呪術者の島 9   ( 海に咲く夢・番外編 )




村に戻った一行は、昨日使用した集会所で遅い朝食を取った。
英二は微かに緊張した面持ちで、フォークを動かしならが周りの様子を伺うが、緊張の源となっている不二や幸村は柳たちと話をしながら楽しそうに食事をしている。
自分と同じ、どこか複雑な表情でいるのは、黙々と食べている日吉くらいだった。
先程まで熾烈なやりとりを繰り広げていた大石も、幸村と柳、不二の会話に加わって時折声を上げて笑っている。
元から口数の少なそうな手塚は、そもそも機嫌の良し悪しが表情からは読み取れない。
ただ、一見した感じでは、特に昨日と変わりは無さそうだった。

「なんかよくわかんない・・・」
思わずこぼした呟きに日吉が顔を上げる。
英二の視線を追って、言葉の意味を正確に理解した日吉は英二にだけ聞こえる小声で、あの人達は、と不二と手塚を目線で指した。
「城にいたころからあんな感じですよ。あれでも仲がいいんだから不思議です」
「・・・仲がいい、の?あれで?ケンカしてるみたいなのに?」
「不二さんの母上が王宮の占い師なんで、不二さんも手塚さん達と王宮で育ったんですよ。跡部さんも含めて同い年の幼馴染みたいなものですね。ただ、跡部さんがああいう人なんで、手塚さんと不二さんがいつも一緒にいたみたいです」
「じゃ、兄弟みたいな感じなのかなぁ」
「近いんじゃないですか?あの2人はお互いのことになると遠慮がありませんから」
「それならわかるかも」
兄弟みたいなものと言われて英二はなんとなく納得する。
英二にも兄弟が多く、特に年の近い次兄とはよく喧嘩もした。
でも、それ以上によく遊んだし、なにかあると真っ先に相談に行ったりするくらいだったから、長兄や姉達と比べて一番仲が良かったと言えるかもしれない。
それなら、と英二は幸村と大石に視線を移す。
あの2人の場合はどうなんだろうか。


「精市は元神官で次期教皇の有力候補だったという話はしたな?」
「うん。でも教皇になるのはつまらないからって断っちゃったんだよね」
「つまり精市は青の国の民であっても大石に頭を下げる必要のない人間なんだ」
大石との話し合いを再開させる前に話を聞こうと、朝食後いったん家に戻った幸村の所へ行く途中、英二が先程の疑問を柳に尋ねていた。
不二や手塚の兄弟のような喧嘩とは違い、食い違う意見を真っ向から戦わせていた大石と幸村が、まだ決着もつかないうちから和やかに話していたのが、英二にはどうしても解せない。
「大石は王子だから、次期王だよね?神官は王より偉いってこと?」
「偉いというわけではなく、王の支配下に無いということだ」
「うーん・・・よくわかんないよ」
「色々省いて簡単に言えば、あの2人の立場は対等だ、ということだな。だから身分を憚ることなく議論することができる」
「言いたいこと言っちゃえるってこと?」
「そうだな。そして、お互いに信頼も尊敬もしているからこそ真剣な話し合いができる」
「・・・ふぅん」
なんとなく面白くない気分で投げやりな相槌を打った英二に、柳が意地悪気に唇を釣り上げて笑う。
「関係の在り方が異なるのだから妬く必要はないぞ」
見透かされて真っ赤になった英二が反論を試みる。
「そ、そんなんじゃないって!ただ、ちょっと、こう、ムカムカーっとしたっていうか・・・あ!じゃなくて!つまり、えーっと、信頼なんて俺だってされて・・・ん?」
「王子、そういうのを墓穴を掘る、と言う」
「う・・・」
赤い顔のまま口を噤んだ英二に笑いながら、柳は幸村の家のドアを叩いた。
すぐに招き入れられた英二と柳は、余計な物の無いこざっぱりとしたよく陽の当たる部屋に通されて、そこで話をすることになった。

「美海島の呪いの正体がわかったよ。死地呪と言って、生き物が住めないようにする土地を変化させる呪いだった。今は砂地になってるようだけど、それはまだ序の口ってところじゃないかな」
「ふむ。島の全域が砂地になった後は海中に没するというところか」
「そんなところだろうね。で、どうする?呪いは解いてもいいけど」
「へ?」
驚きで思わず声を上げてしまった英二に、柳と幸村の視線が集中した。
「・・・あ、だって、さっきはあんなに・・・」
「考えてみたら、どこの誰だか知らない奴の呪いなんかさっさと解いて、俺が自分でかけた方が楽しそうなんだよね。死地呪なんて時間のかかる陰険なのじゃなくてさ、島が一気に爆発したりするような派手なのとかさ」
「ええっ!?」
「美海島のことに関しては精市と大石に任せる。それより、不二と手塚の話を聞きたいんだが」
「なーんだ、メインはそっちか。いいけどね。で、何を聞きたい?」
「手塚が西国へ戻る戻らないで揉めていたようだが、手塚がどうしてこの島に来たのか経緯を聞いているか?」
「ああ、それなら・・・」
あっさり呪いを解くことを承知してしまった幸村と、それをどうでもいいことのように流してしまった柳の間で、英二は1人混乱していた。
今かかっている呪いを解いた後で島を爆発させるなんて物騒なことを言っている幸村を放っておいていいのかどうかわからない。
だが、英二ではこの2人に対抗できない。
「・・・と、まぁ、こんな感じなんだよね」
「なるほどな。これは少しやっかいだな。そもそも他人が加わる話でもないと思うが」
「そうなんだよ。結局はあの2人の問題だからさ」
「・・・え!?なに?もう話済んじゃったの?オレ、全然聞いてなかった・・・」
美海島の呪いのことで頭を悩ませている間に肝心の話を聞き逃してしまい、英二はがっくりと項垂れる。
「仕方がないな。掻い摘んで説明しよう。つまり、」
柳が幸村の話を説明する。
それは西国の王宮内で起きた、手塚と不二にとって不幸な事件だった。




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