海賊船 1




マスト上の見張り台で双眼鏡を覗いていた英二は、遠くの島影から現れた一艘の船に眼を留めた。
まだ遠すぎてはっきりとは見えないが、前面の帆だけを黒く染め抜いた船が航行している。
通常、船の帆は白い。
西国の跡部の船は船体も帆も漆黒だったが、ああいう船は珍しい部類だ。
なんとなく気になって、英二は黒い帆の船を双眼鏡でずっと追った。
進路を西南に取っているようで、近づいてくる船の姿が次第にはっきりと見えてくる。
「海賊船?」
前面の帆はただ黒いだけではなかった。
帆いっぱいに白で描かれているのは髑髏のマーク。
「ね、ね、慈郎、あれ、見て」
同じく見張り台で英二とは反対側で、監視という名の面白いもの探しをしていた慈郎に声をかける。
「なーにー?」
双眼鏡ごと振り返った慈郎は英二が指し示す方角を眺めて飛び上がった。
「あーっ!海賊船だー!!かーっこEー!!」
「やっぱそーだよね!」
大喜びで跳ねまわってる慈郎を置いて、英二は甲板への梯子を駆け下りる。
「おーいしー!大変、大変!!」
船尾にいた大石たちが英二の声で一斉に振り返った。
「どうした、英二」
「海賊船がこっちへ向かってくるよ!」
「海賊船?」
訝しげに首を捻った大石の隣で、「どうしてわかった?」 と柳が英二に問いかけた。
「帆にドクロの絵が描いてあんの!」
大変だと言いながらもやけに嬉しそうな英二がキラキラした瞳で答える。
「なるほど、それならば一目でわかるな」
「髑髏の帆・・・」
「オーソドックスな海賊じゃのう」
頷いた柳の横で大石が呆れたように呟き、仁王が苦笑う。
「ね、どうしよう?もっと近くに来たらこっちの船に乗り込んで来るかも!?」
「その時は迎え撃たなくてはならないな。ところで王子、ずいぶん嬉しそうだが?」
「だって!」
英二が握りしめた拳を振りかざし、力一杯に主張した。
「海賊船って初めて見たんだもん!ドクロの帆だよ?子供の頃、絵本で見たのと一緒だし!」
「確かに珍しいかな。今まで海賊に遭ったことは何度かあるが、わざわざ髑髏の旗や帆を挙げている海賊船っていうのは見たことがない。英二、双眼鏡を貸してくれないか」
「ん。あっちの方だよ」
英二が北東の海上を指さす。
例の海賊船は肉眼でやっと点のように見えるまでになっている。
しばらく双眼鏡で船を眺めていた大石に柳が 「どうだ?」 と問う。
「どこからどう見ても海賊船だ」
だけど、と大石が続ける。
「乗っているのが本物の海賊かはわからないな。船の持ち主のジョークじゃないのか?」
「本物の海賊どもは普通の船を装って目立たんようにしとるしの。遠目で海賊じゃって知れたら獲物に逃げられる」
「えーっ、つまんない・・・」
ぶうっと膨れた英二に笑って大石が双眼鏡を返す。
「進路はこちらに向けてるようだから、もう少し近づけば本当のところがわかるよ。もう少し見張っててくれないか」
「わかった。ね、大石、本物だったら戦ってお宝を貰おうね!」
勇ましい発言とは裏腹に、鼻歌交じりに英二が見張り台へと戻っていく。
その後ろ姿を見ながら、柳は 「本物である確率、18%」 と小声で呟いた。



**



海賊船の全貌が肉眼でもはっきりと見えるようになったのは、それから2時間後だった。
大石たちの船は元の針路のまま進んでいたが、海賊船は途中から明らかにこちらに向けて航路を変更していた。
すでに双眼鏡なしでも乗っている者の様子がどうにかわかるまでに近づいている。
「やっぱり海賊だったね!」
「かっこEー!あの船乗りたいC−!」
大喜びしている英二と慈郎の横で、大石と黒羽は困ったような顔で海賊船を眺めていた。
「なぁ、大石。あれって本物だと思うか?」
「・・・本物だとしたら、かなり基本に忠実な海賊だろうな」
海賊船の甲板には船長らしき男が腕組みをして踏ん反り返っているが、その格好は絵本から飛び出した海賊そのままだ。
正面に髑髏の刺繍がある黒の帽子を被り、赤い丈の長い上着と胸元にフリルたっぷりの白のタイが海風に揺られている。
「大石、おかしな奴らにはあまり関わらない方が賢明だ。針路を変えてもいいか?」
英二の代わりに見張り台に上っていた柳と仁王が戻ってきた。
「それが・・・」
大石が視線で英二と慈郎を指すのを見て仁王が笑った。
「あれだけ喜んどるのを無下にできん、ちゅう訳か。ここんとこ平和な航海じゃったし、久々のイベントちうところじゃな」
「ふむ。奴らが本物の海賊だとしてもこちらに被害が出ることはまずないだろうが、奴らは王子が期待してたような宝は持っていないと思うぞ?」
「まぁ、それほど危険はないんだ、もう少し様子をみてみよう」
間近に迫って来た船を見遣りながら大石が言う。
こちらに向かって剣を振り回し、口々に威嚇の叫びを上げている海賊の子分たちはどう見ても弱そうだった。
おまけに、海賊船長を囲むようにして立っているその子分たちまでが、全員がこれまた基本に忠実な白黒の縞柄のシャツを着て頭には赤い布を巻いている。
手にしている剣も絵本の海賊と同じ三日月刀とくれば、大石も呆れて笑うしかなかった。





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