fish 6




放課後の委員会に行ってしまった大石を教室で待ってたら先生に追い出された。
くそぅ、オレにはちょっとの時間も大事なのに。
にぶちんの大石はオレがエージだってことに気づかないまま、それでもちょっとずつオレのこと好きになってると思う。
このままいけば、絶対大石はオレのこと、ちゃんといっぱい好きになってくれるはずなんだ。
ただ、それには全然時間が足りない。
人間になってみてわかったけど、大石ってすっごく慎重。えーっと、石橋を叩いて割るってやつ?
あり?違うかな。とにかく、なにをするにしてもじっくり着実にひとつづつ進めようとするってこと。
そんな大石だから一足飛びにいきなり大好きだーっ!とはならなそうなんだよ。
時間。もっと時間が欲しい。

オレが人間になって今日で1週間。つまりはあと3日しかない。
諦めるつもりはさらさらないけど、3日じゃどう考えたって無理。
せめてあと1ヶ月欲しい。
なんとか月に住む不二と連絡が取れないかなぁ・・・。
もし不二と会えたら、もうちょっと期限を延ばして欲しいって頼むのになぁ。



学校の中にはいられなくなっちゃったから、委員会が終わるまでバス停で待つことにしよっと。
バス停なら誰にも文句言われないはず。
大石はバス通学だから、すれ違うこともないもんね。
1分1秒でも長く大石といる為に思いついたことはなんでも実行ー!

「菊丸、だよね?」

バス停に向かって歩いていたオレの目の前に、見たことない奴が立ちはだかった。
歳はおんなじくらいだけど、青学のじゃない制服を着てる。

「・・・誰?」
「俺は不二の友達だよ。佐伯虎次郎」
「不二の!?」

え、だって、こいつ、どっからどうみても人間なんだけど。
不二は透明で、あの空に浮かぶ月に住んでるってのに、普通の人間が友達のはずないじゃん。
うさんくさい・・・。

「あ、もしかして疑ってる?それじゃ、」

言うなり佐伯はすっとオレに近寄って、「菊丸って本当はサカナ、だよね?」と耳元で囁いた。

うぇ。それを知ってるってことはマジで不二の友達!?
そんじゃもしかして不二も人間の姿になって、こっちに来てたりする!?

「信じてもらえた?」
「うん、信じた!ね、不二も来てる?オレ、不二に頼み事があんだけど」
「不二はめったに来ないよ。まんま高みの見物、だね」
「あのさ、呼んでもらうことってできない?できたらすぐ」
「それはちょっと難しいかな。頼み事ってなに?不二に聞いておいてあげるよ」
「ホント?あのさ・・・」

不二への伝言を頼もうと期間延長の話をしたら、佐伯は難しそうな顔で首を振った。

「残念だけど、それはできないよ、菊丸」
「1ヶ月が無理なら2週間!それがダメなら1週間でも!」
「それも無理。あ、誤解しないで。意地悪を言ってるんじゃないよ。10日っていうのには訳があってね」
「訳って?」

佐伯の話はなんだか難しかった。
オレが月へ行った時は満月。
で、満月の時は月の魔力が最大限発揮されるから不二はオレを人間にすることができた。
けど月はだんだん欠けていくからそれと共に魔力も弱まって、今のオレにかかってる魔法を維持できるのはせいぜい満月から10日くらいまでが限度・・・てことだよね?

「・・・そっか。それじゃ不二でも期限を延ばすことはできないんだ」
「もっと小さな魔法なら新月直前まではもつんだけどね。菊丸にはとても大きな魔力が必要だから」

それならオレはどうしても残り僅かな期間で条件をクリアしなきゃダメなんだ。
大石に好きになってもらって、ガラス越しじゃないキスをするっていう条件を。
そうしないと3日後にはもう、オレは大石の側にいられなくなる。

どうすればいいんだろう。
一体どんな作戦を立てればあと3日で大石が大好きになってくれるんだろ。うーん。

「菊丸」
「・・・・・・う、ん?」
「怒らないで聞いて。率直に言うけど菊丸は間に合わない」
「な、なに言ってんだよ!そんなことわかんないだろ!」
「不二も心配してたよ。俺と不二は月からずっと見守ってたんだ」
「・・・だからって」
「ひとつ提案。大石のことを諦めて、人間になることも諦めるなら、菊丸が消えずに済む方法がある」

そんなの、・・・そんな提案、受け入れられるわけない。
だって、あとたった3日だけど、オレにはまだ時間があるのに。

「俺はね、くるくる泳ぐ小さな赤い花みたいだったサカナの菊丸が気に入ったんだ。・・・俺と月で暮らそうよ」
「・・・いやだ」
「菊丸
このままじゃお前は消えるよ」
「イヤだったらイヤだ!オレは大石といる!」

そのまま無言で睨み合う。
オレの腕を掴もうとした佐伯の手を思いっきり振り払った。

間に合うかどうかなんて誰にもわかんないだろ。勝手に決めつけんな。
大丈夫かもしれないじゃん、明日には大石がオレのこと大好きになってくれるかもしれないじゃん!

「英二!」
「・・・大石、おーいし!!」

揉めてるオレ達が見えたのか、駆け寄ってきた大石の姿に力が抜けそうになった。
・・・オレだってさ、ダメかもしれないなぁ、って思う時もあるよ。
それでもオレは大石と一緒にいたい。ホント、それだけなんだ。
サカナのまんまでも一緒にはいられたけど、人間になったからこそいっぱい喋れていっぱい大石にくっついてられた。
水槽の中でオレが毎日思い描いてた夢が叶ったんだよ。もうさ、すっごく嬉しくって幸せで。
だから中途半端なまま諦めたくないんだ。
最後の最後まで頑張って、・・・それでダメなら仕方ないじゃん。
もしも消えるなら、せめてその直前まで大石と一緒にいたいんだよ。
・・・心配してくれてる不二には悪いけど。

「どうした、英二。・・・この人は?」
「俺は菊丸の友達で、」
「違うよ、おーいし!こいつ誘拐魔なんだ、オレのこと連れて行こうとしてんだよ!」
「えっ。ゆ、誘拐魔・・・?」

困ったようにしながらも大石はオレを背後に隠してくれる。
そんなオレ達を見た佐伯は 「誘拐魔はひどいよね」 なんて笑ってる。

「君が英二を誘拐しようとしてるとは思わないけど、」
「本当はナンパしてたんだ。振られちゃったけどね」
「ナ、・・・ナンパ!?」
「また出直すよ。じゃあね、菊丸。気が変わったらいつでも言って」
「変わんないっつーの!さっさと帰れ!」

ひらひらと呑気に手なんか振りながら帰る佐伯を大石の肩越しに見やる。
・・・変な奴。
佐伯は別にどーでもいーけど、でも不二にはごめん。
オレ、もうちょっと頑張ってみるから。
だから心配じゃなくて応援しててよ、ね。



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