ライン上に爪先立ちで




部室のベンチに座って日誌を書いてる大石、そしてその横に座るオレ。
3年になってテニス部の副部長になった大石は、毎日の部誌を書くことと鍵当番が仕事になった。
部活が終了してすでに20分以上経った今、みんな帰って大石とオレしか残ってない。
つまりは2人っきりだ。
最近オレと大石はこうして2人っきりになることが多い。
なんでかっていうと、オレがそうなるようにしてるから。
いつまでもダラダラと残る部員を追い出して、帰りにハンバーガー食べに行こうって誘う桃を断って。
そうやってオレはこの時間を作り出す。



ピンと伸びた大石のまっすぐな背中に、オレの背を預けて寄りかかる。
特になんか話しかける訳でもなく、こうしてただくっつくだけ。
そこにいることを意識してるのに、知らないふりをしてるみたいな、微妙な空気がなんだかドキドキする。
「もう少しだから」
オレが寄りかかった時に一瞬だけ止まったペンは、何事もなかったようにすぐにさらさらと動き出し、大石は部誌から目を離さないまま返事をする。
オレがくっついてくるのなんて、いつものことだって涼しげな顔して。

それじゃこれならどうだ、と今度は大石の肩に頭を乗せて、ねぇ、って声をかけた。
さらさらと紙の上を走ってたペンの音が止まる。
振り向いた顔は至近距離、大石がほんのちょっと顔を寄せたらオレのおでこに大石の唇が当たる、そんな距離。
だけどお互いなんでもない顔をして、視線だけを意味ありげに絡ませて。
「・・・・・・なに?」
「帰りにさ、コンビニ寄りたい」
「・・・いいよ」
絡んでいた視線を引き剥がして大石が部誌の続きを書き始める。
オレは寄りかかったままそれを見てる。
大石は平静を装ってるけど、何度も間違えて消しゴムで消される文字が動揺してるって証拠。



友達、親友、ダブルスのパートナー、相棒。
オレ達は手を繋ぎあったまま、危ういバランスでその中に立ってる。
まるで細いラインの上を歩いてるみたいに。
もしもどっちかが足を踏み外したらオレ達はどうなるのかな。
今のままでも楽しいけど、オレはこの先を見てみたいって思う。
オレから飛び出すのは簡単だけど、まだ迷ってる大石を無理矢理引きずりたくはない。
だから待ってる。
大石と一緒に一歩を踏み出せる時を。
でも、待ってるだけなのはつまらないから、こうして時々大石を揺さぶって。



「終わったよ、英二」
ペンを置いて部誌を閉じた大石が振り向いて、オレを見る、その視線。

たぶん、その日はそんなに遠くない。




→back                                                                                                                  (08・04・06)