呪術者の島 5 (
海に咲く夢・番外編 )
赤也は突如目の前に現れた岩の壁に仰天し、慌てて周囲を見渡した。
先程まで爽やかな風の吹く青空の下にいたというのに、いつの間にこんな日差しの届かない岩の洞窟に移動したのかさっぱり理解できない。
考えられるのは地面にあった謎の円図形。
あれを足でつついた瞬間に体が伸縮して解けるような感覚があった。
「なんだよ、これ。・・・どーすりゃいいんだよ」
薄暗い岩の洞窟の中で赤也は途方に暮れる。
ここがどこなのか、どうすれば元の所へ帰ることができるのか、皆目見当がつかない。
だからといって、こんな水も何もない所でじっとしていたら、いつか干からびた骸骨になってしまう。
とりあえず出口を探そうと、微かに明るい洞窟の奥を目指して足を踏み出した赤也は、背後から後頭部を思いっきり叩かれて、痛みよりも驚きで大声を上げた。
「うあっ、わ――――っ!!!わあ―――っっ!!」
「うるさい。・・・ったく、この大馬鹿もんが」
「うわ、わ・・・あ?・・・・・・仁王さん?」
聞き覚えのある声に、叫びながら頭を抱えてしゃがみこんでいた赤也が恐る恐る背後に目をやる。
怒るというより呆れ返って溜息をついている仁王が見えて、赤也は大喜びで飛び上がった。
「仁王さんだ!やった!助かったーっ!」
「喜ぶには早いぜよ。ここがどこなのかは俺も知らんからな」
「え、ええーっ!?助けに来てくれたんじゃないんスか!?」
「来んほうがよかったかのぅ・・・」
「あー、そんなことないッス!ほら、1人より2人っていうし!3人寄ればもんじゃのタレって!」
「・・・・・・俺としたことが、ちぃと早まったかのう・・・。ま、今頃は王子が助けを呼びに行っとるじゃろうし、なんとかなる、か」
地面に書かれていた円模様は幸村や不二なら解読できるはずだ。
なら、あとはここで待っていればいい。
岩壁に凭れて待ちの体制を取った仁王を倣って赤也もその隣におとなしく座る。
だが、すぐにただ待っていることに飽きてしまった。
何もしない時間は長い。
助けが来るまでの間、ちょっと中を探検でもしていれば暇も潰せる。
「仁王さん、あっちの方がちょっと明るいんすけど、もしかして出口かもしれないっすよ?」
「迷子の鉄則はそこから動かんことじゃ」
「すぐそこだし、他に道もないから迷わないっす」
「あの青光りが外なわけなかろ。ヒカリゴケでも生えてるんよ」
「俺、ヒカリゴケって見たことないっす!ちょっと見てくるんで!」
止める間もなく赤也が走り出す。
やれやれと凭れていた体を起こした仁王は、仕方なく赤也の後を追って歩いた。
**
全力疾走で問題の地点まで戻った英二は、荒い息をつきながら地面に描かれた円模様を指差した。
赤也と仁王が消えた時の状況を説明したいが今はとても喋れる状態ではない。
大石の後から走ってきたメンバーが円模様について何事か話しているが、それすらも満足に聞き取れなかった。
「大丈夫か、英二」
気遣わしげに倒れこみそうな体を支えてくれる大石にどうにか頷きを返す。
「王子はもう少し体力トレーニングが必要だな」
汗ひとつかいてない涼しげな顔の柳を目線だけで捕らえながら、英二はどうにか声を絞り出した。
「オ、レ、ここを、往復、した、んだけ、ど」
「村からここまではおおよそで8km弱、往復だと16km程度だ。音を上げる距離ではないぞ」
「・・・むぅ」
反論しようと口を開きかけた英二は、柳だけじゃなく大石や他のメンバーも息一つ切らさず、平然としているのを見て口を閉ざした。
それほど体力がありそうに見えない幸村や不二でさえけろりとしているのだから、柳あたりはヘタすると3往復くらい余裕でするかもしれない。
もしかして自分だけが軟弱なんだろうかと、英二は隣に立つ大石を見上げる。
「大石も、オレに、トレーニング、が必要だと、思う?」
「持久力があった方が剣術にも有利なのは確かだな」
支えてもらっていた体を起こして英二はだいぶ楽になった呼吸を整える。
「・・・わかった。やるよ、トレーニング」
「それでは後でメニューを作っておこう」
己の体力不足を認めた英二に柳が微笑む。
そこへ円模様についての検討が終わった幸村と不二が集まってきた。
「やっぱり、別の場所へ移動する為の魔法円だね」
「わざわざ、術師には見えないように目くらましまでかけてある所を見ると、よからぬことに使っていそうだよ」
「よからぬこと?」
思わず聞き返した英二に不二と幸村がニッコリと笑う。
「誰もいないところで、こっそりと邪悪な呪いをかけたりさ」
「秘密の儀式を行ってたりするかもね。・・・生け贄を使って」
「い、・・・生け贄?」
赤也から聞かされた恐怖の逸話が頭に蘇り、一瞬で蒼白になった英二を不二と幸村が楽しそうに眺める。
反応が顕著に現れる英二は悪戯好きな2人をおおいに満足させてくれる。
「冗談はそのくらいにしておいて、赤也と仁王を助けに行くにはどうすればいい?」
遊ばせておくと話が進まないとばかりに柳が口を挟む。
「行くだけなら簡単だよ。あの魔法円を使えばいいから」
「問題は戻ってこれるか、だけど、それに関しては対処法を実施済み」
不二が視線で示した先、元々あった魔法円のすぐ隣に新たに丸と三角を組み合わせたような不思議な図形が書き込まれていた。
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