everlasting 6
翌日、英二が目覚めた時にはすでに洗面用の水と朝食が用意されていた。
最後にもう一度魔物に礼を言いたかったと、若干気落ちしたまま顔を洗い朝食に手を付ける。
食事を終え、簡単に身支度を整えて英二は部屋を出た。
廊下をまっすぐに進み、突き当たった階段を降りる。
そうして下へ下へと降りて行けば、やがて玄関の大扉へと辿り着けるはずが、そう簡単にはいかなかった。
暗闇の中、下り階段は見える範囲に2つしかなく、その先は部屋になっている。
部屋へ入ると中にドアは無く、それならといったん出て来た道を戻るがもう片方の部屋も同様だった。
「・・・んー?階段を見落としたのかなぁ?・・・スタート地点に戻るか」
もう一度部屋へ戻りそこから慎重に確認しつつ歩くが、暗く視界が悪いことも相まってどうしても出口へ着かない。
元の部屋を起点に5回挑戦したが結局玄関には出られなかった。
「これは自力じゃ無理だぁ・・・よし、魔物に案内してもらおっと。どこにいるのかな」
再度部屋を出て、今度は魔物の居場所を探す。
だが、魔物も見つけることができなかった。
**
「・・・まだ帰らないのか」
午後になってから魔物はやっと部屋に現れた。
館の中を歩き回り疲れ果てた英二がちょうど部屋に戻って休んでいた時だった。
「帰るも何も!出口まで行けないんだもん!!」
疲れのせいもあり、半ばやつ当たりで英二が文句を言うと、魔物はやれやれという顔で手招く。
「玄関まで案内しよう」
「・・・うん。ごめん、ありがと」
魔物に続いて英二も部屋を出る。
魔物は暗闇に慣れているのか歩くのが早く、英二は置いていかれないように必死になって歩いた。
幾つもの階段を上り下りし、幾つもの部屋を通り抜けて、やっと見覚えのある大扉に着いた。
「着いたぁ〜!迷路みたいだったじゃん・・・」
「・・・もういいな?」
「うん。ありがとう。それじゃ、お世話になりました」
ペコリと頭を下げた英二に魔物は頷き、そのままゆっくりと階段を上って行った。
英二は玄関の大扉を開け、久しぶりに外の空気を吸う。
表に出ると樹々の合間からキラキラ陽が零れ眩しさに目を細めた。
「さて、と。帰るか」
1歩進み、英二ははたと立ち止まる。
「あれ?」
立ち止まったまま空を見上げ、そして辺りを見回した。
冬の寒さは当然として、もうひとつ館へ来た時にはあったものが見当たらない。
その場でしばらく考え込むようにしていた英二は、思いついたことを確認する為に玄関へと駆け戻り、館の中へと入っていった。
**
大石は重い足取りで1段、また1段と階段を上っていた。
これで望んでいた静かな生活に戻れるというのに、まるで体の中に大きな空洞ができたかのような虚しさに押し潰されそうになる。
どうしてこうまでして生きているんだろう。
異形の者に成り果てて、終らない孤独を抱えて。
こうして生きている意味は果たしてどこにあるのだろうか。
答えの出ない問いを重ねていると扉が開く大きな音に続き、けたたましく階段を上ってくる足音がした。
何事だと思う間もなく、たった今出て行ったばかりの人間が戻って来る姿が目に入った。
いったい何故、と呆然と駆け寄って来る姿を見ていた大石は、間近まで来た人間に腕を取られて我に返る。
「・・・、雪、」
「・・・・・・雪?」
「雪が、降って、ない!積もった雪も、なかった!・・・いつから?」
荒い息をつきながら唐突に意図のわからない質問をぶつけてくる相手に大石が面食らったように瞬く。
対する人間は大石の顔を食い入るように見つめながら答えが返ってくるのを待っている。
「・・・はっきりとは覚えていないが・・・ここ最近は降っていないようだな」
「オレがここに来た時は降ってた。次の夜は月が見えたから、雲は無かったってことだよね?」
「・・・そうだろうな。それがどうかしたのか」
「オレがここへ来てから雪が降ってない」
答えを見つけたと言わんばかりの表情で同意を求めるように大石を見つめてくる人間に、大石はわからないと首を振った。
「だから!オレがここへ来たから雪が止んだのかもしれない、ってこと!」
「・・・ただの偶然だ」
「今年の冬はおかしくて、ずっと雪が止まなかったんだよ!それなのにオレがここへ来てから雪が降ってない!」
言い募る相手に大石は溜息をつく。
「俺と災厄は関係ないとわかったんじゃなかったのか」
「うん、それはもう疑ってない。でもオレ、確かめてみたいんだ。もうちょっとここに居させて」
そう言うなり大石が止める間もなく館の奥へと進んで行ってしまった。
大石はその後を追いかけながら、彼が戻ってきてくれたことを喜んでいる自分の心を悲しい思いで感じた。
そう遠くない未来に、よりいっそう深い絶望と苦悩を味わうことになるのに、と。
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