HAPPY!
移動教室の帰り、廊下で大石を見かけた。
あ、大石だ、そう思った時には隣からすっと不二の手が差し出される。
オレは遠慮なくその手に教科書とノートとペンケースを乗せて、行って来るって身振りで伝えて走り出す。
たぶん後では不二がいってらっしゃいと半分呆れたような笑顔で手を振っているはずだ。
まるで飼い主をみつけた犬だね。
前に不二にそう言われたことがある。
その時はムッとしたけど、実際そうかもしんない、って今なら思う。
だって、大石を見つけるとじっとしてられないんだ。
走る足音に気づいた大石が振り向く頃にはオレの足は廊下から離れて宙へ。
着地目標はもちろん大石だ。
大石は一瞬だけ驚いて直後にはオレを受け止める為の身構えをしてる。
だからオレはなんの心配もなく両手を広げて大石に向かって飛び込める。
体にドシンと響く衝撃、それからしっかり背中に回される手。
「おーいし!」
「・・・英二、危ないだろ?」
困った奴だって顔して、それからしょうがないなって笑う。
そんな顔も好きだからオレも自然に笑顔になっちゃう。
授業の合間の短い休み時間は、移動なんてしてればあっという間に終わる。
だけど今日は大石に会えてラッキー。
たったそれだけで、って思うかもしんないけど、クラスが違うと結構顔って合わさないもんなんだ。
大石のクラスにおしかければ?って不二は言うけど、ところがどっこい、大石ってばいっつも飛び回ってて席になんかじっとしてない。
わざわざ用事作って会いに行ったのにいませんでしたー、なんて切ないのなんの。
だからさ、偶然の出会いってのが嬉しくなっちゃうわけ。
あ、予鈴が鳴った。
「そんじゃね、おーいし。またあとで」
「ああ、またな」
ホントはちょっと名残惜しかったりするけれど、オレはバイバイと手を振って背を向ける。
頭の中で時間割をチェック、次の授業が終わればランチタイム、それが終われば授業が2時間、そして待望の放課後部活タイム。
昼は委員会だって言ってたから一緒に昼飯は諦めるとして、部活までざっと4時間ってとこ。
離れてる時間が愛を育てるのだー!・・・なんちゃって。
さてと、そんじゃあと4時間、頑張りますか。
**
待ちに待った部活タイム、1日のうちで1番大好きで大事な時間。
テニスは大好きだけどその中でもダブルスが1番好き。
でもって、大石と組んでるダブルスが1番最高。
最初はさ、ダブルスなんて窮屈でつまんないと思ってた。
大石が誘ってくんなきゃきっとダブルスなんてやろうと思わなかった。
だってさ、パートナーがいるから勝手に動けないし、飛んできた球をどっちが打つのか考えるなんて面倒じゃん?
でも違うってわかった。
大石が教えてくれた。
パートナーがいるっていうのはオレ1人じゃないってこと。
試合で負けて悔しい時に同じ悔しさを味わってくれて、勝って嬉しい時には同じ嬉しさを味わってくれる奴がいる。
他のレギュラーもみんないい奴ばっかだし、勝ったら一緒になって喜んでくれるけど、それとはまたちょっと違う。
オレが戦ってる時に同じコートの中で戦ってくれる、それがオレを普段の何倍も強くする。
これはきっと大石も同じだよね。
オレ達はずっと同じものを見て、同じものを目指して、同じものを抱えて、
たくさんの想いを共有して。
「それで出来上がったのが今のオレ達だよね」
「なにができあがったって?」
「んー、愛と友情の絆ってやつ?」
「なんで疑問系なんだ?」
オレ達は顔を見合わせて笑う。
なんでもかんでも以心伝心とはいかないけど、大事なとこはちゃんとわかってるって知ってる。
それで充分。
**
楽しかった部活タイムもあっという間に終了、どうしてこんなに早いのかと神様に文句を言う暇も無い。
オレ達2人だけになった部室では、大石がカリカリとペンを走らせる音が響いてる。
その横顔を眺めてたらちょっといいことを思い付いた。
「ね、大石。今日帰りにコンビニ寄ってこ?」
「いいよ。なにか買いたい物があるのか?」
「んーん、大石がオレに買ってくれんの」
「プレゼントは今朝渡したろ。・・・しょうがないなぁ、あまり高い物じゃなければいいよ」
「肉まんか、コーンスープか、チョコレート。どれか1個買って」
「肉まん、コーンスープ、チョコ?・・・・・・あ」
オレの言う意図に気づいた大石がぱっと破顔した。
オレと大石がまだ1年で、ダブルスを組んで少し経った頃、オレの誕生日があった。
やっと少しだけ仲良くなれて、一緒に帰ったりしてたから、帰り道で今日はオレの誕生日なんだって言ったんだ。
そしたら大石が急に近くのコンビニに駆けてって、なんだなんだ?どうしたんだ?って思ってたら、コンビニ袋を提げて帰ってきて。
その中に入ってたのが肉まんとコーンスープとチョコレート。
ごめん、今日が誕生日だなんて知らなかったから、なんて、息切らして赤い顔してさ。
オレ、あん時すっごい感動したんだ。
だって、普通は、そうなんだオメデトー!で終わりじゃん?
なんか欲しいものある?でもなく、今度なんかプレゼント持ってくるよ、でもなく、走って肉まん買いに行った大石。
なんだこいつ、サイコー!って、オレ、すっごい爆笑したけど、すっごく嬉しかったんだよ。
「そのくらいなら1個じゃなくて全部プレゼントするよ」
「1個でいーんだって」
「・・・?そうか?」
不思議そうに首を捻る大石に
「今回はね」 と付け足せば、オレの言いたいことがわかったみたいに頷く。
来年の誕生日にまた1個買って。
その次の誕生日にもまた1個買ってよ。
そしたらオレ、誕生日の度に、コンビニに駆けてった大石思い出して嬉しくなるから。
「いいよ、わかった。今年は何がいい?」
「んーとね、肉まん!」
「了解」
笑った大石が日誌に向き直る。
また静かになった部室にカリカリカリと、さっきよりもちょっと早いスピードでペンを走らせる音が響く。
そうそう、急いで急いで。
でもあんまり急がなくってもいいよ。
こうして大石を待ってるのも結構好きだからさ。
ずーっと一緒にいられたらいいな。
いられるよね、オレ達。
これからもよろしく、大石。
→HappyBirthday!!