呪術者の島 11   ( 海に咲く夢・番外編 )




不二の家を出てまっすぐ幸村の所へ行った大石は、ものの10分もしないうちに集会所で待つ英二と柳の所へ戻ってきた。
幸村がすでに呪いを解く気になっていたからそう時間はかからないだろうという柳の予測を聞いてはいたが、実際に戻ってきた大石の表情が穏やかだったことに英二はホッとする。

「おかえり、大石。話し合いはうまくいった?」
「とりあえず、というところかな。今、幸村があの洞窟へ呪いを解きに行ってる」
「・・・とりあえず?」
「あとは木手の出方次第だな。明日の午後、ここを発って美海島へ行く」
こうなることがわかっていたのか、即座に「了解した」 と答えた柳とは異なり、英二は不安そうに瞬く。
「・・・それって、大丈夫?また大石が狙われたりしない?」
「東国の件は決着がついてるから心配ないだろう。それに、なにかあれば幸村が援護してくれるそうだ」
そう言って大石は胸元に下がった黒い石のペンダントをかざしてみせた。
「呪石か。なるほどな」
「ジュセキ?なに、それ?」
「距離や結界に縛られず精市の呪法を中継できるもの、と聞いている」
「・・・それって、もしかして、木手の返事次第では島を爆発させることができちゃう、ってことなんじゃ・・・」
「ほう、よく気づいたな」
「うえーっ!?」
慌てた英二が大石を見上げれば、呪石のペンダントを指先で弾いた大石が苦笑いする。
「これが呪いを解く条件だって言われたんだ。脅しになるようで気が進まないが、木手には本当のところを話しておとなしくしていてもらうしかないな」
「素直におとなしくしするかなぁ?」
「そこに住む人々ごと島を壊滅させると言われれば従わざるをえまい。選択肢など最初から無きに等しいが、木手のしたことを考えれば充分過ぎる温情措置だ」
それもそうか、と英二は納得する。
本当なら木手達は東国で処刑されるはずだったのだから、それを見逃して尚且つ島の命運まで救ってもらえるなら感謝のひとつもあっていいくらいだ。

「ところで大石、出航が明日の午後というのは?」
「ああ、幸村が久々にみんなと剣を交えたいと言ってるんだ。それで、簡単な試合をすることになった」
「それはいい考えだ。赤也や日吉王子も喜ぶだろう」
「え?幸村って剣も使えるの?」
幸村の意外な要望に英二が驚いて聞き返す。
あの中性的な容貌と柔らかな物腰からはとても剣を振るう姿が想像できない。
だが、大石は柳と顔を見合わせると、「あれは使えるなんてレベルじゃないよな」 と言い、それに柳も頷いた。
「精市も弦一郎も強いぞ。英二王子にもいい勉強になるだろう」
意味ありげに笑う柳に緊張と興奮で英二の胸が高鳴る。
剣の腕はかなり上がったと自負のある英二だが、柳や大石にはなかなか勝てない。
その2人が強いという幸村と真田はどんな剣を使うのかと考えると、楽しみだけど恐いような奇妙な高揚感を抱えたまま、午後の試合を迎えた。



**



「組み合わせはどうしようか?」
幸村が場に集まった顔を見回すと、「俺!俺やりたいっす!」と赤也が名乗りを上げた。
「へぇ、赤也か。で、誰とやりたいの?」
「そこの厳ついおっさん!」
赤也が指差した先を見た幸村が盛大に噴出した。
「おっさん・・・って、プッ、アッハッハッハ、真田、お前のことらしいよ」
「・・・おっさんではない」
「ピチピチ16歳の俺からすりゃアンタは充分オッサンだっての」
威厳と迫力のある真田を前にして臆することのない赤也が、文句があるなら言い返してみろとばかりに胸を張る。
だが、言い返したのは真田ではなく柳だった。
「赤也、弦一郎は俺や精市と同い年だぞ」
「うそォ!?マジで!?や、だって、その顔で17歳はないっしょ。わかった、歳ごまかしてんだ!!」
「・・・いいだろう。お前の挑戦、受けて立とう」
柳の言葉に目を丸くしたのも束の間、絶対ウソだと言い張る赤也に真田が憮然と返す。
「それじゃ、1戦目は真田と赤也。2戦目は誰がやる?」
幸村の問いに今度は日吉が手を挙げた。
「俺は手塚さんとやりたいです」
「2戦目は日吉王子と手塚ね。次は?」
戦いたい相手が他に取られる前にと次々と手が挙がる。
他の勢いに押されたように一歩引いた英二が、場に居合わせる顔を見回した。
「オレはどうしよっかなぁ」
「ほら、早くせんと対戦相手がいなくなるぜよ」
「んー、じゃ、幸村!」
「・・・命知らずじゃのぅ」
「えーっ?!じゃ、不二は?」
「お前さんの骨は拾ってやるから安心しんしゃい」
「もーっ、そんなこと言ってたらいつもの相手しかいないじゃん!」
からかう仁王に英二が食ってかかっていると、試合の采配をしていた幸村からおーい、と声がかかった。
「ほらほら、そこ!もう対戦相手は俺か大石しかいないよ」
「それじゃ、俺は仁王と対戦しよう。仁王、たまには真剣勝負をしないか」
名乗りを上げた大石は、口元にいつもとは違う、どこか獰猛な笑みを浮かべている。
すぐにそれに気づいた仁王だったが、素知らぬ顔で軽く肩をすくめた。
「かまわんぜよ」
やれやれと心中溜息をついて承諾した仁王に、歩み寄った柳がその背を軽く叩いて笑う。
「英二王子をかまい過ぎたな。案ずるな、お前の骨は俺が拾ってやろう」
「・・・ありがたいのぅ」
最後に残った幸村が必然的に英二の対戦相手となり、それぞれが胸の内にそれぞれの思惑を含んだ試合が始まった。




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