呪術者の島 7   ( 海に咲く夢・番外編 )




ヒカリゴケで淡く光る道を進む。
行き止まりには転送円があり、飛ばされた先を歩くとまた同じようにして転送円がある。
それぞれの円の傍にある壁には必ず×印が彫られていた。
4度目に転送円で飛ばされた先は、今まで歩いてきた中でもかなりの広さと高さがある場所だった。
洞窟の中を埋め尽くす勢いで生育しているヒカリゴケのせいで、内部が澄んだ海底のように青い光で包まれる様は、どこか厳かで幻想的な雰囲気すら感じられる。

「おぅ、来たか。ごくろうさん」
一番乗りで転送円から飛び出した英二に仁王が軽く手を振る。

「やっと会えたー!どっかで行き違ったりしてないかってハラハラしたじゃん」
「すまんの。こいつがじっとしとらんきに」
「その代わりといっちゃなんだが、面白いもん見つけたぜ」
仁王に小突かれた頭を庇いながら赤也が英二を手招く。
「なになに?わっ!?」
赤也に呼ばれるまま歩き出そうとした英二の背後に、転送円で移動してきた大石がぶつかった。
前のめりになった英二を咄嗟に大石が抱き留め、そのまま横に数歩移動する。
「ごめん。大丈夫か、英二」
「ん、だいじょーぶ。ありがと」
笑って振り返る英二に笑みを返した大石の後に、残りのメンバーが次々と到着した。

「へぇー、なんか綺麗な所だな。あの山の中にこんな場所があるなんてね」
「気温や湿度がヒカリゴケの生育に適しているんだろう。それにしても見事なものだな」
「ほう。これはなかなか・・・」
見慣れぬ神秘的な光景にそれぞれが感動したように魅入る。

「あ、柳さんだ!俺の為に来てくれたんスね!やったー!」
メンバーの中に意中の人を見つけた赤也が、尻尾を振る勢いで駆け寄った。
だが、意中の人である柳は溜息をついて叱るように声を低くする。
「・・・赤也。まずはお前の粗相の為に足労をかけた精市達に侘びるべきだと思うが」
「へ?ソソウ・・・ソクロウ・・・?」
「簡単に言うと、手間をかけさせてゴメンなさい、だ」
「謝れってことっすね!すんませんでした!」
満面の笑顔で勢いよく頭を下げられても少しも謝ってるようには見えない。
「反省の色がないなぁ。ね、蓮二、また犬にしちゃおうか?」

横に立っていた幸村が目を眇めて脅すと、赤也は飛び上がって謝りながら柳の後に隠れる。
面白がってからかうのを止めない幸村と逃げ回る赤也で騒がしくなった洞窟内、少し離れた所では仁王と大石、英二が地面に書かれた図を前に話し込んでいた。

「これって世界地図っぽいよね」
「どう見ても地図やの。そこが青の国、こっちが春の国じゃ」
「問題は地図の四隅に書かれている模様と周りを囲む見たことの無い文字、一箇所にだけ盛ってある黒い・・・砂か?」
地面に描かれた地図は大きな正方形の枠で囲われており、その枠が文字のようなもので装飾されている。
そして春の国よりはるか南のある一点に黒い塵のような物が円錐状に積まれていた。
「場所が場所やし、間違いなく何かの呪術じゃろ、これは」
「それも、あまり良いものではなさそうだな」
「この黒いのがある所ってなんだろ?」
「確か、島があったと思うが・・・」
「美海島だ。正式名称はチュラウミ島という。・・・木手達の出身地だ」

いつの間にか英二の後ろに立って地図を眺めていた柳の腕には、黒い子犬が抱かれている。
幸村から逃げ切れずまたもや犬にされてしまった赤也は、抱いているのが柳であることに満足しているのか大人しくしている。

「え?木手って、あの木手?」
英二の疑問に柳が頷くことで肯定する。
「そうだ。この辺りには小さな島が多数あるが、人が住める広さを持つのは美海島だけだ。・・・精市」
「呪いだね。それも緩効性だ。いくら結界があって強い呪術が使えないからって、これはかなり陰湿だな」
「陰湿とは?」
「何十年、何百年かけて、じわじわと浸透していくんだ。逃れる術の無い呪いがね」
地面の地図を囲むようにして集まったメンバーがそれぞれに嫌悪感を示す。
険しい表情で足元を見ていた真田がどんな呪いなのかと幸村に聞く。
「ここに積まれてる黒いものを調べないと確かなことは言えないけど、確か美海島はここ何年か砂漠化が進んでたよね。これのせいかもしれないな」
「よほどの恨みを買ったようじゃの。まぁ、奴らなら自業自得と言えるか」

仁王の言葉にみんなが複雑な表情で押し黙る。
悪辣非道な手口で戦を起こし、一度は祖国を滅ぼされた記憶は3年経った今でも生々しく胸に残っている。

「・・・幸村」
重い沈黙の中で大石が口を開いた。
「この呪いを解くことは出来るか?」
「・・・秀一郎王子ならそう言い出すんじゃないかと思ったよ。出来るか出来ないかでいうなら、答えは出来る、だ。だけど俺は呪いを解くことには反対」
「幸村、」
「むしろ、この呪いをより強力にしてやりたいくらいだね。自分達が何をされたのか考えてみろよ」
「だが、砂に浸食されることがなければ、彼らは島から出ることも無かったかもしれない」
「自分達の住む所が無くなったからって、人を蹴散らして住む場所を作ることが正論だとでも?そんな奴らだからこそ、こんな陰湿な呪いをかけられるほど恨まれたんじゃないか」
「確かに、幸村が言っていることは正しいと思う。でも、島に住んでいる人がみな悪人とは言えないだろ?」
「悪い行いを黙って見過ごしているなら同罪だね」

両者一歩も引かないまま静かに激論が続く。
周りの者が誰一人として口を挟まない為、英二も黙って聞いてるしかなかった。
英二の心情はどちらかと言えば幸村に近い。
木手達がしたことは決して許されることではないと思う。
でも大石の言うこともわかる。島に住む全ての人が悪人だとは思いたくない。
どちらも間違ったことは言っていないのにどうして答えが違うんだろう。
成り行きを見守るしかない英二は、僅かに劣勢な大石を勇気付けるようにその背に手を置いた。





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