呪術者の島 12   ( 海に咲く夢・番外編 )




「それじゃ始めよう。一番手、赤也、真田!」

幸村のかけ声で丸く人垣が出来た中心に赤也と真田が進み出る。
「俺が勝ったら柳さんは俺の物だからな!」
「蓮二は物ではない」
「ぐっ・・・と、とにかく!俺が勝つんだ!だから、オッサンは柳さんから手を引け!いいな?」
「・・・たいした自信だな。よかろう、それほどまでに言うのなら俺も本気で相手をしてやろう」
指を突きつけて勝利宣言をする赤也を見下ろして、真田がフンと鼻を鳴らす。
散々おっさん呼ばわりされた挙句、柳から手を引けなどと言われれば、さすがに腹に据えかねた。
だいたい、手を引けと言われて、はいそうですかと引けるものなら、端からこんなことはしていない。
聖騎士でありながら禁忌を犯したのは柳にそれだけの価値があったからだ。
真田は剣の柄に手をかける。
それだけで周りの空気がピンと張り詰めた。

出会い頭が犬の姿で、その後も幸村や不二にいいように遊ばれていた真田を、はっきり言って赤也はかなり見くびっていた。
だから、どうして柳が、この老け顔の情けない男に入れあげているのか納得できなかった。
こんな奴より俺の方が上に決まってる。
そう思ったから試合を申し込んだ。楽勝でいけるはずだった。
だが、剣を手にした途端に、身に纏う雰囲気を一変させた真田は、犬の人でも、情けないオッサンでもなかった。
放たれる威圧感は目に見えないのが不思議な程で、後ずさりしそうになる足をかろうじて気力で押さえつける。
・・・マズイ。赤也の本能が危険信号を発する。
最初から全力でいかないと、いや、全力でいっても。

真田が繰り出す怒涛の攻撃を歯を食いしばってどうにか受け続ける。
赤也が攻撃を許されたのは真田が様子見をしていた試合開始時だけで、本格的に反撃を始めた真田を相手に赤也はどうにか剣を受けるだけで精一杯だった。
それも僅かでも気を抜こうものなら一瞬にして吹っ飛ばされそうになる。
全てを焼き尽くす業火のような苛烈な剣、戦う為に生まれてきた鬼神のような、圧倒的な力。
「くそっ、犬のくせに!!オッサンのくせにっ!」
「ふん、これがお前の全力か?でかい口を叩いた割にたいしたことはないな」
「なんだと・・・っ!!」
明らかに蔑んだ目で見下ろされ、嘲笑されて赤也がキれた。
試合用の剣を投げ捨てると腰に下げていた短剣を抜いて真田に飛び掛る。
「たわけがっ!」
真田は一喝すると短剣を握っていた赤也の腕を剣で強打し、痛みに思わず腕を押さえた赤也の頬を左手で張り飛ばした。

「そこまで!勝者、真田!」
幸村の宣言で試合が終了し、観戦していた者達が溜めていた息を一斉に吐き出した。
張り倒された姿勢を起こしもせず、黙ってうつむく赤也に幸村が歩み寄る。
「反則はよくないな、赤也。お仕置きとして、出発するまで犬になっていてもらうよ」
「・・・・・・」
するすると黒い子犬の姿になった赤也が輪の外へ出て、そのまま走るようにして去って行く。
それを目線で追っていた真田だったが、含み笑うような幸村と目が合うなり咳払いをひとつして観客の輪に入っていった。


「ねぇねぇ、柳。赤也、追っかけなくて大丈夫かなぁ?」
小さな姿が走り去った方を見遣って、英二が心配そうに聞く。
同じように、走る後姿を見送った柳が小さく笑う。
「心配無用だ。頭が冷えれば自分で戻ってくる」
「ならいーんだけど。それにしても、柳モテモテじゃん」
「羨ましいか?」
「んー、オレは大石だけでいいよ」
「・・・さり気なく惚気たな」
「にゃははー」
ほんのり染まった頬で照れ隠しに笑ってVサインを出す英二に、やれやれと柳が肩を竦める。
英二王子がこの調子なのだから、大石も仁王相手に嫉妬する必要など無いと思うが。
「恋は盲目、か」
「なに?」
「いや、なんでもない」
盲目、つまり何も見えていないということは、相手の瞳に映っているのが自分だけということにも気づかないということか。
先人はうまいことを言う、柳は1人ごちて苦笑した。


「次、手塚、日吉王子!」

幸村に呼ばれて日吉と手塚が輪の中央に進み出る。
「お前と剣を交えるのは久しぶりだな」
「今度こそ勝たせてもらいますよ」
日吉が独特な姿勢で剣を構えるのを懐かしい気持ちで眺めながら手塚も剣を構える。
まだ西国の王宮で暮らしていた頃は、こうしてよく剣の相手をしていた。
何度敗れても決して諦めることをせず、悔しさをバネにして日毎に強くなる。
言葉にすることは無かったが、手塚も跡部もそんな日吉を好ましく思っていた。
だからこそ手加減はしない。
今よりももっと強く、更なる高みを目指せと願うから。

寸分の隙も見せない手塚に日吉はじりじりと間合いを詰める。
頭の中には数々の攻撃パターンが浮かんでは打ち消され、また浮かび、消えていく。
いくら考えても己の勝利に続く道は見えない。
ならば仕方ない。
日吉は頭を切り替える。
今の自分が持っている力のありったけをぶつける。
そこで手塚に隙を作ることができれば自分の勝ち、できなければ負けるだけだ。
日吉は前へ跳躍して手塚の懐に飛び込むと一気に攻撃をしかけた。


「そこまで!勝者、手塚!」
幸村の宣言が響き渡る。
日吉は荒い息をつきながら、手にしていた半ばから折れた剣を見つめた。
負けた。だが、以前にはなかった手応えを感じた。
たった今手にした感触を忘れないように脳裏に焼き付けている日吉の前に手塚が立つ。
日吉は顔を上げ、そして差し出された手を握り返した。
「強くなったな。俺が西国を出てから3年が経ったのだと実感した」
「手塚さんがまた腕を上げていたと跡部さんに報告しておきます。あの人のことだから、きっと飛んできますよ」
「跡部には国を出た後で書簡を貰った。決して腕を鈍らせるなと言われていたが、どうやら約束は守れたようだ」
あまりにも些細な変化はともすれば見過ごしてしまいそうな程、ほんの僅かに口許を綻ばせた手塚を日吉は驚嘆の思いで見つめる。
そして、手塚の話には必ず食いついてくる跡部に、もう1つ自慢のネタができたと内心ほくそ笑んだ。




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