海賊船 2
船を横付けにしてきたレトロな海賊たちは、逃がすものかとこちらの船に鉤縄をかけてきた。
面倒ではあるが乗り込まれたら叩き出すくらいのことはしなくてはならず、大石たちは敵の出方を待つ。
「俺たちは泣く子も黙る銀華海賊団だ!ここで会ったが運の尽き、命が惜しければ金目の物を差しだして降伏しろ!」
海賊船の船長の口上に子分たちがやんややんやと盛り上げる。
一緒になって盛り上がってる英二と慈郎以外は白々としたやるせない空気が船を覆っていた。
「・・・名乗ったな」
「聞いたことの無い名だが」
大石の疲れたような呟きに返事をしながら、柳は目の前の道化者たちを眺めた。
そもそも海上にいて金品の強奪を生業としている海賊たちは、国で食い詰めた荒くれ者がほとんどで、揃いのコスチュームを着たり自分たちのチーム名を考えたりはしない。
もしも子供の頃に読んだ海賊の童話に憧れて現在に至るのなら、それはそれでたいしたものだと柳は思う。
通常は大人になるにつれ現実を知るものだ。
「船室に戻って昼寝しとるから、なんかあったら呼んで」
「抜け駆け禁止だ。俺も行く」
付き合ってられないとばかりにさっさと離脱しようとする仁王に黒羽が便乗する。
「こら!お前ら!怯えるとか慌てるとかしろーっ!」
海賊船の船長が痺れを切らしたように喚きだす。
降伏の意思無しと見て取ったのか、数人の子分がこちらに渡ってこようと鉤縄と渡り板を持ち出してきた。
「ね、ね、おーいし!あいつらがこっちの船に来る前に、向こうへ乗り込んじゃおうよ!」
「そーだ!行こー!!」
ノリノリな英二と慈郎が許可してくれと鼻息も荒く大石に詰め寄る。
その楽しそうな様子に大石も思わず笑ってしまった。
「そうだな、乗り込んでこられるのは迷惑か。よし、行こう。英二、慈郎も、手加減してやれよ」
「やったー!」
飛び上がって喜んだ2人がくるりと海賊船に向き直る。
そのまま敵が掛けた渡り板に飛び乗った。
「え?あれ、お前ら、ちょっと」
慌てたのは銀華海賊団だ。
まさか向こうから乗り込んで来るとは思いもせず、あわあわと顔を突き合わせ右往左往している。
「一番乗りー!」
素早く渡り板を走り抜けた英二が敵船の甲板に飛び込む。
ついでに着地点にいた海賊子分1人を蹴り飛ばした。
「二番だC〜!」
続いて慈郎も甲板に飛び降りる。
「な、なんだ、こいつらは。さては俺たちの怖さを知らないな。野郎共!遠慮はいらねぇ、やっちまえ!」
船長の掛け声にわらわらしていた子分たちもやっと我を取り戻した。
「よっしゃー、泣く子も黙る銀華海賊団、一番隊長の堂本行くぜアイーン!」
英二の前に三日月刀を持ったいかにもな人相の海賊が立ちはだかる。
「そんじゃオレは大石海賊団の一番隊長だもんね!菊丸英二、行っきまーす!」
「なにっ、お前らも海賊なのか!まぁ、いい。一番隊長と言えばお頭の右腕だ、相手に不足は無い」
剣を構えた相手に英二も腰の剣を抜く。
レイピアが陽の光を受けてきらりと光った。
銀華海賊団の威勢は5分も持たずに崩れた。
船長を大石が軽くいなし、一番隊長を英二が、二番隊長を慈郎がやっつけてしまうと、残りの子分達は剣を捨てて降伏した。
「なにとぞ、なにとぞお命だけはー!!」
土下座している一同を前に柳がやれやれと肩を竦める。
「どうする大石」
「もう少し待ってくれ。今、英二と慈郎が船内で宝探しをしてるんだ」
「こいつらが宝を持っていると思うか?」
「ないだろうな」
気が済めば戻ってくるだろうと大石が笑う。
そこへ噂の2人が箱を抱えて船室から出てきた。
「おーいしー、あったよ、お宝!」
「あったのか?!」
大石は素直に驚いていたが、英二の抱えてきた箱を見て柳は中身の見当をつけた。
蓋が半円状になっているそれは、絵本に出てくる宝箱だ。
服装だけでなく小物までとはたいした凝りようだと呆れを通り越して感心してしまう。
「宝が見つかったのならもう用はないな?船に戻るぞ」
「あ、ちょっと待って〜、柳〜」
慈郎が土下座している海賊船長の元へ歩み寄る。
「ねー、その帽子、かっこEーね。俺、欲しーなー」
「命を助けてくれるならなんなりと差し上げますです!」
「ホントー?やったー、うれC−!!」
帽子を取り、恭しく慈郎に差し出した船長に英二も駆け寄る。
「あ、オレもその赤い上着が欲しい!」
「え、上着・・・これは特注で結構お値段も張るんですが・・・」
渋る船長を柳が一瞥する。
「助かりたくはないのか?」
「あ!いや、差し上げます!どうぞ、頂いちゃってください!!」
ひっ、と短い叫びを上げて慌てて上着を脱いだ船長が、英二に上着を献上した。
「英二、慈郎、もういいか?」
貰った帽子や上着をさっそく身につけている2人に大石が声をかける。
「うん!戦利品も貰ったし!大満足!!」
「俺も〜!」
「よし、それじゃ戻ろう」
「「アイアイサー!」」
上機嫌で船に戻っていく2人の後を大石が続く。
柳はまさしく身包み剥がれてしまった哀れな海賊船長に同情する。
「悪いことは言わない。海賊稼業から足を洗うことだ。本物の海賊たちは腕が立つし、裕福な者は航海の時に必ず護衛を雇う。このまま海賊を続けていれば失うのは帽子や服だけではないぞ」
「ははーっ、お言葉胸に刻んでおきますー!」
再度甲板に額を擦りつけるように頭を下げた一同を見遣り、本当にわかっていればいいがと思いながら柳も船を後にした。
掛かっていた鉤縄が外され海賊船が離れて行く。
にこやかに笑顔で手を振って見送られ大石は疲れた笑いを浮かべた。
「おーいし、見て見て、お宝!キンピカだよ!」
英二が宝箱を開けて大石を手招く。
どれどれと箱を覗き込んで大石は苦笑した。
一目でニセ物とわかる、金メッキに色ガラスの宝石が散りばめられた王冠や、金色に塗られたコイン、ガラス玉を繋げたネックレスと、まるで子供のおもちゃ箱だ。
「ほら、大石、王様」
英二が大石の頭に王冠を載せる。
趣味の悪い安っぽい王冠だが、英二が喜ぶならこれも悪くないと大石は思う。
「似合うか?」
「似合う、似合う」
英二が笑い、その横では慈郎が腹を抱えて笑い転げている。
ちょっと疲れた気もするが、たまにはこんなイベントもいいかと大石も笑った。
→end