呪術者の島 14   ( 海に咲く夢・番外編 )




軽食とお茶で休憩を取りながら、幸村はふと思い出して不二に声をかけた。
「そういえばさ、機械島の汁男が来るのっていつだっけ?」
「フフ、乾だね。明後日の午後だよ」
そうか、と頷く幸村と同じテーブルを囲んでいた英二が、「・・・汁男?」 と、仁王が「機械島?」 と、それぞれ今の会話に反応を示す。
「ここから北西に少し行った所に、機械の発明とか研究をしてる島があるんだ。で、時々、機械に呪をかけて欲しいって依頼があってここへ来るんだけど、そこの乾っていうのが変な奴でさ」
幸村が説明してやると、不二がそれに笑いながら付け足す。
「手土産にね、乾お手製のオリジナルドリンクを毎回持ってくるんだけど、幸村はこれが苦手なんだ。僕としては結構美味しいと思うんだけどね」
「・・・あのドブみたいな汁を飲めるのは不二だけだと思うよ」
心底嫌そうな顔をする幸村に、ドブ汁と称されたドリンクを想像して英二の顔もしかめっ面になる。
「機械島の連中はしょっちゅう来るん?」
「そんなに頻繁って程じゃないけど。2〜3ヶ月に1度くらいかな。なんで?」
「幼馴染がおるんよ。柳生って知らん?」
「来たことあったかなぁ」
思い出そうと考え込んだ幸村の隣で、大石がそういえば、と口を開く。
「柳生は機械島に行ったんだったな。さっき話しに出ていた乾と同じで、最年少の招集だと話題になった」
「招集?機械島ってなにしてるとこなの?」
英二の疑問には柳が答える。
「機械島は研究者の施設だ。そこへ研究員として招かれたということだ」
「へぇ・・・なんか凄そう」
「各国から機械の理論、技術に優れた天賦の才を持つ者だけが集められる。柳生は12歳で招致されたのだから凄いと言って良いだろう」
「12歳!天才じゃん!・・・でも汁男も招かれたんだよね?」
「優秀な頭脳を持つ者には変わり者も多いと聞くが、その類だな」
「・・・柳生って人もなんか変なもの作るの?」
「今の柳生は知らんが、昔は普通やったの。真面目で堅物で口煩くての、・・・でもいい奴なんよ」
いつもとは違う、どこか懐かしむように静かな笑みを浮かべる仁王に、英二は驚き、そして少し感動した。
普段は人をからかって笑うか、皮肉っぽい笑みを浮かべることしかしない仁王に、こんな顔をさせるなんて凄い。
よくわからない機械の才能とかよりも、こっちの方がずっと凄いと思う。
「でも明後日だと会えないね・・・。出航、もう一日延ばしたらダメ?」
英二が大石を見ると、大石が困ったようにうーんと唸る。
「その必要はなかよ。柳生が来るかどうかもわからんのじゃし」
「えー、でもさ、久しぶりに会いたいとか思わない?」
「会いたけりゃ機械島へ行けばいいんよ。もう追われとらんし、いつでも行けるじゃろ?」
「あ、そっか」
ポンと手を打って納得した英二に大石がそれじゃ、と提案する。
「美海島、春の国、機械島、の順で行くか」
それいい!と大喜びで英二が賛成し、右に同じと仁王が笑い、了解したと柳が頷く。
「・・・なんか楽しそうでズルイ」
恨めしげに眉を寄せた幸村が、俺も行く、と言い出す前に不二が宥める。
賑やかな休憩が終了し、残りの試合を行う為に、それぞれが集会所を出た。



島に上陸していた船員達が2試合を終えて、最後の試合となった。
「やっと出番だ。さぁ、行くよ、英二王子」
やる気満々の幸村が軽く腕を回して肩をほぐしながら輪の中央に進み出る。
「頑張れよ、英二」
「俺の教えたことを覚えているな?己の持つ全てを駆使して戦え」
緊張している英二が、大石と柳に背を押されて前に出る。
輪の中央で対峙した幸村が、それじゃ始めよう、と言って剣を構えた。

「試合開始!」
号令と共に英二が幸村の懐に飛び込む。
予想しなかった英二の動きに、僅かに出遅れた幸村が防戦一方となった。
『様子を見る必要は無い。出方を伺っているうちに決着がついてしまうぞ。開始と同時に飛び込め』
柳の言葉を思い出しながら、得意の素早い剣を繰り出す。
英二の攻撃の速さをものともせず余裕で全て左右へ受け流していた幸村は、英二の剣戟の僅かな隙をピンポイントで突く。
危うく剣を絡め取られそうになった英二は、いったん後ろへ大きく退いた。
深追いはせずに間合いを取った幸村に、英二が再び攻め込む。
『一度離れたら次は容易く近寄れないぞ。体術のフェイントを使え』
剣で攻撃をすると見せかけて、反撃してきた幸村の剣をかわし、倒れるように地面に片手を着くと、剣を握る幸村の手を目掛けて蹴りを放つ。
だが、紙一重で避けられて、チャンスとばかりに胴を狙ってきた幸村の剣を体を捻ってぎりぎりでかわした。
即座に立ち上がり、体勢を整えて剣を構えた英二に、幸村が楽しそうに笑う。
「その反射神経の良さは猫並みだね。それに、動体視力もかなりのものだ」
「まだ、まだ、とっておきの、奥の手がある、んだぞ」
「それは楽しみだな。でも、だいぶ息が上がってるようだけど、大丈夫かい?」
「だい、じょーぶ!」
肩で息をしながら英二は覚悟を決める。
緊張していたせいで体が動かず、思っていたよりも早く体力の限界がきていた。
剣と体術で攻撃しながら、隙をみつけて動くのでは時間がかかり過ぎる。
それなら、あれをやるしかない。タイムリミットは足が動くまで。

真正面から切り込んできた英二を幸村は難なくかわし、そして反撃しようとした剣を咄嗟に引いた。
左腕を庇うように傾けた剣に、英二の剣がぶつかり鈍い音を立てる。
噛み合った剣を力で押し戻し、幸村は今見た光景を驚きと共に反芻した。
正面から突いてきたはずの剣が左から切りかかってきた。
これはなんだ?何が起こった?
英二の剣が疾風のごとく切りつけてくるのを幸村は受け流しながら、冷静に観察する。
左、左、正面、右、左、正面・・・右?!
正面からの攻撃を流そうとした剣は空を切り、次の瞬間には右から剣が飛び出してくる。
そうか、わかった。残像だ。
攻撃してくる手元だけではなく、足元も注視する。
残像を生み出す為にかなりの速さで移動している足は賞賛に値する。
だが、疲れが出たのだろう、僅かにステップが鈍る。
それを幸村は見逃さなかった。

「ここまで!勝者、幸村!」
ワッと歓声が上がる中、英二は崩れるように座り込み、そのままバタンと仰向けに寝転がった。
忙しなく息をついて伸びていると、歩み寄ってきた大石がしゃがんで英二の頭を撫でる。
「よく頑張ったな。いい試合だったよ」
「へへ・・・負けちった、けど、ね」
息が整わないまま、どうにか返事をして英二が笑う。
大石の背後から覗き込んだ幸村は、「天地がひっくり返ったって俺が負けることはないけど」と至極当たり前の顔で言い、「この俺を驚かせたんだから、たいしたもんだよ」と笑った。




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