■■■2008正月■■■

「あーつまんないぃぃ・・・」
お正月番組も見飽きてしまい、マンガでも読むかと部屋に戻ったものの、1度読んでいるマンガは退屈しのぎにはならず、英二はの2段ベッドで暇を持て余しゴロゴロと寝返りを打った。
いつもなら大石と初詣に行ってその帰りにどこかへ遊びに行くところだが、残念なことに大石は去年の暮れから家族で父方の実家へ帰省してしまっている。
他の誰かを誘って遊ぼうにも、不二は冬休みの間家族でイタリア旅行だし、桃も親戚の家へ行ってしまっている。
「こんなことなら、ばーちゃんと温泉に行けばよかったなぁ・・・」
旅行が決まった時、一緒に行かないかと誘ってくれたのに、見たいテレビがあって断ってしまったことを今更後悔しても遅い。
「しゃーない、にーちゃんでも誘ってレンタルのDVDでも借りに行こっと」
よっ、とかけ声をつけて布団から体を起こし、2段ベッドのはしごを降りる。
ふと机を見ると、置きっぱなしにしていた携帯電話のランプがチカチカと点滅しているのが見えた。
「あれ?メールかな?いつ来たんだろ」
携帯を手にすると『メール 1件』の文字。


送信者:大石秀一郎
件名:あけましておめでとう
本文:
英二、あけましておめでとう。
高等部ではまた球拾いからスタート
だけど、早くレギュラーを取れるよう
頑張ろうな。
今年も1年よろしく。
PS:ところで、お土産に大きなエビを
貰ったから、今うちにエビフライがあ
るんだ。
英二の分もあるんだけど、来ないか?

英二は携帯電話を閉じると、慌てて外出用に服を着替える。
ダウンジャケットを引っ掴んで、家族が止めるのも振り切って外へ飛び出した。



■■■パートナー■■■

澄んだ空気の夜空には無数のまたたく星。
そして英二の瞳も星を映して輝く。
ただ純粋に、それを綺麗だなと思う。

英二の瞳は昼には青空を映し、夜には星をきらめかせる。
そして時に俺を映す。
嘘はつけないなと思うのはこんな時だ。

よく周りの人たちから誠実で真面目でとの評価を受けるけれど、
実際の俺は必要とあれば嘘もつくし、誰に対しても誠実でいられるわけでもない。
努力はしてもそりの合わない人間はいるし、よくない感情を持つ事だってある。
頼まれごとを引き受けてしまうのだって、ひとつには確かに相手が困っているからというのもあるけれど、その裏にいい人だと言われ感謝されたい自分もいるのだ。
そんな偽善的な自分に嫌気が差すこともしばしばで、体よく断っている級友を見ると羨望や嫉妬を感じてしまうのだから手に負えない。

そんな時に英二は、『大石ってバカだよな』 って笑う。
それは決して嘲笑や侮蔑ではなくて、かといって同情でもなくて。
ただバカだからバカだと言ってる、それだけの意味で。
そして俺はすっとつかえが取れた気がして気持ちが軽くなる。

かっこをつけたりカラ回ったり意地を張ったりするその全てを瞳に映して、そこにいる俺を見ている英二。
かけがえのないものを見つけたと思う瞬間。

俺はまだ世の中から見れば充分すぎるほど子供で、なにもわかってなんかいないのかもしれない。
だけど、これだけは断言してもいい。
英二は俺にとってかけがえのない大切な、たったこの世にひとりのパートナーだ。



■■■瞳の中の青空■■■

驚きで大きく見開かれた英二の瞳。
その瞳が鏡のように俺を写していた。
滑稽なほど切羽詰った俺の顔と、まるきりそぐわない背後の空。
夏の空は青色の絵の具をこぼしたような鮮やかさで、そこに綿のような白い雲がふわふわと浮かんでいる。
冗談を言って笑って過ごしているのが似合うはずの空の下で、俺だけが不協和音をかもしだす。


特別なきっかけがあったわけじゃない。
ただ、いつもみたいに英二が笑った、それだけだ。
晴れた午後の屋上で、気持ちよさそうに大きく伸びをした英二が、制服が汚れるのもかまわず仰向けに寝転がって太陽のまぶしさにほんの少し目を細め、そしてそのまま俺に笑いかけた。
突き上げるような衝動は今までも、何度もやり過ごしてきたはずだ。
押さえつけて、押し殺して、そうしてこれまできた。
壊したくない、失くしたくない、その一心で。
それなのに。


押さえつけた腕から英二の熱が伝わってくる。
抗いもしない腕を力ずくで押さえつけるだけでは足りず、覆い被さる。
英二がどこへも逃げられないように。
・・・俺から逃げられないように。


ただ一緒にいたいと、いつまでも自分の隣で笑っていて欲しいと、それだけだったのに。

英二。
俺は、
英二が。

堰を切った想いは出口を求めて俺の中を駆け巡る。
なのに、喉元になにかがつかえたように声が出ない。
こうまでしてまだ、どこかに迷いがあるのか、・・・それとも恐いのか。


重なり合っていた英二の視線が外される。
俺の背後の空を見上げた英二がぽつりと呟いた。

「夏の空ってさ、どこまでも青で、なんか気持ちいいよね」

瞳に写した青空を閉じ込めるように、ゆっくりと英二が目をつむる。
まるで何も起きていないかのように。

「なのに大石は、」

そして俺は続く言葉を待つ。
胸の奥底で育ちすぎた想いを殺さなくてはいけないなら、せめて英二の言葉で。

「なんでそんなに悲愴な顔してんだよ」

揶揄するように笑う顔は、どこか泣き出しそうに見えた。

「英二」
「ばーか。1人で煮詰まるなっての」

思いのほか強い力で拘束を解いた英二の腕が、俺の背に回されて、そのまま強く抱きしめられる。
全身で感じられる英二の熱に喉のつかえも溶けて消える。

「好きなんだ、英二」
「うん」
「好きだ」
「・・・うん」

胸の中のありったけを伝えたくて、何度も繰り返し告げる俺にはもう空は見えないけれど。
瞳に青空を閉じ込めた英二が腕の中にいるから。


                                          (こまめさんの日記絵に萌えてできたお話)
→back