everlasting 4




重たい瞼をどうにか持ち上げると、暗い部屋の中で暖炉の火が燃えるのが見えた。
部屋が暗いのは夜だからだろうかと朦朧とした頭でぼんやり考える。
上瞼と下瞼が強力な磁石のように引き合って、いくらも開けていられない。
どうにも逆らえなくて、閉じるにまかせた。
視界が消える寸前に暖炉の灯りが遮られ、代わりに金色の小さな光を伴った漆黒の闇が目の前に現れた気がしたが、確認することは出来ずまた深い眠りへと引き込まれていった。



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次に目が醒めた時には頭がだいぶはっきりしていた。
体には少しだるさが残っていたが、目はしっかりと開けることができる。
横になったまま辺りを見回し、見知らぬどこかの部屋だというところまではわかった。
そしてしばらくしてから、ようやく自分が魔物の館に来ていたことを思い出した。

探索した部屋はどこにも家具類はなかったが、今英二が横になっているのは寝台だ。
部屋には他に壁を覆う本棚、安楽椅子、そして中央に小ぶりのテーブルがあった。
暖炉には赤々とした火が燃え暖かい。
こんな部屋があったのかと思うと同時に、誰が自分をここに運んだのだろうという疑問にぶつかる。
英二が調べた限りでは魔物以外が住んでいる様子はなかった。
では魔物が運んだということになるが、そうすると次は何の為にという謎にぶち当たる。
1番単純に思いつく理由は、食べる為、だが、それだとわざわざ寝台に寝かせた意味がわからない。

英二が頭を悩ませていると、音もなく部屋のドアが開いた。
視線を向けると闇を纏った金の瞳がある。
暖炉の明りがあるせいで、初対面の時よりその姿がはっきり見て取れる。
青年の姿の魔物は髪も着ている物も黒一色で、僅かに青白い顔と金色の瞳だけが異なる色彩だった。
金に光る瞳の色を除けば人と姿形は変わらない。
「・・・えっと・・・オレをここに運んで来たのって・・・」
寝台に上体を起こし伺うように問い掛けたが、魔物は何も答えないまま、また部屋を出ていってしまった。
「・・・喋れるんだから、なんか言ってくれたっていいじゃん」
ぽつんと部屋に取り残され、英二は再び寝台に横になる。
色んなことを考えている間にだるい体はまた眠りに落ちていた。



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再び目を醒まし、部屋を見回した時に、小さな違和感を感じた。
どこかが眠りに落ちる前と違う。
注意深く観察すると、部屋の中央にあるテーブルにいくつかの食器が乗っていることに気がついた。
部屋に魔物の姿は無い。
あの食器はなんだろうと思い、確認しようと寝台から起き上がる。
立ち上がり歩くと視界がグラリと傾いて慌ててテーブルの縁に掴まった。
どうにか倒れるのを堪え、目を閉じてゆっくりと深く呼吸をする。
しばらくして落ち着き目を開けると、手付かずのまま冷めてしまったスープとグラスに入った水が見えた。
この部屋が魔物の部屋だとしたら、当然これも魔物が用意したものということになる。

水を見た途端、急激に喉が渇きを訴え、視線がグラスに釘付けされる。
水くらいなら無断で飲んでも大丈夫だろうか。
迷いは渇きに抗えず、グラスを手に取る。
念の為、匂いを嗅ぎ、ただの水だと判断して口元に移動させた。
一口飲んだらもう止まらず、残りは一気に飲み干す。
口から入った水が体の中を流れるのがわかる。
久しぶりに体に入ってきた水分に驚いたのか、胃がきゅうっと縮まった感じがした。
そういえば、ここに来てから何も口にしていないことを思い出し、グラス横にある皿のスープに目がいく。
さすがにこれを勝手に食べてしまうのは気が引けて、だが水を飲んだことで目覚めてしまった胃袋は容赦なく次を要求してくる。
せめてもう一杯水があればと英二は部屋を見回すが、他に水が入った容器などはない。
どうしようかと逡巡していると、また部屋のドアが開いて魔物が戻ってきた。

空のグラスを手にしたまま、英二は思わず数歩後ずさる。
魔物は英二を見、テーブルの皿を見て僅かに目を細めた。
「あ、あの、・・・水、勝手に飲んじゃったけど、えっと・・・」
「・・・これは?」
魔物が視線でスープの皿を指す。
「それは手つけてないよ!水だけ!」
「そうじゃない。スープはいらないのかと聞いてるんだ」
「・・・え?・・・飲んで、いいの・・・?」
英二は驚いて魔物を見る。
「何か口にしておかないと治らないだろう。それを飲んだらまた横になっておくんだ」
さらに驚いた英二の目が大円に開く。
「・・・・・・どうして、」
「ここで死なれては迷惑だ。・・・ただ、それだけのことだ」
魔物は手にしていた本を棚に戻し、新たな1冊を手に取った。
そのまま背を向け、ドアに手をかける。
「体が良くなったら出て行ってくれ」
魔物はそれだけ言うとまた部屋を去っていく。
英二はそれをただ呆然と見ていた。




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