プレゼントの正体は




英二がそのアクロバティックで突拍子もない思考回路で、とんでもないことを言い出すのはいつものことだ。
さすがに3年も一緒にいればある程度は慣らされる。
だから今回のことだって少しは予想してたんだ。
・・・いや、予想というか、期待というか。
やっぱり俺だって健全な青少年なんだし。
そういうことを考えたっておかしくはない、・・・はずだ。
それが妄想で終わればなんの問題もない。
問題は妄想が現実になった時だ。


ことの起こりは29日土曜日。
部活が終わって、日誌を書いて、泊まりに来るっていう英二を連れた帰り道。

「おーいし、明日の大石の誕生日なんだけど」
「うん?」
「今年はねー、とっておきのスペシャル・プレゼント!!」
「スペシャルか、すごいな。で、なにをくれるんだ?」
「ひ・み・つー!明日の夜まで待ちなさーい」
「ははは、わかった。楽しみにしてるよ」
「そーそー。期待してて。お金じゃ買えないイイモノだからさっ!」

その時俺は、英二の『お金じゃ買えない』のセリフに、うっかりあらぬ妄想をかきたてられてしまった。
だって、普通のプレゼントならお金で買えるじゃないか。
お金で買えないものといえば。

頭の中では、しどけない姿の英二が、「プレゼントはオレだよ」なんて誘っている。

はは、ははははは・・・。
まさか、そんなこと、あるわけないって。
だいたい、俺達は、こないだ初めてその、キスとかしたばかりで、それなのに、そんな。

頭を振って妄想を散らす。
英二は手先が器用だから、何か作ってくれたんだろう。きっとそうだ。
それとも、実は母さんとこっそり共謀して、お手製の豪華ディナーでも出てくるのかもしれない。
それは楽しみだ。
・・・楽しみなんだけど。でも、プレゼントが英二ってのもいいよなぁ・・・。

「おーいし?」
「あ?あ、ああ、英二。なんだ?」
「・・・いーや、なんでもないけど」

なんとなく英二の視線が意味ありげに見えてしまうのは、妄想と現実がごちゃ混ぜになっているせいだろうか。
まさか、俺の妄想が英二に伝わってしまったなんて、ことはないよな?
ほんの少し後ろめたい感を伴って、そっと伺い見るけれど、英二は特にいつもと変わらない。
どこかで聞いたような歌を口ずさみながら、楽しそうに歩いてる。
ほっとしたのと同時に、なんとなくがっかりもして、どうにも複雑な気分のまま家に帰りついた。

帰るなり、お邪魔しますの挨拶もそこそこに、英二は迎えでた母さんに何か耳打ちした。
その後で一緒に台所へ行く2人を所在なく入り口で眺めていたら、俺に気づいた英二に追い払われてしまった。
仕方なく先に部屋へ上がり、制服を着替えながら、お手製ディナーの予想は当たりかな、なんて考えていた。

晩御飯の食卓には英二が得意とするふわふわオムレツが並んでいた。
豪華とはいかないけれど、たぶんこれが英二の誕生日プレゼントなんだろうと思ってた。
ケチャップで俺の似顔絵が描かれていたオムレツは美味かったし、充分に満足した。
だから、部屋に戻ってからプレゼントのお礼を言おうと思ったんだけれど。

「英二、オムレツがプレゼントだったんだな。ありがとう。美味しかったよ」
「へ?なーに言ってんの。大石の誕生日はまだこれからじゃん」
「え?だって、お金で買えないって言ってたから、何か作るんだと思ってて・・・」
「オムレツは帰り道で思いついただけ。言ってみりゃオマケ?」
「そう、なのか?」
「プレゼントはもっといいもんだって!期待してなさい!」

『いいもの』 と 『期待』 。
せっかく静まっていた妄想が再び頭を持ち上げてしまう。

「なぁ、英二。せめてどんなものか、少しだけ教えておいてくれないか」
そうしないととんでもない想像が頭の中でどんどん育ってしまう。
「もちょっと待てば教えてあげるって。んーとね、あと3時間22分」
英二が時計を見る。
3時間22分経つと時計は0時を指す。
30日、俺の誕生日の始まりだ。

「頼む、英二。なんか落ち着かないっていうか、心の準備が・・・あ、いや、つまり」
「しょうがないなぁ。んじゃ、ヒント。プレゼントはこの部屋にあります」
「この部屋にって・・・」

そりゃ英二のカバンも制服も全部俺の部屋に置いてあるし、そうなればプレゼントだってここにあるだろう。

「ちっともヒントになってないじゃないか」
「んー、わかった。大石も考える時間が必要だし、教えてやる!プレゼントは目の前にありまーす」
「目の前にって・・・、え、英二!?」
「ふっふーん。当たり。さ、オレに何して欲しいか、ちゃんと考えとけよーん」

いくらさんざん妄想してたところでそれが現実になれば当然びっくりするわけで。
思わず声がひっくり返ってしまった俺を英二はニヤニヤしながら満足げに眺めていた。


そして0時が来るまでの間、俺は英二の真意を測ろうと思いつく限りの探りをいれた。
英二にして欲しいことなんて、頭の中にはちきれんばかりにある。
もうそれこそ、英二が許してくれるなら、あんなことやこんなことだってしたい。
問題は、そんな俺の頭の中身を英二がわかっているのかどうか、だ。

「なぁ、英二。何でもするっていうのは、例えばお茶持ってきてくれとか、部屋の掃除をしてくれとか、本買ってきてくれとか、そういうことか?」
「んん?パシリみたいなこと?別にいーよ、大石がそうして欲しいんなら」

俺のベッドにうつ伏せて、借りてきたというマンガを読んでる英二から気のない返事が返ってくる。
別にいいってことは、本来の目的から外れるけどかまわないってことだよな。
よし、それなら。

「本当になんでもしてくれるのか?その、例外っていうか、これだけはダメっていうのはないのか?」
俺の問いに英二がマンガから顔を上げた。俺の方を向いたかと思えば意味ありげにニッと笑う。
「例外はなし。なんでもOK。どんなことでも、ね」

妄想が暴走する。
頭の中の英二が、あんなことやこんなことを始めてしまう。
いや、だめだ。落ち着け。
例外は無しって言われたけれど、俺の頭の中身を知らないからそんなことを言ってるのかもしれない。
そうだ、予想すらしてなければ、例外もなにもない。

「・・・英二?」
「んー?」

しばし英二とにらめっこしてみるが、その真意はわからない。
なにかおかしそうにクスクスと笑う英二は、わかっているのかいないのか。
わかっててやってる、ような気もするんだよなぁ。

結論が出せないまま、刻々と時間が過ぎる。
マンガを読み終わった英二は、今度はテレビでお笑い番組を見ている。
うちに普段遊びに来てる時と少しも変わらず、テレビを見て爆笑してる姿には緊張感なんかカケラも見当たらない。
・・・これはやっぱり、妄想は妄想でしかないってことだよな。
ははは、そりゃそうだ。
いくらなんでもするって言ったって、そんなことあるわけないよな。

結論が出せて幾分すっきりしたところへ、母さんが英二の分の布団を持ってきた。
敷いてもらった布団にさっそく大の字になった英二は、しばらくすると眠そうに目をこすりだす。

「英二、そろそろ寝ようか」
「んー、そだね」

2人で並んで部屋を出て洗面所へ向かい、歯を磨いて顔を洗って、万全の寝支度をして部屋に戻ってくる。
なんだかいらぬ心配をしたというか、妄想をしたというか、そんな馬鹿なことで疲れた1日だったけど、あとは寝るだけだ。そう思ってベッドに入った、が。

「え・英二?」
「オレもこっちで寝るー」

もっと詰めろと英二が俺を押してくる。
待ってくれ、なんで英二がベッドに入ってくるんだ!?
これは、もしや、やっぱり、そういうことなのか!?

すっきりしたはずが振り出しに戻る。
悶々としたものを抱えて、妙な緊張感が体を硬直させる。

「あと30分ちょいだね。おーいし、して欲しいコト考えた?」
「え、いや、・・・・・・まだ」
「まだ、なーんも考えついてないの?」
「あー、うん」
「ふぅん。・・・ま、いっか。まだ時間あるしね」

英二が俺をじっと見つめてる感じがするけれど、緊張しすぎて振り向けない。
シングルのベッドは狭い。
いくら壁にくっつくほど寄ったところで、ちょっと身動きするだけで、足先や肩が英二に触れる。
これは行くべきか?行っとくべきなのか?
そうだ、英二だってそのつもりがなければ、ベッドになんか入ってこないはずだ。
本当にそうか?大丈夫か?
いやしかし。

しばらく真剣に考えた。
生まれてこの方、こんなに考えに考え抜いたのは初めてかもしれない。
そして結論は出た。

覚悟を決めた俺のすぐ横で英二が身動きした気配がした。
バクバクと波打つ心臓を深呼吸で押さえて、頭の中で一瞬にして段取りを組み上げた。
まずは隣の英二を抱きしめてキスをして。
鉄のように固まった体をどうにか英二の方に向ける。
腕を伸ばそうとして、手が止まった。

背中?

英二は背中を向けている。
なんか拍子抜けした。てっきり、こっちを向いてると思ったのに。
いや、もしかしたら緊張してて、それを誤魔化す為に背中を向けてるのかもしれない。
なんだ、英二も俺と同じなんだ。そうだよな、緊張するよな。

「英二」

緊張をほぐすように、できるだけ優しく声をかける。
返事はない。そうか、声も出ないほど緊張してるんだな。
大丈夫、俺も同じだよ。

「英二」

もう1度声をかけて、そっと肩に腕を回した。

「・・・ぐぅ」

ぐぅ?なんだそりゃ。って、まさか。
そーっと英二の顔を覗き見て、がっくりと力が抜けた。
寝ている。

こんなのはありなのか?期待に膨らんだいろんな所はどうしてくれるんだ英二。

脱力したまま、起こしていた体をベッドへ沈ませた。
微かに軋むスプリングの音に、寝返りを打った英二が俺に抱きついてくる。
スースーという気持ち良さそうな寝息が耳にくすぐったい。

こんなことなら、さっさとキスくらいしておくんだった。
と、後悔しても後の祭りか。
・・・いや、まだ俺の誕生日は始まったばかりだよな。
よし、今夜の決意は無駄にしないぞ。

覚悟しておけよ、英二。



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