理想のカ・ラ・ダ




学校帰りにまっすぐ大石のうちへ来た。
今日はこのまま泊まるつもりで用意は万全。
家に到着するなり汗と埃まみれのオレは風呂を勧められて、いまはスッキリサッパリ気分爽快。
夕食までの間をクーラーの効いた大石の部屋で気持ちよーく寛いでる。
これで腹さえグーグー言ってなきゃ、ソッコーで寝れちゃいそうな勢いだ。

ガチャっとドアが開く音がして、オレの後に風呂に入ってた大石が部屋に入ってくる。
暑いのか下はちゃんとパジャマのズボンを履いてるけど、上半身は裸。
首からタオルをかけて、着替え用のTシャツは手に持ったままだ。
「ふぅ、さっぱりした」なんてセリフを吐きながら、クーラーの風が来る部分に立った大石の、その背中に視線が釘付けになった。

半裸の大石なんて珍しくない。
だいたい、部室で着替えてる時はみんなパンツ一丁だし。
それでもこうして、明るい部屋の中だと、細かいところまで見てとれる。
広い肩幅とそれにつながるまっすぐ伸びた背中。
細いようでしっかり筋肉ののった腕。

・・・なんか、前よりガタイよくなってない?

Tシャツを着てる自分の胸板とか、袖から出てる腕だとかを大石のと見比べてみる。
背なんてそんなに変わらないのに、なんだかオレの方が細く見えるんだけど。

汗がひいたのか、Tシャツを着ようとした大石を「待った!」と止める。
「なに?」
不思議そうに聞いてくる大石に適当な返事をして、その側へ立った。
両手でだいたいの胸の厚さを測り、自分のと比べてみるけれど。
うーん。やっぱオレより大石のほうが体格いい気がする。
腕はどうだろうと思い、左手で大石の腕を掴んで持ち上げて、自分の腕と並べてみる。
二の腕、肘から先。どうみてもオレの方が細い。
納得いかずに唸ってると、比べられていることに気づいた大石がニヤリと笑って腕に力をこめた。
張り詰めてより顕になる筋肉。逞しい腕。
・・・・・・ムカツク。

「オレに内緒で、なんか特訓とかしてんだろー」
「そんなことしてないよ」
「んじゃーなんで大石の方が逞しいんだよ」
「うーん。体質・・・かな」
「そんなの許さーん!オレにも筋肉よこせっ!」

伸ばしてた腕でそのまま大石にパンチを繰り出したけど、握った拳はなんなく大石の手のひらに収められてしまう。
同じだけテニスしたり筋トレしたりしてるのに、この差はズルい。
おまけにその理由が体質だなんて、ぜーったい認めない。

「ひとりでカッコよくなろうったって、そーはいかないんだからな!」
「だから特別なことは何も・・・」
「オレも筋トレ増やして大石よりもムキムキになってやるー!」
「えぇっ!それはちょっと・・・」
「なんだよ、文句あんのか?」

そうだ、乾に言って、筋肉強化メニューを作ってもらおっと。
今に見てろよ!と大石を見れば、なにか考え込むようにしてからすっと顔を上げた。

「あのな、英二。筋肉って重いんだぞ?」
「そのくらい知ってるっつーの」
「英二は身軽なプレイスタイルが売りだろ?」
「あ・・・」

そうだ。ムキムキで体が重くなったら、アクロバティックができなくなるかもしれない。
それは困る。でもオレだって男らしくカッコよくなりたい・・・。

「それに英二はすらりとしてるけどちゃんと筋肉ついてるじゃないか。無駄に筋肉のついてる体よりも俺はかっこいいと思うよ」
「・・・マジで?」
「うん。それに、例えばタカさんの体に英二の顔がくっついたとしたらどうだ?」
「タカさんに!?・・・うーん。想像できないよ」

タカさんといえば青学一の筋肉マンだ。
あのマッチョな体がオレの体だったら・・・なんかバランス悪いかも。
そういやタカさんは顔もマッチョ体型が似合いそうなかんじだもんなー。
強そうなムキムキの体って憧れるけど、やっぱ向き不向きってのがあんのかもしれない。

「ホントにオレの体ってカッコいいと思う?」
「うん。しなやかだし俊敏そうでいいと思うよ」

そっか。それならいいかな。・・・とは思いつつ。
冷えたのか、目の前で盛大にくしゃみしてる大石の体をもう1回眺める。
大石はムキムキでもマッチョでもないけど、なんかこう、カッコいいんだよな。
やっぱムカツク・・・。

Tシャツを着ようとして無防備になってる大石の背中へ、思いっきり平手打ちを喰らわした。
バチン!といういい音が響いて、続けざま大石の悲鳴があがる。
痛い!と文句を言ってる大石を無視して、着たばかりのTシャツの背中を捲り上げた。
逆三のカッコイイ背中にカッコ悪い赤い手形。
プラマイゼロってことで、これで勘弁してやるか。




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