呪術者の島 1   ( 海に咲く夢・番外編 )




西国の城を出発してから3日目、船は西へ舵を取り、世界で一番多数の航路が分岐する地点へ入った。
もう今までの航海のように追われる心配もない為、一般的な航路を使って進むことができる。

「大石、この後の針路だが」
「それなんだが、英二、春の国へ行く前に寄りたいところがあるんだ。いいか?」
「ん?オレはいーよ。どこ行くの?」
「呪術者の島へ行こうかと思ってるんだ」

大石の口から島の名前が出たとたん、周りで話を聞いていた者達からどよめきが起こった。
黒羽はかすかに引きつり、日吉は少々タチの悪い笑みを浮かべ、赤也は完全に蒼白になっている。
英二はその反応の意味するところがわからず、きょとんと辺りを見回す。
柳は大石の目的を悟って軽く頷いた。

「ふむ。精市のところか」
「ああ」
「幸村か、久しぶりじゃのう。最後に会うたんはもう5年も前になるか」
「今回の件が片付いたら報告に行こうと思ってたんだ。どうだ?」

動揺する船員達の中で普段と変わらぬ平静さを保つ大石、柳、仁王の間で話が進む。
青い顔のまま、懇願するような目で必死に首を振っている赤也の意に反して柳が頷いた。

「賛成だ。精市もきっと喜ぶだろう」
「決まり、じゃな。・・・卒倒しそうな顔をしとる奴が若干1名いるがの」
「ん?赤也か。お前は精市には会ったことがないだろう?何を怯えている?」
「だって!呪術者の島っすよ?!そんな悪魔が巣食う島へ行ったら生きて帰ってこれないっすよ!!」
「・・・一体どんなホラ話を信じているのか知らないが、ごく普通の、人の住む島だぞ」
「毎晩毎晩サバトが繰り広げられて、生きた人間が生け贄にされるんスよー?!」

どれだけ恐ろしい所なのかを切々と語る赤也に、処置なしと柳が溜息をつく。
ふと横を見れば、赤也の話を聞いた英二も青ざめてしまっている。

「英二王子。赤也の言っているのは根も葉もないただの噂話だ。信憑性は0だぞ」
「・・・内臓を抜かれたり、蝙蝠に血を吸われたり・・・しない?」
「大丈夫だよ、英二」

大石が笑っているのを見て英二はほっと胸を撫で下ろす。
なんだかすごい噂がある所のようだが、もし噂が本当なら大石はみんなを連れて行こうとはしないだろう。
安心した英二とは対照的に、いまだ必死に行かないほうがいいと訴え続けている赤也に、近寄った仁王が何事か耳打ちする。
赤也の顔色が紙のように白くなり、目を恐怖で見開いたままピタリと口を閉じた。

「赤也も納得したようじゃし、行くかの」
「何を言ったのかおよそ想像はつくが・・・まぁ、いいだろう。百聞は一見にしかずというからな、実際に行けば赤也も噂は噂でしかないと知るだろう」
「よし、それじゃ行こう。針路は北西」

大石の号令で船員が持ち場につく。
赤也は青白い顔をしたまま、黒羽と日吉に連れられてその場を去っていく。
残った大石と英二、仁王と柳がそれを苦笑しながら見送った。

「大石、もしかして精市に用というのは例の嵐の件か?」
「それもあるが、一番はやっぱり片付いた報告だな。国を離れたとはいえ、きっと心配してただろうからな」
「そうだな。精市は水鏡を使うし、事の一部始終は見ていただろう」
「例の嵐?水鏡?」

英二の頭に?マークが散乱しているのを感じ取った柳が説明に入る。

「国が侵略されて俺達が船で脱出した時、当然敵の船がそれを追ってきた。戦闘になるものと覚悟していたところへ突然嵐が起こり、その嵐は荒れた波が敵の船を全て呑み込んだ後、また唐突に去っていった。俺達の船には一切の被害を出さずに、だ。これは偶然とは考えにくい」
「偶然じゃないって・・・もしかして、誰かがやったってコト?そんなことできんの?」
「誰でも、という訳にはいかないだろうが、それをやってのけそうな人物に心当たりがある。そしてその人物が器に水を張ると、遠くの世界のことが見える。これが水鏡だ」
「・・・それって人間なの?」
「人間だよ。元は青の国の時期教皇と言われていた神官で、幸村っていうんだ」
「大石も知ってる人?」
「ああ。この船のメンバーで幸村に会ったことがないのは、英二と赤也、あとは日吉王子くらいかな」
「そうなんだ。・・・恐い人じゃない?」
「嫌われなけりゃ心配いらんぜよ」
「嫌われなきゃ・・・?」

不安顔の英二に仁王が意地の悪い笑みを浮かべる。
心配いらない、とすぐにフォローが入るはずだと待ってみても、大石は「うーん」と考え込み、柳は視線を逸らしてしまった。

「ええっ!?嫌われたらどーなっちゃうの!?」
「どうなるんかのぅ・・・クックック」
「・・・まぁ、王子の性格なら問題ないだろう。せいぜい遊ばれる程度で済む」
「遊ばれるって!?なにされんの、オレ!?」
「着いたらすぐに幸村に言っておくから、大丈夫だよ、英二」
「・・・精市が言うことを聞けば、の話だが」

先程の凄まじい噂話が英二の頭に蘇る。
大きな不安を抱えたまま、船は北西へ、呪術者の島へ着々と近づいていった。




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