■■■DVD■■■
あれも見たい、これも見たいって騒ぐから、5本もレンタルDVDの映画を借りてきたのに。
騒いでた当の本人といえば、1本目の半分も見ないうちに夢の中。
「英二。見ないのか?」
「・・・・・・」
こりゃ本格的に寝てるな。
「英二、・・・エージ。消すぞ」
「・・・・・・」
寝てるとわかってても、ちゃんと断ってからDVDプレイヤーとテレビの電源を落とした。
前に 『観てるのになんで消すんだ!』 って怒られたことがあるから。
・・・あの時だって、どう見たって寝てたんだけどなぁ。
ブーン・・・というかすかな音を立ててテレビの画面が暗くなる。
・・・このままじゃ寒いよな。
ベッドへ運んだら起きちゃうかな。
幸せそうな寝顔がほほえましくて、起こすのは気が引けるけど。風邪をひかせるわけにもいかないし。
英二の首の後ろにできるだけそっと腕を回す。
上半身を起こしてから抱きあげようとしたら、寝ていた英二の腕がするりと俺の首にからみついた。
「・・・んー。眠い・・・」
「ここで寝たら風邪引くぞ。ちゃんと布団で寝よう?」
「・・・ダメ」
「なにがダメなんだよ」
寝ぼけてるのか、わけのわからない返事をする英二に笑いがこぼれた。
「ほら、ベッドまで運んでやるから」
「・・・大石も」
「俺も、なに?」
「・・・・・・一緒に寝よ」
それだけ言うとまた寝入ってしまったのか、スースーという寝息が聞こえてきた。
子供みたいな英二がなんだかおかしくて、また笑ってしまう。
寝ようって言われてもなぁ・・・と窓の外を見る。
だいぶ日は翳ってきたとはいえ、まだ夕方なんだけど。
抱き起こした時のまま腕の中で眠っている英二を見れば、その手にしっかりと握られている俺のシャツ。
ベッドへ運んでそのまま英二の横に寝転んだら、気持ちよさそうな寝息につられてあくびが出た。
いいか。ちょっと遅い昼寝だと思えば。
起きたらまた映画の続きを見ような、英二。
■■■エアポケット■■■
ポコッとなにもすることが無くなる時間のエアポケット。
頭に浮かぶのは大抵アイツのことだ。
いま何してるかなー。
きっと予習だとか復習だとか宿題だとか。
そんな律儀なことをしてるに違いない。イイ子ちゃんめ。
たまにはヒマになってオレのことでも考えてみろっつの。
・・・まーね、オレと違って、ヤツは忙しい。
もう、毎度毎度いい加減にしろー!ってゆーくらいになにか用事を抱え込んでる。
まったく。中学生のくせに過労とかでぶっ倒れるんじゃないかとオレはハラハラだ。
学校の用事だの部活の雑用だのしてるよりオレと遊んだほうが楽しいよ?
っていうかオレと遊ぶ時間くらいとっとけ!
1日の時間割に『エージくんと遊ぶ時間』っていうのを入れろ。
うーんとね、3時間くらい?うん、それで許してやろう。
でもってー、休みの日は丸1日。
おー、これってナイスアイデアじゃん?
んじゃ、さっそく電話して大石に提案してやろっと。
■■■タイムリミット■■■
「ねー、大石、見て見て」
部活が終わってみんなが帰り、部室には俺と、俺を待つ英二が残っている。
部誌の端っこに落書きをしようとする英二からペンを取り上げて、その後しばらくはおとなしかったのに。
おざなりの返事なんかしてると怒り出すから、ちゃんと部誌から顔を上げて英二を見る。
・・・見た瞬間にガックリと力が抜けた。
「青学テニス部副部長の大石です!こりゃ大変」
髪を両手で後に撫で付けて、前髪だけ2房たらした英二が、モノマネまでして1人でウケている。
そろそろ退屈する頃だろうとは思ってたんだよな・・・。
ひとつ溜息をついてから、部誌に目を戻した。
早く終わらせないとまたなんか始めるぞ。
今日やった練習内容を猛スピードで思い出しながら、書き終わるまであと少しのところで、頭に何かが乗ってきた。
いつのまにか後に立っていた英二が、俺の頭の上でなにかごそごそやっている。
横目で見れば、目に入ってきたのは、英二の手と赤いマフラー。
「ほーい、菊丸英二の出来上がり〜」
俺の頭にマフラーなんか巻いて、なにをやってるのかと思えば・・・。
「英二〜。もうちょっとで終わるから」
「ホント?すぐ終わる?」
「すぐ終わるよ。だからもう少しだけ待って」
「しゃーない、待ってやるか。あ、帰りにコンビニ行こ」
「いいよ」
「今日は何を食べよっかな〜♪」
英二は俺の頭から回収したマフラーをくるくる回しながら、コンビニメニューを思案し始めた。
今のうちだ。タイムリミットは英二の食べたいものが決まるまで。
俺はまた部誌に向き直って大急ぎでペンを走らせた。
■■■ちゅー■■■
「おーいしぃ〜」
「ん?」
振り返るタイミングを狙ってちゅー。
「なんだ、どうした?」
なにが、どうした?だよ。嬉しそうな顔しちゃって、甘ったるい声出してさ。
大石ってすぐ顔に出るんだよな。
「べっつにぃ〜?したくなっただけだよん」
鼻の先がくっつきそうなほど顔を寄せる。
腕は大石の首に回したまま。
「英二はいつも突然なんだよな」
「いーじゃん」
大石からみれば突然かもしんないけど。
例えばさ、大石のピンと伸びた背中がかっこいいよな、とか。
真剣な顔して部誌書いてる横顔ににクラリときちゃったりとか。
待ってるオレの様子を見るのに顔を上げた時とか。
ホントはいつだってちゅーしたいって思ってんだよ。
好きだー!って言葉にするのは、やっぱ恥ずかしいからさ。
だからね、代わりに、態度で表してんの。
「好きだよ、英二」
・・・言うんだよな、コイツは。恥ずかしげも無く。
オレはそういう風に言えないから。
だから代わりに。
ちゅー。
■■■手■■■
そこに山があるから登るんだ、ってなことをどっかの登山家が言ったとか言わないとか。
目の前に大石の手がある。
オレの手よりちょっと大きめで指なんかもすらっと長くてなかなかにキレイな手。
そこに手があるから繋ぎたいんだ、って菊丸英二は言ったとさ。ちゃんちゃん。
部活後の部室は大石と2人っきりだし、手ぐらい繋いだって許されんじゃん?
大石の右手はさらさらと部誌なんか書いてるシャーペンに譲ってやるとして。
左手はヒマそうだよね。
ノート支えるくらいならオレの左手貸したげるからさ。
だからさ、ね?ちょっとだけ、手とか繋いでみない?
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