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幻のガーディアン・フォース
薄暗い鬱蒼とした森の中に奇妙な鳥の鳴き声が響く。 その森を賑やかな4人組が歩いていた。 黒い森と呼ばれるここは、幻のガーディアンフォースが住んでいると噂される場所だ。 冒険者のエージ達一行は、そのG.F.を手に入れるためにこの森を訪れていた。
「ここってホントに魔物が出ないんだね」 パーティの先頭をぴょんぴょんと飛び跳ねるようにエージが歩く。 「怖がりのエージには天国みたいなとこでしょ」 隣を歩くフジがからかうように笑う。 そんなフジをエージは軽く睨むけど、事実だから文句は言えない。
エージは戦闘が嫌いだ。理由は単純に怖いから。 強固な塀と魔封じの呪文で守られている町や村から一歩外へ出れば、いたるところに魔物が現れる。 魔物と戦闘になればまさに命がけ。負けたら一巻の終わりなのだ。 怖くないほうがおかしい、とエージは思う。 もっとも、腰が抜けちゃいそうな恐ろしい魔物を目の前にしても、薄く笑いを浮かべてるフジの方がもっと怖いけど。
「ここに住んでるG.F.って幻って言われてるんだろう?どんなG.Fなのかな」 エージ達のすぐ後ろを歩くタカさんが、ノートと方位磁石を手に歩いているイヌイに話しかける。 「他の冒険者から集めたデータによると、攻撃力はあまり高くないようだ」 イヌイの答えに今度はフジが
「回復系?」 と疑問を投げかける。 「どちらかと言えば攻撃補佐だな。G.F.を手に入れようと戦いを挑んだものは、みな胃が痛くなったり、心配事を思い出したりして戦線離脱するそうだ」 「変なの・・・」 エージの素直な感想にパーティ一同がうなずく。
戦闘中に召喚すると魔物が胃を抑えて逃げ出すんだとか、きっと病弱な顔をしたG.F.だとか、勝手な想像で盛り上がったパーティ一行は、いつの間にか日の差込む場所へ出ていた。 そこだけ高い木が生えておらず、地面には丈の低い草が風にそよいでいる。 頭上からまっすぐ注ぐ太陽の日差しが、暗さに慣れた目にまぶしい。
「ここが森の中心地点になるな」 イヌイが手にした地図に方位磁石を合わせて辺りを見回した。 「じゃ、ここで休憩しようか」 タカさんが肩から下ろした荷物から水と食べ物を取り出して腰を下ろした。 「そうだね」 その横に羽織っていた黒のローブを脱いだフジが座る。 明るい日差しが気持ちよくて大きく伸びをしていたエージは、視界の端に森を背にして立つ人影を見つけた。 「あれ?あんなとこに人がいるよ?」 エージが指差す方向をみんなの視線が追う。
緑の木々を背に、全身黒尽くめの青年がこちらを向いて立っていた。 明らかに異質な雰囲気をまといながらも、不思議と森に溶け込んでるように見える。
「この森の人かなぁ?オレ、G.F.のことなにか知らないか聞いてくんね」 魔物以外には警戒心を持たないエージが、青年に向かって駆け出す。 「エージ、待って!!」 慌てて後を追おうと立ち上がったフジをイヌイが無言で引き止めた。 「どういうつもり?あれは人なんかじゃない。あれは・・・」 「あれがG.F.である確率80%以上。そして俺が集めたデータでは、幻のG.F.になんらかのケガを負わされた人間はいない」 「だから大丈夫だとでもいうわけ?またなにか面白いデータでも取れると思ってるのかもしれないけど、エージに何かあったらただでは済まさないからね」 口元に綺麗な笑みを浮かべたまま開眼するフジにイヌイが首をすくめる。 「通常のG.F.なら戦闘で負かせば手に入るが、ここのG.F.はそうではないようだ。それなら様子を見るのが得策だろう」 「いいけどね。この距離なら僕の魔法も届くし」 2人のやりとりをはらはらしながら見守っていたタカさんがほっと息をつく。 そんな仲間のやりとりも知らず、エージは黒衣の青年と楽しげに話していた。
「この森に住んでる人?」 「そうだよ」 「それじゃ、ここにいる幻のG.F.って知ってる?あんまり強い奴じゃないらしいんだけど」 「なんで強くないと思うんだ?」 青年は柔らかな笑顔を浮かべたままエージに問いかける。 「戦わないでみんな追い払っちゃうんだって。きっと、必殺技とか持ってないんだよ」 「持ってるけど使わないのかもしれないよ」 「戦うのが嫌いってこと?」 「不要な戦闘はしたくないってことじゃないかな」 「うーん。やっぱ変なG.F.だ」 まったく理解できないとばかりに顔をしかめたエージに、青年は楽しげに笑う。 「でも、その変なG.F.を探しにここへ来たんだろう?」 「そうだけど」 「役に立ちそうも無いG.F.を探してどうするんだ?」 「やっぱ、幻とか言われると、見てみたいって思うじゃん?」 「なるほどな」
なごやかに話してる2人の様子にフジが警戒態勢を解いた。 「イヌイの言うとおり、害はなさそうだね」 「凶暴なG.F.なら冒険者を追い返したりせずに返り討ちにしてるはずだからね」 でも、とタカさんが首をかしげる。 「戦闘で手に入れることができないG.F.なんて、どうすればいいのかな?」 「今まで手に入れてきたG.F.とは訳が違うようだから、俺のデータでも予測不可能だ」 「役に立たないなぁ」 先程の意趣返しにフジが冷たく言い放つと、イヌイが指先で押し上げた眼鏡がギラリと光る。 局所でブリザードが吹き荒れるかと思われたところへ、エージと青年の春の和やかさを思わせる笑い声が響く。
「ところでさ、こんなところに1人で住んでて寂しくない?」 「そうだな・・・人と話したのは何年ぶりってかんじかな」 遠くの木々を見つめた青年の瞳が孤独をにじませたのをエージは敏感に感じ取る。 「これからもこのままここに住むの?」 心配そうなエージの瞳を青年はまっすぐに見つめ返して、すぐに小さく笑った。 「君と一緒なら離れてもいいよ。俺を連れて行かないか?」 「え・・・」
青年の申し出にエージは口ごもる。 この青年は側にいるとなんだか気持ちがほわほわと暖かくなって、陽だまりの猫になったような気分にさせてくれる。 それに笑った顔が優しくて、本当はとても気に入ってしまったんだけれど。
一緒に冒険ができたらいいと思う。 でも冒険者のパーティは4人と定められている。 これは各国の王が決めたもので、規定を守らないと町に入れてもらえない他、様々な恩恵が受けられなくなる。 今のメンバーは、最初から一緒で、誰かを外すことなんて考えられない。 みんな大切な仲間なのだ。
「・・・一緒に来て欲しいけど、オレのパーティはもう人数が一杯なんだもん」 しゅんとうなだれた英二の髪を青年が優しい仕草で梳く。 「それなら心配いらないよ。俺は人じゃないから」 「へ?」 「役にたたなそうで悪いけど、必殺技は持ってるよ。いざという時には君を守れる」 「え、え?じゃ、幻のG.F.って・・・」 「俺だよ。もっとも、君の仲間は気づいてるみたいだけど」 エージが驚いて仲間達のほうを振り返る。 フジが笑いながらヒラヒラと手を振るのが見えた。 「ほんと?ほんとにG.F.?だって、人間にしか見えないよ」 「俺は人型のG.F.なんだよ」 英二が改めて上から下まで全身を見ても、人間にしか見えない。 驚いて目を瞬かせている英二の頬にそっと手をあててG.F.の青年が微笑む。 「連れて行ってくれる?」 「ほんとにオレと一緒に来てくれるの?幻のG.F.が?」 G.F.が肯定の笑みを浮かべる。 「俺はG.F.オオイシ。君は?」 「エージだよ」 「では、エージ。たった今から俺はエージを守護することを誓う。・・・どんなことがあっても必ず守るよ」 G.F.オオイシが宣言と共にエージの額に口づけると、それまで話をしていた人影が陽炎のように揺らめいて消えた。 びっくりしたエージの手の中には一枚のカード。
「エージ!やったじゃない!すごいよ」 駆け寄ってきたフジと、その後に続いてきたイヌイ、タカさんに口々に賞賛を浴びても、エージはぼんやりと夢を見たような顔で手の中のカードを見ていた。 カードの中にある姿は、さっきまで話をしていた青年のG.F.オオイシだ。 「エージ。そのカードをみせてもらえないか?」 呆けたようにカードを見つめているエージの手からカードを取ろうとしたイヌイは、急に胃を押さえてかがみこんだ。 「どうしたんだい、イヌイ」 「いや、急に胃痛が・・・。なるほど、そのG.F.はエージ専用ってわけだな」 「取得条件はもしかしてG.F.の一目惚れだったりしてね」 「エージの様子をみると条件は相思相愛かもしれないな」 冗談とも本気とも付かない仲間の会話も耳に入らない様子のエージは、手の中のカードを見つめながら、G.F.オオイシを召還できるなら早く敵が出てくればいいのにと、かなり本気で考えていた。 (END) (04・12・24)
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