■SIDE-E
そんなこと絶対ないだろうなってわかってるけど、
いつか、もしも、大石が
オレのことすっごく好きになってくれたらな、って考える
それは夜寝る前だったり
授業がヒマな時だったり
朝学校へ行く道の半分寝ぼけた頭だったりって
1日のうちのほんのちょっとの時間だけなんだけど
好きだなって思うから、好きになってくれたらな、って思う
もちろん、今だって大石はオレのこと好きなの知ってるけど、
そうじゃなくて、もっと特別な意味で
誰も代わりになんてなれないくらい、オレのこと好きになってくれたらいいのに
オレみたいに、ちょっとした時間の隙間に、
大石がオレのこと考えてくれてたらいいな
英二どうしてるかな、今なにしてるかな
そうやってオレのこと考えてくれてたら嬉しいのにな
目の前にいない時に相手のこと考えるのっていいよね
なんか、アイシテル、アイサレテル って感じ?
いっつもオレのこと考えてろ、なんて言わないけど、
大石の頭の中のちょこっとした隙間とか、
心の隅っことかに、オレ専用の居場所があればいい
でもって、それが時々、大石の頭や心をコンコン、ってノックして、
そんで大石はちょこっとオレのことを考える
いいなぁ、そんなの
そんなふうになったら嬉しいんだけどなぁ
**
■SIDE-O
飲み物を取りに1階へ降りて行く。
通りかかった居間では母さんと妹がテレビを見てる。
やってる番組はバラエティだ。
思わず立ち止まって少しの間だけ見てた。
俺はこういう番組はあまり見ないけど、英二が好きなんだ。
うちに来ると俺の部屋のテレビで英二がよく見てる。
お腹を抱えて大笑いして、時には涙まで流して。
英二もきっと今頃は家で見てるかな。
ああ、でも水曜日はお姉さんがドラマを見たがって、
チャンネル争いが勃発するんだって言ってたっけ。
部屋で明日の授業の予習をする。
そういえば英二に貸した英語の辞書をチェックしないと。
ほら、やっぱり落書きしてた。
まったく、困った奴だ。
でも、ページの隅に書かれたデフォルメされた英語教師は、
妙に特徴を捉えていて、思わず笑ってしまう。
なんだか消すのももったいなく思えてきた。
時計が1時を回っている。
そろそろ寝ないと。
英二はもう寝たかな。
またゲームして夜更かししてるんじゃないかな。
早く寝ないと朝練が辛いのに。
・・・ああ、まただ。
気付けば俺はいつも英二のことばかり考えてる。
こんなだから夢にまで出てくるんだ。
まいったな、英二はどれだけ俺を惹きつければ気が済むんだろう。
部屋の灯りを消して瞼を閉じる。
浮かんでくるのは英二の笑う顔だ。
**
■浮気
RRRRRR・・・・
「英二?おはよう。どうした?日曜なのにこんな朝早くから起きてるなんて珍らし・・」
『・・・おーいしの浮気者―――っ!!』
「ええっ!?」
『オレよりスミレちゃんがいいって、どーいうことだよーっ!』
「スミレって・・・竜崎先生?」
『もー大石なんか絶交だっ!バカ――ッ!!』
「わっ、待てっ、英二!」
『言い訳なんて、聞かないぞぅー!』
「言い訳も何も、なにがなんだか・・・。まず落ち着いてくれ、英二。俺と竜崎先生がどうしたって?」
『むぅ・・・とぼける気だな。オレの前でさんざんスミレちゃんとイチャついてたくせに・・・』
「俺が?竜崎先生と?どう考えてもありえないと思うんだけどな・・・。いったいいつの話なんだ?」
『さっき!オレの夢の中で!』
「・・・・・・夢って」
『なんだよ』
「・・・はぁ。あのな、英二。ちゃんと起きろ」
『起きてるよ!だから電話してんじゃん』
「今、英二はどこにいる?」
『布団の中』
「そこに俺や竜崎先生がいるのか?」
『・・・いない』
「そうだろ?」
『・・・う』
「・・・・・・・・・」
『・・・・・・ごめん』
「まったく。朝から驚かさないでくれよ」
『だーって、大石が・・・』
「それにしたって、なんで竜崎先生なんだ・・・」
『そんなの、オレだって知んないよ』
「とにかく。俺は浮気なんてしてません」
『ホント?正夢じゃない?』
「・・・あるわけないだろ・・・」
『ん、わかった。そんじゃもっかい寝るから、今度は夢の中でもちゃんとオレを選ぶんだぞ! またスミレちゃんとイチャイチャしてたらホントーに絶交だかんな!!』
ピッ!ツー・ツー・ツー・・・
「英二の夢だろ?無茶言うなよ・・・。それにしても、英二はなんて夢を見てるんだろうな・・・ 俺と竜崎先生って・・・」
**
■帰らないで
「そんじゃ、そろそろ帰るかなー」
「もう帰るのか?泊まっていけばいいじゃないか」
「だーめだって。こないだも大石んち泊まったからさ、最近姉ちゃんとかに大石君ち泊まりすぎーとか言われてんの」
帰り支度をしようとした俺の腰に大石の腕が巻きつく。
「・・・帰るなよ」
「なに、どうしちゃったの、大石。めっずらしー」
「いいだろ、たまには」
子供みたいにすがりついてくる大石がおかしくって可愛くって、俺は手にしたカバンをまた床へ置いた。
背中に張り付いた大石がオレの肩に顔を埋めてるから、首の辺りがちょっとくすぐったい。
「なんかあった?」
「なんにもないけど。・・・寒いから、かな」
「なんだとー!オレを湯たんぽ扱いする気かー!」
がっちりとオレの腰に手を回して、背中に張り付いてる大石が笑う振動がオレにも伝わる。
すでにぐらぐら揺らいでるオレの決意。
頭の中で晩御飯のエビフライと、父ちゃんのお土産プリンと、姉ちゃんの文句言う顔がくるくる回る。
その真ん中には大石がいて。
「ね、おーいし。オレと一緒にいたい?」
「うん」
ここでエビフライが消滅。
「オレが泊まったら嬉しい?」
「うん」
そしてプリンが撤退。
「オレのこと愛してる?」
「うん」
姉ちゃんも敗退。
ま、しょうがないか。
こんな甘ったれな大石なんて天然記念物並みのレアだし。
「いいよ、泊まったげる。でも、その代わり、姉ちゃんへの言い訳、ちゃんと考えろよー」
「英二くんを俺にください、って言おうかな」
「はぁーっ?」
「必ず幸せにしますから、って」
「・・・まさか、ホンキじゃ・・・ない、よね?」
首を後に傾けて大石を見たら、笑ってる大石がほっぺにキスしてきた。
「俺はいつでも本気だよ、英二」
「ホンキはわかったけど、それ、絶対姉ちゃんには言うなよ・・・?」
今日の大石は珍しいうえにちょっとヤバイ。
泊まりの電話は後でこっそり、1人の時にかけよう・・・。
**
■冬の帰り道
「ううー、寒いぃぃ」
「今年は本当に毎日気温が低いよなぁ」
「さーむーいーぃぃぃ」
「大丈夫か、英二」
「だめ、寒い。凍る。つららになるぅぅ」
「いや、つららにはならないだろ・・・」
「それくらい寒いんだって」
「ああ、なるほどな」
「ってゆーか、なんで大石は寒くないんだよー」
「俺だって寒いよ」
「嘘だー。だって寒いって言わないじゃん」
「寒い、寒いって言ってると余計に寒くなるだろ?」
「げ、そーなの?」
「何度も繰り返し言ってれば、そういう気分になってくるじゃないか」
「あー、そっか」
「だから言わないようにしてるんだ」
「そんじゃさ、暑い暑いって言ってれば暑くなってくんのかな」
「どうだろうな・・・あんまり真実味がないと、」
「暑いー暑いー暑いー・・・寒っ!!」
「いや、だから、」
「あったかくなんない・・・」
「・・・しょうがないな。そこのコンビニへ寄ってなんか暖かいもの買うか」
□□□
「さーむーいーぃ。冷たいーぃぃ」
「・・・どうしてアイスなんか買うんだ」
「だって食べたかったんだもん」
「それならせめて家に帰ってから食べればいいだろ」
「いま食べたいんだって。うぅー美味しいけど冷たい・・・体の芯から凍る・・・」
「見てるこっちが寒いよ・・・」
「うぅ・・・寒。あ、雪だ」
「本当だ。どうりで冷えるはずだよ。本格的に降って来る前に帰ろう」
「ん。アイスも食べ終わったし、帰ろ帰ろ」
□□□
「けっこう降って来たな。あまり積もらないといいんだけどなぁ」
「あのさ、積もった雪見てるとさ、カキ氷食べたくなんない?」
「どうして冷たいものばかり食べたがるんだ・・・」
「積もった雪をお椀にすくって、イチゴシロップとかかけたら美味しそうじゃん?」
「・・・英二。何を食べてもいいけど、風邪と腹痛には気をつけような」
**
■赤・紅・朱
外界から全てを切り離し、
2人だけの空間を作り出す為に閉じたカーテン。
その僅かな隙間から、
ふいに零れた夕日が英二を照らした。
薄暗い部屋に入り込んだ光は
ちらちらと揺れて彷徨いながら
英二の首筋を、
うっすらと浮き上がる肩甲骨を
乱れた髪のかかる頬を、
舐めるように、慈しむように撫でていく。
眩しさを感じたのか、
半ばシーツに埋めていた顔を
気怠げにゆっくりと滑らせて英二の横顔が顕になる。
その赤い唇が目を惹いた。
執拗に繰り返した口付けのせいで
紅を引いたように色付いた唇が冬の肌の白さに映える。
もっとよく見たくて
、
指先で顔にかかる髪を払うと、
髪の隙間から仄かに朱に染まった目許が現れた。
放心した英二の瞳が、
俺の指を追うように緩慢に動く。
髪の1本1本まで丁寧に払い除け、
隠す物の無くなった英二の横顔を改めて眺めた。
頬から顎にかかるライン、目許と唇の赤。
知らなかった。
英二がこんなに綺麗だったなんて。
飽きずに眺めていると、
ゆっくりとした動きで英二の瞳が俺を捕らえた。
スローモーションを見ているみたいに
緩やかに笑みを形作る唇に、
気がつけば
今日何度目かわからない口付けを
落としていた。
**
■羊が1匹、羊が2匹
「おおいしぃ?。眠くないよぉ・・・」
「寝ないと明日起きれないぞ。みんなで遊園地行こうって言い出したのは英二だろ?」
「そーなんだけど。でも眠くないんだもん」
「目をつぶってれば眠くなるよ」
「羊とか数えたり?あ、そういえば、あれってなんで羊なの?」
「え・・・。そんなこと聞かれてもなぁ。白くてふわふわしてて和むから、とかじゃないか?」
「それだったら白い子猫だっていいじゃん。ほら、こないだペットショップにいたやつみたいの」
「あれは可愛いかったな」
「でしょ?オレ、羊より子猫の方がいいなー」
「じゃ英二は子猫が一匹、子猫が二匹って数えれば?」「大石は魚が好きだから魚が一匹、魚が二匹って?」
「あー、それはいいかもしれないな」
「んで、最後には魚が100匹とかになって・・・うえっ」
「なんだ?」
「水槽で魚がぎゅうぎゅうに詰まってるとこ想像した・・・」
「なんでそうなるんだ・・・。川とか泳いでるところを想像すればいいだろ」
「あ、そうか。・・・なんで魚の話?」
「英二が言い出したんじゃないか・・・」
「んん?あ、羊の話だった。そんでー子猫になって、魚だ」
「子猫でいいから目をつぶって数えて。このままじゃ明日本当に起きれないぞ」
「子猫が一匹、子猫が二匹・・・子猫が三匹。くふふ、可愛い〜」
「喜んでたらダメだろ・・・」
「だーって可愛いんだもん」
「やっぱり羊の方がいいんじゃないか?」
「ヤギってさ、羊の親戚っぽいじゃん?ヤギは?」
「ヤギじゃ和まないだろ・・・」
「なんか、のほほーんとしてそうでよくない?」
「試してみれば?」
「ん。ヤギが一匹、ヤギが二匹、ヤギが・・・」
「どうした?」
「メェメェ鳴いてうるさい」
「あのなぁ・・・」
「ふぁ・・・。なんか喋ってたら眠くなってきた・・・。寝ようっと。オヤスミ」
「えっ?」
「・・・・・・・・・」
「英二?」
「・・・・・・・・・」
「本当に寝ちゃったのか・・・」
「・・・・・・・・・」
「まいったな・・・。すっかり目が冴えちゃったぞ・・・」
**
■ケンカ
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「英二、重い」
「うっさい。話しかけんな」
「怒ってるならくっついてないで離れればいいだろ」
「大石の言うことなんか聞かないもんねーっだ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「重いって」
「うーるーさーい」
「背中が痛いんだけど」
「ワザとやってんだから痛いに決まってんじゃん」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「英二・・・」
「大石が悪いんだからな。悪いことしたらゴメンナサイだろ」
「どうして俺が悪くなるんだ?悪いのは英二だろ」
「うっわ、逆ギレ?大石くんサイテー」
「英二、いい加減にしないと・・・」
「お?なに、やる気?受けてたつよ?」
「・・・・・・・・・」
「へ?わ、わ、ひゃーっはっはっは・・・やめ・・・ぎゃーっあっはっはっは・・・」
「降参する?」
「くすぐるなんて汚ねーぞ、大石!」
「そうか、まだか」
「わ、やだって・・・あっはっはっは・・・やーめー・・・ぎゃははは」
「どうする?まだ続けて欲しいか?」
「わ・・・わかった、オレが悪かったです、ゴメンナサイ。だからもう許して」
「ちょっとは懲りたみたいだな。だいたい英二が・・・」
「・・・とみせかけて。うりゃっ!」
「あっ!こら・・・あっはっはっは・・・英二っ!やめろって・・・わははは」
「オレばっか謝ってズルイよね。大石もゴメンナサイしろー!」
「だから・・・あははは・・・なんで俺が・・・うわっはっははは」
「言うまでやめないぞ〜。ほらほら〜」
「わか・・・あっはっは・・・わかった!ごめ・・・ひゃっはっは・・・ごめんなさいっ!」
「お、言ったな。よしよし。許してやるかぁ」
「はぁ・・・苦しかった。なぁ、英二」
「ん?えっ!?ぎゃーっはっはっは・・・やめろーっ!!」
*笑い疲れてやめるまでエンドレス*
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