■■■ソファー&パスタ■■■

できあがったパスタを両手に持ってテーブルに向かう。
外から帰ってくるなりカタログと睨めっこを始めた英二は、俺が近寄ったのすら気づかない。

「英二、パスタできたよ」
「んー」
「今日は初挑戦の梅しそパスタなんだ」
「んー・・・」

だめだ、全然聞いてない。
仕方がないから1度皿をテーブルに置いて、英二の見ているカタログを覗き込んでみる。

「そんなに真剣になにを見てるんだ?」
「ソファーがさぁ・・・」
「ソファー?」
「うん。これ」

英二が指差したのは2人がけで小ぶりの赤いソファー。

「ラブソファーって・・・ちょっと恥ずかしい名前だなぁ」
「こーいうの欲しいなって思ったんだけど、結構いい値段すんだよねー」
「3万8千円か。2人で半分ずつ出せばなんとか・・・」
「マジ?半分出してくれんの!?」

とたんにカタログを放り出して飛びついてくる英二の、キラキラした目に笑いがこぼれる。
そういえば、フローリングの床は座るのも寝っころがるのも痛い、っていつも文句言ってるもんな。

「いいよ。その代わり当分はつつましい生活をしなきゃいけないけど」
「だいじょーぶ、節約する!毎日パスタにする!」
「それはちょっと・・・たまには違うものも・・・」

毎食パスタが出てくる想像をしてうんざりしてしまったところを英二が笑う。

「冗談だって。ちゃんとオムレツも作ったげるよん」
「うん、そうしてくれると嬉しいな」
「ね、ね、いつ買いに行く?」
「え?タマゴなら冷蔵庫に・・・」
「ちっがーう!!ソファーだって」
「ああ、それなら明後日の休みは?」
「オッケー!明後日ね!やったーソファーだー!」

派手に音を立てて俺の頬にキスしてきた英二は、今にも踊りだしそうな足取りでテーブルに向かう。
赤いラブソファーか。2人で座って丁度のサイズだからそう呼ぶのかな。
いや、待てよ・・・もしかして店頭でラブソファーくださいって言うのか?
・・・・・・。

「うっわ!なんじゃこりゃ。おーいしぃ、これって梅しそパスタじゃなくて、パスタ入り梅干じゃん・・・」
「ええっ!不味いのか?」
「美味いとか不味いとかじゃなくて、ひたすらすっぱい・・・」

ラブソファーのことなんて瞬時に頭から吹き飛ぶ。
慌てて口に入れてみた新作パスタは、確かにパスタが入ってる梅干のカタマリそのものだ。
顔を突き合わせて、すっぱいすっぱいと連呼しながらどうにか食べ終えた頃には、妙にハイな気分になっていて2人して大笑いする。

「なんかすっごい健康になった気分。オレ、こんなにいっぺんに梅干食べたことないよ」
「ごめん。いっぱい入れたほうが美味しいかなって思ったんだ」
「ま、ソファーの件があるから、今日はなんでも許す!」
「ありがとう。実はもうひとつ作ってみたいパスタがあって・・・」
「う。・・・作る前にオレに相談しろよ?」

納豆パスタを作ってみたいんだけど・・・これはダメだって言われそうだなぁ。

(ColorWorld番外編小話)



■■■気持ちいいもの■■■

久々部活の無い日曜日。
お昼も食べ終わって満腹になったところで、かわりばんこにPS2のサッカーゲーム。
今は大石がコントローラーを握って奮闘中、オレはベッドに横になってそれを鑑賞中。
ふむふむ。やっぱオレのが上手いけど、大石も最近めっきり腕をあげてきたな。
ほら、綺麗なカーブを描いてシュートがゴールに突き刺さる。
画面いっぱいのGOALの文字。これで勝ちは決まったな。

画面からほんのちょっと視線をずらすと大石の後頭部が見える。
実はさっきからゲームよりもこっちが気になってんだよね。
大石の頭って形いいんだ。
でもって、髪が短いせいかもしんないけど、頭ちっちゃく見えるんだよ。
触るとジョリジョリして、それがまたなんともかんとも。

あー、なんかムショーにあのまんまる頭に触りたくなってきた。
おっ、試合もタイミング良くちょうど終わったぞ。

「勝ったぞ、英二。ほら、次・・・」
「いやー、おめでとう!大石くん!!」

ベッドから飛び降りて大石に抱きつく。
ついでみたいにさりげなーく頭を撫でた。

「まだ予選だぞ?敵も弱かったし、そんなに喜ぶことじゃ・・・」
「予選だろーがなんだろーが、勝ったら喜ばなきゃ!」
「そりゃそうかもしれ・・・う・ぶっ」

撫でたくらいじゃ物足りなくなって、膝立ちで大石の頭をがばっと胸に抱きこんだ。
うわー、やっぱ頭ちっさいよ!
大五郎の半分くらいしかないんじゃん?

「え゛い゛・・・苦・・・い゛よ゛・・・」
「いーから、もちょっと抱っこされてろー」
「・・・窒・息・・す・゛る゛」

なんか抱っこするのに、丁度いい大きさだなー。気持ちいー。
でも頬ずりはジョリジョリがちょっと痛いなぁ。
・・・って、せっかく人が浸ってんのになんで大石は暴れて・・・・・・あ。

「ぶはーっ・・・。く・・・苦しかった・・・」
「ごめん、ちょびーっと加減を忘れてた。にゃっはっは」
「・・・まったく。うっかりで殺されたらたまんないぞ」
「だいじょぶだって。次はちゃんと加減するからさ」
「・・・次?」

だって大石の頭って気持ちいーってわかっちゃったもん。見逃す手はないね。
危機感を持った大石が、そろーっとオレから離れようとしたけどそうはいかない。
だいじょーぶ、大石に死なれちゃ困るもん。ちゃんと息できるようにするって。
そんじゃもう1回、あの感触を味わうとしますか。せーの、とりゃっ!

(1万打お礼小話)



■■■七夕2005■■■

今年の七夕もあまり天気がよくないようだ。
重たそうな曇り空を見上げていた英二が、「また天の川が見れない」と文句を言っている。

「ここからじゃ見えなくても、どこか違う場所なら雲がないかもしれないな」
「あー、そっか。日本全国曇り空ってわけじゃないもんね」
「うん。沖縄とか南の方は晴れてたみたいだし」
「そんじゃ、そっちに住んでる人は、天の川見れてんだね」

厚い雲に覆われて、星どころか月さえ隠れてる夜空。
だけど、例えば飛行機に乗って何時間かすれば、綺麗に星がまたたく空が広がってるはず。

「なぁ、英二。いつか、天の川見に行こうか」
「朝のうちに天気予報を確認して?」
「うん。遠い所だったら電車とか飛行機に乗ったりして」
「いいなー、それ。すっげー楽しそう」

天気予報で晴れてる場所を探して、行き先のチケットを買って。
荷物は最低限でいい。着の身着のままで天の川を見に行く旅。
俺の隣には今みたいに楽しそうに笑う英二がいて。

「いつか、なんて言ってると夢で終わっちゃいそうだから、いつにするか決めよーよ」
「そうだな。10年後とか」
「うーわ、気が長っ!」
「10年は長いかもしれないけど、そんな約束がひとつくらいあってもいいだろ?」
「へへ、そっか。そだね」

思いを馳せるように瞳を閉じる英二の横顔を眺めた。
俺達はまだ子供で、先のことなんか何ひとつ見えない。
10年後なんてそれこそ想像もつかなくて。
それでも2015年の七夕に、星空を見上げて嬉しそうに笑う英二の姿だけは、はっきりと頭に浮かぶんだ。
だから夢なんかで終わらせない。

「天の川、一緒に見ような」
「うん」

降るような星空の下で、2人で天の川を見上げよう。
10年後に、必ず。



■■■足■■■

暖かい日曜の午後。
大石はベッドにうつぶせてテニス雑誌を眺めていた。
ほんの少し横を向けば持ち主と同じ陽気な足が歌うように弾むように上下している。

ふわふわした風が部屋を行き過ぎる午後。
菊丸はベッドにうつぶせてテニス雑誌をパラパラとめくっていた。
雑誌よりも気になるのはすぐ横にある白いソックスをはいた微動だにしない足。

あんまりゆらゆらぴょんぴょんと跳ねるから、つい気になって目をやってしまう。
英二はその体のどこもかしこもとても楽しそうだ。

本人と同じで几帳面で真面目そうな足。
飛びかって捕まえてくすぐってやりたい。

「うわっ!?」
「ほえっ!?」

相手の足に同時に手を伸ばして、お互いにビックリしたまま足を掴んでしまい、そのままもつれて2人してベッドから転がり落ちる。
あっけにとられたように顔を見合わせて、2人同時に弾けるように笑い出した。



back