想いの言葉
暖かい日差しとそよそよ吹く風が気持ちよくて菊丸は満足げに深呼吸した。
こんな日に教室の中にいるのはもったいない。
屋上でお昼ご飯を食べようと大石を誘うとすぐに 「いい天気だもんな」 と返事が返ってくる。
午後の授業のことなんか忘れてコンクリートの地面にお弁当を広げれば気分だけはピクニックだ。
大石とおかずを取り替えっこしたりたわいのない話をしながらお昼休みを満喫していた菊丸は
ふと2時間目の休み時間のことを思い出す。
思わず、にーっと笑うと嫌な予感がしたのか、なかば構えた大石が 「なんだよ」
と探りを入れてきた。
「今日さ、オレいいもの見ちゃったんだよねー」
にやにやしながら顔を覗き込むと嫌そうな顔をして大石はわずかに後ずさった。
「大石クン、前から好きだったのぉ。付き合ってください〜」
大げさにシナを作り声まで高くして女の子のマネをする。
「・・・英二」
きまり悪そうに大石に睨まれて菊丸はしてやったりと笑った。
「まぁまぁそう睨むなって。通りかかったら偶然見えちゃったんだもん、不可抗力だって」
「そういう時は見なかったことにして忘れてくれるとありがたいんだけど」
溜息をつく大石の肩をポンポンと叩きながら、
「で、どう?話し声までは聞こえなかったんだけど、セリフはあってんでしょ?」
とまた菊丸が大石を覗き込む。
「まぁそんなかんじだよ」
「やーっぱね。なんで女のコってみんな同じようなこと言うのかなぁ」
菊丸は前々から不思議に思っていた。
数多いた告白してくる女の子は、髪を染めた派手目のコだったり、真面目そうなコだったりとバラエティに富んでいるのに
言ってくるセリフはほぼ同じ。
「前から好きだった」 と 「つきあってほしい」 の2つ。
別に告白のセリフがどうであっても今は彼女を作る気も余裕もないのは大石と同じだが、
もう少し印象に残るような告白の仕方がある気がする。
「そうは言っても告白っていうのは自分の気持ちを伝える手段なんだから、そんなに選択肢はないんじゃないか?」
「それはそうなんだけど」
でもなー、といまいち納得がいかずにいると大石がフッと笑う。
「じゃ英二なら好きな相手になんて言って告白するんだ?」
「え?オレ!?」
興味深そうに笑いながら自分を見ている大石に促されて、菊丸は初めて自分自身の告白について考える。
もし付き合いたいと思うくらい好きな相手がいたら。
そしてその人に想いを伝えるには。
「あー、やっぱおんなじコト言うかな・・・」
「なんて?」
「好き・・・なんだけど、って」
さっきまで散々印象がどうのこうの言った手前、これが菊丸流告白だっ!と言えそうなものを考えたけれど。
たぶんその時になったら、自分もありきたりなセリフを言ってしまうだろうと思う。
だってこうして大石を前にして、告白の本番じゃないとわかっていても
自分の気持ちとして言う「好き」のセリフが恥ずかしくてしょうがない。
わずかに赤くなっているだろう顔を誤魔化そうとした菊丸は
「大石は?大石だったらなんて言う?」 と詰め寄る。
「俺も同じかな」
「同じ、じゃなくて、ちゃんと言え〜!!」
自分ばっかり恥ずかしい思いをしているみたいで悔しくなった菊丸がなおも詰め寄ると、
それまで正面を向いていた大石の視線が間近で、すっ・・・と菊丸の瞳に合わされた。
「好きだよ」
・・・え?
一瞬、大石の視線と言葉に捕らわれて頭が真っ白になる。
「・・・って、こんなかんじかな」
続いた大石の言葉にはっとして我に返るけれど、ボッと顔が火を噴くように熱くなるのを止めることができない。
心臓はありえない速さで鳴っているし、体中をものすごい速度で血が駆け巡ってしまっている。
「はは、なんかこういうのって恥ずかしいな」
照れくさそうに頭をかきながらのんきな発言をしている大石の肩を力任せに押しやって
その背中側に隠れた菊丸はなんとか落ち着こうと必死になる。
大石にだけは絶対に絶対にこのユデダコみたいな顔を見せたくない。
違うっ、あれはオレに言ったんじゃないっ!
落ち着けったら、落ち着けーっ!!
心の中で何度も繰り返して言い聞かせるのに、何もかもが暴走してまったく言うことを聞いてくれない。
「英二?どうしたんだ?」
突如自分の背後に隠れてしまった菊丸を不思議そうに覗きこもうとする大石に「絶対こっち見んなー!!」と叫びながら、
耳に染み付いて何度もリピートする大石の告白に菊丸は唸って頭を抱えることしかできなかった。
なんでもないありきたりなセリフでも爆弾級のインパクトを与えることができると、まさに身をもって知ってしまった菊丸だった。
-end
(04・04・15)