日常の攻防戦 Part2
試験前日。
今からじたばたしても始まらないけれど、何もしないよりはマシと思った、と善意に解釈したけれど。
さっきからいくら説明してみせても気のない返事ばかりしている英二に溜息がこぼれた。
一緒にテスト勉強しよう、なんていう英二の甘い言葉を毎回信じる俺が馬鹿なのか。
「ほら、この問題解いて。やり方はいま説明したとおりだから」
「えー。わかんなーい」
「・・・英二」
本当にわからないのか、たんにやる気が出ないだけなのか。英二はちらりと問題を一瞥して終わり。
真面目に教科書と格闘していたのは最初の30分程度で、その後は宥めても脅してもどうにもならない。
「数学が飽きたなら別の教科にするか?」
「数学っていうより勉強すんのに飽きた」
「あのなぁ・・・試験は明日なんだぞ?ここで少し頑張っておかないと・・・」
「そーそー。たった1日でどーにかなるわきゃないって」
ってことで休憩ー!なんて笑いながら、勝手に俺の分の教科書まで片付けようとする英二を止めて、また溜息をついた。
そのたった1日でどうにかしようと俺のうちに来たんじゃなかったのか?
「・・・それじゃ、なにしに来たんだ・・・」
「あー、そんな言い方ってアリ?オレはおーいしと一緒にいたかっただけなのに・・・」
「えっ!?いや、それは・・・」
「冷たいよな、大石って。いっつも一生懸命になってんのはオレばっかでさ」
「・・・だから、試験が・・・」
「あーあ、オレが想うほど大石はオレのこと好きじゃないのかなぁ」
拗ねたような上目遣いの英二からとっさに視線を外した。
この展開はマズイ。このままいくと完全に英二のペースにはまる。そして、行き着く先は。
ここはなんとしても英二の気をそらせる突破口を見つけないと。
「そ、そうだ、英二。試験が終わったら、英二が行きたいって言ってたテーマパークへ行こうか」
「マジで?!行くっ!」
「それじゃ、追試にならないように、もうちょっとだけ、」
「やったー!大石大好きー!」
喜んだ英二が勢いよく飛びついてくる。
慌てて抱きとめたものの、正面から抱きかかえるようなこの体勢はなんていうか、その。
いや、動揺してる場合じゃない、英二の機嫌がいい今のうちに、テスト勉強をする方へ持っていかないと。
「だから今日は勉強しような」
「んー。わかった。でもさ、その前に、ちょっとだけ気分転換しよ?」
「・・・気分、転換?」
「そ。ちょっとだけ」
英二の艶を含んだ目つきを見れば、気分転換っていうのが何を指しているのかは明らかだ。
そっちの方向へ持っていかないようにテーマパークの話をしたのに、逆効果だったか・・・。
もっとも、きっとなんの話題を出しても結果は同じだっただろうけど。
はぁ・・・、今日が試験前日とかじゃなければ俺だって。
だ、だめだ、こんなことを考えてる時点で英二の思うツボじゃないか。
とりあえず、今はとぼけてやり過ごすしかない。
「それじゃ10分くらい休憩するか。なにか飲み物持ってくるよ」
「10分じゃ無理じゃないかなぁ〜」
「麦茶でいいかな。あ、オレンジジュースもあるぞ」
俺の膝の上に乗り上げるように座ってる英二を降ろそうとしたけれど、がっちりと俺の首に回された腕がそれを拒む。
「麦茶は汗かいた後で飲んだほうが美味しいよね」
ニッと笑った英二がそのまま体重をかけてくる。
押し倒されそうになりながら、後についた右手でどうにかそれを堪える。
「往生際が悪いぞ、大石」
「だめだって。ちゃんと勉強しとかないと、あとで泣くのは英二なんだぞ?」
「だからー。気分転換したら、ちゃんと勉強するって言ってんじゃん」
「・・・・・・」
「いいよ、ね?」
甘えるように頭を擦り付けてきて、あげくに耳元で
「だって大石に触りたくなっちゃったんだもん」 なんて囁かれたら、俺だって反応してしまう。
それに気づいた英二が勝利の笑みを浮かべて唇を寄せてくる。
もうだめだ。これ以上抵抗なんてできっこない。
だいたい、こんな風に誘惑してくる英二に、俺が勝てた例なんかないんだ。
俺の理性なんて、英二を前にすればひどく脆い。英二はそれを知っててやってるんだからタチが悪い。
体を支えていた右手を外して、英二の体重がかかるまま横になった。
邪魔なテーブルを脇へよけて、英二を組み敷くように体を反転させる。
見下ろせば満足そうな甘い表情を浮かべてる英二。
「・・・あとで本当に勉強するんだぞ?」
「ん。約束する」
籠絡されていながらこんなことを言っても格好がつかないのはわかっているけど、いちおう俺の責任として。
とはいうものの、釘を刺した手前、疲れたなんて言わせないようにしないといけないよなぁ。
英二が満足する度合いと英二の体力を考えて。
・・・これはヘタな数学の問題より難しいんじゃないか・・・?
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(05・07・11)