呪術者の島 6 (
海に咲く夢・番外編 )
移動先がどこになっているのか魔法円からでは情報が足りず、大石たちは用心として不二と手塚をその場に残し魔法円に足を踏み入れた。
体が奇妙に間延びしたかと思えば、直後にねじれ、裏と表が逆転しそうな感覚に英二は本能的な恐怖を感じてぎゅっと目を閉じる。
だが、それはほんの一瞬で、次に目を開けたときは、薄暗い洞窟の中に立っていた。
「え?ここ、どこ?」
「どこかの洞窟みたいだな。島の中かどうかまでははわからないが・・・」
英二の呟きに大石が答える。
一緒に魔法円を抜けてきた柳と幸村、真田も辺りを見回して検分を始めた。
「岩と土だけではどこなのか見当もつかんな」
「島には結界があるんだから、あの程度の魔法円じゃ島の外まで人を飛ばしたりできないよ。北の山の洞窟ってところじゃないかな」
「ところで赤也と仁王の姿が見えないようだが」
柳の疑問に全員が左右に伸びる天然の通路に目を向けた。
左の道はかすかに明るく広いが、右は暗く道幅も狭い。
「出口を探して移動したのかもしれん。二手に分かれるか?」
「そうだな・・・」
「あ!見て見て!ここに×印があるよ!」
探索の手順を話し合う大石と真田から離れて、不思議な光が漏れる左側の道を覗き込んでいた英二は、壁につけられた傷を見つけて全員を手招く。
壁の×印は故意につけられたもので、削り面は真新しい。
「傷の形状から見ると投げ針のようだ。おそらく仁王がつけた目印だろう」
「こっちに行ったよ、ってことかなぁ」
「そのようだな」
柳の答えに全員が頷く。
左手側の道から探索を始めることが決まった。
**
目覚めて船から降りた日吉は、村に不二や幸村がいないのを不審に思い、ちょうど畑から戻ってきた村人を捕まえて話を聞いた。
何事かわからないが尋常ではない勢いで、早朝に山の方へ走って行ったという。
青の国の件に関しては決着がついて追われることはなくなったはずだが、また何か新たな問題でも起きたのだろうかと、日吉は教えられた道を急ぎ足で進む。
しばらく歩いて体が薄っすら汗ばみ始めた頃、道脇に佇む不二と手塚の姿を見つけた。
「不二さん、手塚さん、何かあったんですか?」
「あ、日吉、そこ踏まないように気をつけて」
歩み寄ろうとしていた日吉は、足元に描かれた奇妙な模様に足を止めた。
「なんですか、これ」
「転送用の魔法円。踏むと異次元に飛ばされるよ」
異次元は冗談だけどね、と笑って付け加えた不二に、日吉は何が起こったのか大体の話を聞いた。
「・・・赤也か。まったくろくなことをしないな、あいつは」
「幸村や大石達が救助に行ったから、無事に戻ってくるよ。心配しなくても大丈夫」
「あいつだけ残して戻ってくればいいんですよ」
毒づいた日吉は、昨日ジュジュティを飲んで頭にキノコが生えてから、赤也にずっとキノコ王子呼ばわりされた腹立ちがまだ残っていた。
その元凶であるはずの不二は、宥めるでもなく、むしろ煽るように合槌を打って日吉の毒舌を楽しんでいる。
言うだけ言ったらなんだかすっきりした日吉が思い出したように、そういえば、と話を切り替えた。
「不二さんに会ったら弟さんの話をしようと思っていたのに、すっかり忘れてました」
「裕太は元気にしてる?」
「ええ。毎日剣の稽古に明け暮れてますよ。こないだ手合わせしましたが、なかなか手強かったですね」
「手強かった、てことは、君が勝ったんだね。裕太が王位に就くにはまだまだ頑張りが必要かな」
笑って言う不二を見ながら、頑張ってどうにかなるものならとっくにそうしてると日吉は心の中で呟く。
第三王子の裕太や第四王子の葵に勝てても、第一王子である跡部には勝つことができない。
そして、と、日吉は不二の後に立つ手塚を見上げる。
まだ西国の王子だった頃の手塚にも、一度も勝てないままだった。
「どう、手塚。王宮が恋しくなったんじゃない?」
黙って話を聞いていた手塚に不二が声をかける。
「・・・別に恋しいとは思わないが」
「そうだ、船に乗せてもらって、日吉と一緒に西国へ送ってもらいなよ」
「不二。その話は何度もしている。帰るつもりはないと言ったはずだ」
「今から戻れば王位争奪戦に参加できるじゃない。そうしなよ。日吉、手塚を船に乗せてくれるよね?」
「・・・不二。人の話を聞け」
苦虫を噛み潰したような顔で眉間に皺を増やす手塚に構わず、にこやかに笑った不二は日吉にほとんど強制のような依頼をする。
不穏な空気に巻き込まれないよう、二人が会話している間よそへ視線を向けつつ、心配ないなら村へ先に戻っていようかと考えていた日吉は、少しばかり遅かったことに溜息をついた。
「・・・俺の船じゃないんで、独断で決められませんよ。大石さんに話してください」
「それもそうだね。わかった、大石にお願いしてみるよ」
「・・・不二、俺は乗らないと言っているんだ」
一向に聞く耳を持たない不二に繰り返し主張を続ける手塚。
意図した訳ではなかったが、結果的に大石に収拾を委ねる事になってしまった日吉は、微かな罪悪感と共に再び溜息をついた。
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