだか会うのが不安な気もするけれど、何もしなければ進展もしない、か。
そうだよな、俺は今日中に帰らなくてはいけないんだ。躊躇してる暇はない。
どこか面白がってるみたいな英二に連れられて、俺は大学生の乾くんに会いに行くことにした。
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