呪術者の島 13   ( 海に咲く夢・番外編 )




「次、不二と蓮二!」

幸村の呼びかけに、不二と柳が輪の中央に進み出た。
初めて対戦する相手を注意深く観察していた柳の目が、不二の手にしていた剣に留まる。
燃え上がる炎のようにうねる形状の両刃の剣。
「フランベルジュを使用する者と会ったのは初めてだ」
「練習用の剣だと持ち味が半減するのが惜しいんだよね」
にこやかに笑う不二に気負いは見えない。
殺傷能力が高い代わりに扱いの難しいフランベルジュを好んで使うことからみても、剣の技術に関して相当自信があることがわかる。
・・・面白い。珍しいデータが取れるぞ。
柳は自身も剣を構えると、不二の一挙手一投足を頭の中へ納め始めた。

練習用に刃を潰したフランベルジュは、その真価の半分どころか3分の1の威力も無い。
本来なら、敵の肉を切り裂き抉る美しい波型の刃は、今はただ扱いにくいだけの代物となっている。
それでも不二はこの剣が好きだった。
足運び、突き、手の返し。全てが通常の剣と異なり、精緻な技が必要になってくる。
特に相手が、目の前にいるような上級の使い手の場合は、僅かな手元の狂いが命取りになってしまう。
数回剣を交わしただけでフランベルジュのクセを掴んだ柳が、無駄の無い動きで攻撃をしかけてくる。
それを独特の返し技で受け、攻守を逆転させ、攻撃したところに思わぬ反撃が返ってきた。
ぞくぞくするようなやり取りに背筋が粟立つ。
・・・残念だな。彼が敵だったらよかったのに。
こんな練習用の剣じゃなく、真剣で戦ってみたい。
そうすればもっともっとスリルを味わえるのに。


「勝者、蓮二!」
幸村の判定に柳は詰めていた息を吐いた。
練習試合でここまで緊張を強いられたのは初めてのことかもしれない。
「さすがに青の国の宰相は強いね。ありがとう、楽しかったよ」
「こちらこそ、稀有な技の数々を堪能できた。礼を言う」
揃って笑み交わし、握手をして輪に戻る。
次の試合の為、入れ違いに輪の中央に進み出ようとしている仁王が、すれ違いざまににやりと笑った。
「最後まで本気でこられたら勝負の行方はわからんかったのう」
「練習試合ならあの程度で充分、ということだろうな。勝敗よりも楽しむことを優先したようだ」
実力の出し惜しみをしているようには見えず、かといって全力で挑んでくるわけでもない。
意識的か無意識かはわからないが、相手と拮抗するバランスになるよう調整をしている、そう感じた。
不二も使う剣と同じ、かなりクセのある性格、と柳は頭の中のデータに書き加えた。


「次、秀一郎王子と仁王!始め!」

柳たちの試合後、すぐに輪の中央で待機していた大石と仁王に、幸村が開始の号令をかける。
「がんばれー!大石ー!」
大声で声援を送る英二を見遣って大石が笑う。
「愛されとるのぅ」
「おかげさまで」
「なのになんで妬くんかわからん」
「俺は心が狭くてな、英二に関しては特に」
「独り身相手にあんまり惚気んで欲しいのう」
笑い合いながらもお互い相手の隙を見つけようと目を光らせる。
先にしかけた仁王の剣筋を読んでいた大石が返しがてら反撃し、それに対する仁王がすぐさま突いてきた剣を脇へ流す。
「俺の好みにはちぃと色気が足らん」
「それを聞いて安心したよ。東国に潜入した時はずっと英二と一緒だったって?」
「お守りをしとったんよ。・・・お前さんが言うたんじゃろ」
「それはそうなんだけどな」
「複雑な男心っちゅう奴やのう」
前へ踏み出すと見せかけて左から切りつけた仁王の剣を大石は柄で受ける。
そのまま力で押し合い、僅かに押された仁王が剣先が届く前に後方へ大きく跳躍した。
「ふぅ・・・、恐い、恐い」
「そろそろ本気になったらどうだ?」
「充分本気じゃけど?」
「嘘つけ」
「信じてもらえんとは悲しいのぅ」
肩を下げておおげさに気落ちした態度を取る仁王に大石が苦笑する。
暗殺を生業とする仁王に試合で本気になれというのはやっぱり無理だったか。
仁王の本気を引き出すことを諦めた大石は矢継ぎ早に攻撃を繰り出した。
まだ他の試合が残っている。
無駄に長引かせるよりは早急に決着をつけてしまった方がいい。


「勝者、大石!ここでいったん休憩!」
幸村の号令で輪になっていた者達がばらばらと散っていく。
「勝った勝ったー!、おめでとー、大石!」
試合を終えたばかりの大石が袖で汗を拭っている背中に英二が飛び乗った。
「・・・おっと。ありがとう、英二」
やや前のめりになったものの、すぐに体勢を立て直した大石は、背中の英二を落とさないようにおぶる要領で足を抱えてやる。
「仁王もお疲れさん!」
おぶわれて少し目線の高い英二が手の平を差し出すと、仁王が笑ってその手をパチンと打つ。
「次はお前さんと幸村の対戦じゃな。楽しみにしてるぜよ」
「うん!どこまでやれるかわかんないけど、思いっきりやってみろ、って柳に言われた」
「頑張りんしゃい」
ヒラヒラと手を振って休憩しに行こうと仁王が背を向けて歩き出す。
「仁王!」
背中から英二を降ろした大石が呼び止めると、仁王は顔だけ振り向いた。
「ありがとう。感謝してるよ」
「・・・・・・?」
なんのことかわからないというように仁王の片眉が上がる。
「俺がいない間、英二を守ってくれてありがとう」
そう言って笑った大石は、英二を促して休憩する為に集会所へと去っていった。
足を止めたまま、その後姿を見送っていた仁王は、大きく息を吐いてガシガシと銀髪をかき回す。
「・・・かなわんのぅ」
照れ臭いような、でも誇らしいような、そんなむず痒い気分でポツリとこぼして苦笑いした。




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